ているのではないでしょうか。そのような人たちに対して「管理」の技法を伝授して何になるでしょう。技法を学ぶことは大切ですが、企業社会を全うに生き抜くためには、人事管理が企業や社会の中で果たしている役割を冷静に考える眼を養わねばなりません。これこそがノン・エリートの教養というものではないのでしょうか。
あれこれ悩んでいる時に、私は教育学の発展のことに思い至ったのです。昔の教育学は「教育する人」つまり先生(になる)のための教育学でした。けれども、この何十年かの間、教育される人を主体に据えた教育の理論と実践が台頭してきました。その中から、例えば、『被抑圧者の教育学』という名著も生まれています。このような新しい動向に力を得て、私は思いました。「管理する人」のための人事管理ではなく、「被管理者」のための人事管理を教えようと思ったのです。
こうして旗印ができました。それから十数年、講義の形がまとまってきました。その特徴は、企業経営よりはむしろ、被管理者の生活の視点から講義を組み立てているところにあります。例えば、最終回は女性労働を論じ、家事労働を中心とした男女の家庭生活のあり方で結ぶことにしています。このような講義形式は類がないかも知れません。それでも「被管理者のための人事管理」という旗を掲げながら、講義という名の探求を続けたいと思っています。
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