【専任教員の紹介の目次】

みつみぞ ひろゆき

三溝 博之

 また、市場経済の急速な発達により、町人を中心に衣食住にわたって贅沢を競いあったり、今で言えば余暇(レクリエーション)のための物見遊山や移動が制限されていたにもかかわらず、長期の旅行(例えば、お伊勢参りや湯治など)を楽しむ庶民たちもいた。
 現在の研究成果から見れば、「経済史から見た江戸時代」は非常に豊かで、平和な時代であったと言える。もちろん、飢饉や災害による生活の不安定さがなかったとは言えないが、農村においても都市においても、生活者の生き生きした姿が確認でき、近代社会が失ってしまったものがまだ生きている時代とも言えるのである。

 「先生のこの授業では、日本の経済発達に関して中世・近世・近代を舞台に、庶民レベルにまで触れながら行われる、経済学部の授業の中で歴史の分野に一番近い科目であると言えます。
 経済の発達は庶民のレベルで、政治とは別に早い段階で発展していたことが分かり、また「経済」という抽象的でつかみにくい部分を歴史の中で学び取れる講義であると思います。」
(『日本経済史T』)

 現在から見れば、江戸時代は300年も400年も前のことでずいぶん昔のことのように思える。しかも、テレビの時代劇などを見ていると、「ちょんまげ」を結ったお侍(武士)が刀を差していることをいいことに、農民や町民に対して威張りちらし、重い年貢を課して彼らを苦しめていたイメージが強い。確かにそういうことがなかったとは言えないが、最近の研究ではそういったイメージに対し、修正を迫る事実や現象が確認されつつある。時代によって当然見方も変わってくる。
 例えば、今のエコロジーブームを背景に、江戸時代には環境に優しい生活が確立していたとも言われている。生活必需品の多くが自然素材で作られていたため、最終的には土に還すことができ、公害も発生しなかったと考えられる。しかし一方で、新田開発などによる森林伐採の影響で、洪水の危険が増したという指摘もあり、実際にそれに関する「掟」も出されている。