【専任教員の紹介の目次】

ながい いちろう

永井 一郎

Ichiro Nagai

 私たちの思考方法や判断基準は、それがどんな時代を超えた普遍性を持つように見えても、すべて過去の人々が時間をかけて作り出したものです。しかも、その多くは長い歴史を通じて人々がその時々に最も望ましいと考えて追求し続けてきた結果です。
 今日の私たちの不安は現在の問題であると同時に過去に深く根ざしているのです。したがって、上に述べた思考方法や判断基準の根本的見直しには、現時点における検討だけではなく、歴史を遡っての検討も含まれていなければなりません。もっと一般化するならば、現在の社会や人間を理解するためには、とくに私たちが直面している問題を正確に把握するためには、自分自身を歴史的に再検討する必要があるのです。
 このように、自分のこととして自分を通して過去を見ることによって、今私たちが抱えている不安を一部分でも解明できるのではないか。そう考えて私は毎年の授業を組み立てています。

 「内容は高校の世界史の延長で、丁寧に説明されるので分かりやすい。大まかに中世から産業革命期までの西欧経済の変化が主な題材です。
 毎回出席しないと単位を取るのは難しい。試験はなく毎回のペイパーが平常点になるからです。
 私語には厳しい授業ですが、とても大学の講義らしい講義です。」
(『経済史の基礎』)

 何かよくわからない不安を感じている人が最近増えているように思います。私の授業に出席している学生諸君の間でもこの傾向がはっきり見られます。この不安の原因は何なのか。またどうすれば克服できるのか。解答は容易に見つかりそうにありません。私自身同じような不安感にとらわれて考えあぐねています。
 しかし、まったく手がかりがないわけではありません。ほぼ確実なのは、これまで何の疑いもなく用いられてきた思考方法や判断基準が大きな根本的問題を含んでいることに私たちが気づいたということでしょう。とすれば、今私たちは何をしたらよいのでしょうか。とりあえずの試みですが、私は日常生活の中で自分たちが何気なく下している判断を取り上げて、なぜそう考えるのか疑ってみるのがよいと思います。また、これが歴史に興味を持つ者にとって大切な仕事であると考えています。