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コンビニエンスストアでの買い物の例 (in わかりやすいオートポイエーシス(自己生産))

 自己生産過程の例として買い物の過程を、小木曽(2007:6,27-31)の1.選択・2.変換・3.送信・4.受信・5.再変換・6.解釈というコミュニケーションを構成する6つの過程から分析する。ここでは、「コミュニケーション(comunication)を、情報の発信者が受信者に発信する情報を選択し、かつ、情報の発信者が受信者に送信できるように情報を変換し、かつ、情報の発信者が変換した情報を受信者に送信し、かつ、情報の受信者が発信された情報を受信し、かつ、情報の受信者が受信した情報を再変換し、かつ、情報の受信者が変換した情報を解釈する、という選択・変換・送信・受信・再変換・解釈の6種類の行為をすべて兼ね備えた情報の相互伝達過程」(小木曽(2007:6))と定義する。コンビニでの買い物という自己生産過程は、 社会システム・経済システム・文化システム・心理システム・生命システムといった自己生産システムが、互いに他の種類の自己生産システムと条件つき相互規定しあいそれぞれの構成素を自己生産することを通じて成立する。ここで、社会システムの構成素はコミュニケーション、文化システムの構成素は価値であり1)、経済システムの構成素には売買2)、心理システムの構成素には意志を含む、と定義しておく。
 まず、コンビニエンス・ストア(以下、「コンビニ」と略す)において、購買者が150円の「とろけるカスタードプリン」(以下、「プリン」と略す)を、コンビニの店員である販売者から買う過程をとりあげ、必要に応じて、コンビニでプリンを買う例以外の買い物の例もとりあげていく。

1 選択

 選択とは、情報の発信者が受信者に何を伝達するのか選択する過程である。この例での情報の発信者である購買者は、食品を買うのか、プリンを買うのか、どのプリンを買うのか選択して意思決定する。

 1−1 経済システムが心理システムを規定する過程

 購買者が何を買うのか選択する過程は心理現象であるが、購買者が購入する商品を選択する前提条件として、購買者の需要、販売者の供給、および、購買者の経済力がある。

 まず、購買者の需要、すなわち、購買者がプリンを買う必要が無ければ、「コンビニでプリンを買う」という売買が成立しない。つぎに、販売者の供給、すなわち、購買者が買いたくなるような商品を販売者が仕入れていなければ、この売買は成立しない。そして、購買者の経済力が不足している、つまり、購買者が150円の支払い能力を持っていなければ、この売買は成立しない。つまり、コンビニでの買い物を選択するうえで、心理システムは経済システムによって規定される。

 1−2 心理システムが社会システムを規定する過程

 「コンビニでプリンを買う」というコミュニケーションの前提条件として、心理システムとしての購買者が何を買うのか意思決定する必要があり、コミュニケーションを構成素とする社会システムは伝達する意志を選択してもらう点において心理システムによって規定される。

2 変換

 さて、購買者がプリンを買うと意思決定しただけでは、販売者は購買者が何を購買したいのかわからない。変換とは、発信者が受信者に意志を伝達できる書式に変換する過程である。購買者が販売者に「プリンを買いたい」という意志を伝達するためには、購買者の脳波でしかない「プリンを買いたい」という意志を、販売者に伝達できるように言語やボディ・ランゲージに変換する必要がある。購買者が「プリンを買いたい」という意志を「プリンをください」という日本語の会話に変換するためには、日本語の文法に準拠する必要がある。しかし、小木曽はコンビニで買い物をするとき、「プリンを買いたい」という意志を、「プリンをください」と日本語で発音せずに、購買したい商品であるプリンをレジまで持って行って販売者に渡し、かつ、100円玉2枚など、プリンの価格である180円よりも高額か(または180円ちょうどの)通貨を販売者に渡す、というボディ・ランゲージに変換して買い物することが多い。なお、小木曽がコンビニやスーパーマーケットで○×を買い物をする場合、「○×をください」と発音する替わりに、○×と通貨を販売者に渡して、 nEKOバック【を開く】を見せて「袋はいりません」と発音することが多い。

 2−1 心理システムが社会システムを規定する過程

 購買者が販売者に「プリンを買いたい」という意志を伝達できる書式に変換する過程は、心理システムとしての購買者の「プリンを買いたい」という意志を、社会システムの構成素としてのコミュニケーションに変換する過程である。

 2−2 文化システムが社会システムを規定する過程

 「プリンを買いたい」という意志を伝達できる書式に変換するためには、社会システムが言語の文法や商習慣などの文化システムによって規定される必要がある。仮に、「プリンを買いたい」という意志を言語などの伝達できる書式に変換できなければ、その意志を送信するという次工程に進むことができず、コミュニケーションは作動することができない。

3 送信

 さて、購買者がプリンを買うと意思決定し、かつ、言語などに変換しただけでは、販売者は購買者が何を購買したいのかわからない。送信とは、発信者が受信者に情報を送信する過程である。

 3−1 生命システムが社会システムを規定する過程

 購買者が「プリンをください」と発声するためには、横隔膜という筋肉や声帯を動かす必要がある。また、購買者がプリンをレジまで持って行って販売者に渡し、かつ、100円玉2枚を販売者に渡すためには、財布から100円玉2枚を取り出して販売者に渡すという筋肉の動きを必要とする。なお、コンビニで買い物するという対面状況ではなく、インターネットを通じて商品を注文して購買する場合では、「プリンを買いたい」という情報を送信するためには、そのために必要な手順が増える。

