【専任教員の紹介の目次】

のだ    たかお

野田 隆夫

 産業革命の後、経済が成長して資本主義経済と呼ばれる段階になると、好景気と不景気が交互に現れるようになり、恐慌と呼ばれるひどい不景気では、多くの人々が路頭に迷い、悲惨な情景が生まれました。これを見て、19世紀にマルクスという経済学者は、資本主義経済には大きな欠陥があり、いずれ壊れるだろうし、早く壊して新しい経済のしくみ、社会主義経済に変えるべきだと考えました。しかし、他の経済学者の多くは、不景気は風邪のようなもので、経済には自然治癒力があり、ほっておいても治る、と楽観的でした。
 ところが、1929年、アメリカでの株価の大暴落を端緒として、世界が「大恐慌」に陥り、楽観視できるどころか第2次世界大戦という破滅への道を進むことになります。
 こんな中で、イギリスのケインズは、不景気という資本主義の病はほっておくと大変なことになる可能性があり、ちゃんと人間の力で治癒すべきであり、それが可能であると考え、従来とは違った処方箋も提案しました。しかし、現在ではこのケインズの処方箋が有効なのか、副作用はないのかという議論から、もっと経済の治癒力を信頼すべきであるという考え方も強くなっています。
 私の担当するマクロ経済学の授業では、以上のことが「前置き」として語られます。

 店の主が「景気はどうですか?」と訊かれ、「ぼちぼちですね。」と答えるとき、この景気という言葉は、この店の売れ行きの状況、もうかり具合を指します。それに対して、「景気を浮揚する強力な政策を実行します。」と政治家が言うとき、この景気は日本経済全体の調子を指しています。
 経済全体の調子を診断するためには、全体をまとめた何らかの目安が必要であり、百貨店売上高とか住宅着工数といったものが使われますが、その中の本家本元というべきものが国内総生産(GDP)です。このような目安で経済全体の景気を診断し、人々を代表して政府が対策を立てる、ということが現代では当然のこととされています。しかし、これが常識となったのは、そう遠い昔のことではありません。