4 受信

 受信とは、受信者が発信者が送信した情報を受信する過程である。

 4−1 生命システムが社会システムを規定する過程

 購買者が「プリンをください」と発声した場合では、「プリンをください」という音声が販売者の耳に届き、かつ、販売者は「プリンをください」という音声を知覚する必要がある。購買者が「プリンと100円玉2枚を渡す」というボディ・ランゲージをした場合では、「プリンと100円玉2枚を渡す」というボディ・ランゲージを反射した光が販売者の目に届き、かつ、販売者は「プリンと100円玉2枚を渡す」という映像を知覚する必要がある。

 コンビニで買い物するという対面状況であれば、「プリンをください」という発声にしろ、プリンと100円玉2枚を販売者に渡すというボディ・ランゲージにしろ、販売者が受信できない可能性は低い。しかし、インターネットを通じて商品を注文して購買する場合では、通信回線の障害のため、販売者が商品を購買したいという注文を受信できない可能性がある。

5 再変換

 再変換とは、受信者が発信者が送信した情報を理解できる書式に変換する過程である。販売者が「プリンを買いたい」という音声を知覚したとしても、販売者は「プリンを買いたい」という音声の意味を理解できる書式に再変換する必要がある。なお、通常はこの再変換の過程は意識されることがないだろう。

 5−1 文化システムが社会システムを規定する過程

 もし、コンビニの店員=販売者が日本語を知らなかったならば、販売者は「プリンをください」という音声の意味が理解できず、販売者は「プリンをください」という発声を「プリンを買いたい」という購買者の意志であると再変換することができない。 また、販売者が「プリンと100円玉2枚を渡す」という映像を知覚したとしても、販売者は「プリンと100円玉2枚を渡す」というボディ・ランゲージ意味を理解できる書式に再変換する必要がある。コンビニの店員=販売者が日本の慣習を知らなかったために「プリンと100円玉2枚を渡す」というボディ・ランゲージの意味が理解できなかったとすれば、販売者は「プリンと100円玉2枚を渡す」というボディ・ランゲージを「プリンを買いたい」という購買者の意志であると再変換することができない。

6 解釈

 解釈とは、受信者が受信した発信者の意志を解釈する過程である。コンビニという販売店において、購買者がコンビニで販売しているプリンという商品を、100円玉2枚という当該商品の価格に相当する通貨を支払って購買しようとするこの事例の場合は、販売者は購買者の意図について深く考えずに自分は「プリンを販売すれば良いのだ」と、解釈することができよう。

 6−1 社会システムが心理システムを規定する過程

 前述してきた1.選択・2.変換・3.送信・4.受信・5.再変換という過程が作動することによって「プリンを買いたい」という購買者の意志を販売者が解釈することが可能になる。

7 次工程の作動

 販売者が購買者の「プリンを買いたい」という意志を理解できたならば、販売者は購買者に「プリンを売りたい」という意志を選択・変換・送信し、それを購買者が受信・再変換・解釈するというつぎのコミュニケーションが開始される。このように、購買者から販売者への「プリンを買いたい」という意志を伝達するコミュニケーションが成立することを要件として、購買者から販売者への「プリンを売りたい」という意志を伝達するコミュニケーションが作動し始める。このように、あたかも「コミュニケーションがコミュニケーションを生む」ように見えるコミュニケーションの生産が社会システムの自己生産過程である。ただし、この過程は「コミュニケーションがコミュニケーションを生む」といった、あたかも構成素が構成素を生産するかのような印象を受けるかもしれない。(単位体と構成素【へ】)そして、コミュニケーションから構成される社会システムは、購買者が販売者に「プリンを買いたい」という意志を伝達する前工程のコミュニケーションが、販売者から購買者への「プリンを売りたい」という意志を伝達する後工程のコミュニケーションを規定し、後工程は前工程に準拠している点において、社会システムは継起的には自己準拠システムである。

8 コミュニケーションが作動する要件

 コミュニケーションが作動するための要件には、その過程における情報エントロピー【へ】が少ないことがあげられる。

9 条件つき相互規定

 「コンビニでプリンを買う」過程は、経済システムが心理システムを規定し(=心理システムは経済システムに規定され)、心理システムが社会システムを規定し(=社会システムは心理システムに規定され)、文化システムが社会システムを規定し(=社会システムは文化システムに規定され)、生命システムが社会システムを規定し(=社会システムは生命システムに規定され)、社会システムが心理システムを規定する(=心理システムは社会システムに規定される)という相互規定の過程であり、これらの自己生産システムは多種の自己生産システムに規定される他者準拠システムである。

§注§
1)Parsons and Shils(訳1960:90)は価値−文化システムを「行為者によって行われる選択を導くところの、そしてまた諸行為者間に起こりうる相互行為(作用)の諸類型を限定するところの価値・規範・記号の組織である」と定義し、文化システムの構成素は価値であるとした。
2)Luhmann(訳1993:842)は「経済システムは、そのオートポイエシスの基礎的事象、つまりそれ以上分割し得ない、最終的な要素としてのコミュニケーションから成り立っている。この基礎的事象は支払い(Zahlung)である」、Luhmann(訳1991:41)は「経済の『単位行為』は支払いである」、Luhmann(訳1991:42)は「経済システムは支払いから成り立っている」と、経済システムの構成素は支払いであるとした。

§参考文献§

Copyright by 2013 Ogiso Michio (小木曽道夫), Revised on 28. Oct. 2013
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