研究計画の概要(平成16年度〜平成17年度)




○期間を終了したこれまでの研究と今回申請の研究との関連性
 平成11年度に採択されたプロジェクトでは、國學院大學にこれまで蓄積されてきた膨大な学術資料の内、特に保全の緊急性があり、かつ学術資料として利用の要望が高かった画像資料の再生活用、資料化の研究を進めてきた。5ヶ年間に、劣化画像の再生ならびに保存法に関する研究を基盤にして、考古学・歴史学・宗教学・民俗学・文化財学などの諸分野から画像資料に関する資料論的な研究、画像化されている個々の事象やものについての分析、さらに画像資料がもつ社会的な価値などについて、フォーラムやシンポジウム、研究会などで議論を深めながら研究を進めた。同時に実際の処理作業を進め、その成果は、画像資料目録や研究報告、事業報告といった印刷物として刊行するだけではなく、逐次、インターネット上でも公開することで研究の高度化をはかってきた。この5年間で画像資料研究は、デジタル化作業を基盤に飛躍的に進展したが、さらに本プロジェクトを継続することで、これを基にした画像資料データベースの構築や人文科学資料全体の中での再検討といった研究を進めていく。國學院大學には日本の祭祀・信仰、あるいは歴史的に進行した固有の考え方・思想である神道、さらに習合した仏教、儒教などに関する、文献・考古・民俗資料やその研究者の資料が本研究所をはじめ、図書館、考古学資料館、神道資料館、折口博士記念古代研究所などに、他に類を見ない学術資料コレクションとして存在する。これらの人文科学資料を総合的に関連付けながら研究をすすめ、新たな人文科学の構築をめざすことになる。5ヶ年の成果を基にして、2ヶ年で先端的な人文科学の研究分野の開拓を目指すのが、もっとも重要な関連性である。継続して実施する意義 5年間の研究のなかで、劣化画像として再生化を行なった資料は約1万4000点に及び、これらをさらに高度に学術資料として活用するために2年間の継続が必要である。具体的にはデータベースの構築とその運用による、画像資料を視点とした日本文化研究という新たな分野の確立をめざすもので、我が国における人文科学の再構成に寄与できることに意義がある。2年間の継続の中で、大学が保有する学術資料全体を見すえ、その中で画像資料の位置づけを行なうのは、人文科学の再構成についての試金石となる。また、画像データベースの公開や画像資料研究の進展にあい俟って、劣化画像の価値について広く認識を深め、地域史・文化財研究をはじめとしてさまざまな分野の研究深化に寄与できるところに意義がある。研究組織の特色 共同研究プロジェクトの主体となる日本文化研究所は、昭和30年に設立されて以来、専任・兼担の研究者を置き、これを中心に他機関研究者、若手研究者を組織化して複数の研究プロジェクトを進めてきた。これによって神道・日本文化に関する多くの研究業績をあげるとともに、本学における研究推進組織の中心的な役割を担うことができた。さらに平成14年度には大学院文学研究科、本研究所のCOEプログラムとして策定され、その研究組織は全学的な体制となった。従前以上に学長ならびに本研究所長のリーダーシップによって、大学院文学研究科など学内機関はもとより、他大学等研究機関の研究者、若手研究者を組織し、研究の継承を保持できるところに特色がある。事務体制も研究所には事務課が設置されており、庶務・経理業務も課長をはじめとする専任の職員が任にあたっている。当該共同研究プロジェクトは、以上の研究組織をもって推進していく。

○研究の背景となる研究領域の進展状況等
 東京国立博物館や国立歴史民俗博物館などで実施されているデータベース・検索システムの作成は博物館所蔵の資料を検索する目的や、日本にある一定の資料の情報を収集するには効果的である。こうしたデータベースの作成は他の機関でも多く採用されているところであり、現状においては徐々に画像データベースの構築が進んでいる。本事業ではこうした研究情勢はもとより、単なる人文科学内の単分野における画像検索システムだけではなく、最終的には現在我が国でも採用が見込まれているCIDOCガイドライン(国際博物館会議のドキュメンテーション委員会が開発した博物館資料情報のための国際ガイドライン)などを見据えて、国際的な利用を可能とする基準を満たし、加えて本学の特色である神道や民俗学といった分野の学術資料について、分野を縦断した利用を可能にすることで人文科学全体の研究促進に貢献することができる。また、5ヵ年にわたる本事業の諸活動を通じて、各地の教育委員会・博物館・神社などでの劣化画像・古写真の保存・再生資料化についての取り組みの重要性が喚起できたことは大きな進展であり、さらに2ヵ年の研究によってこれら機関における劣化画像・古写真研究のモデルを示すことができる。

○研究内容
 本事業では学内外に所蔵されている劣化画像・古写真資料の再生デジタル化による資料化が進み、これらを学術資産として捉えなおすことを実践してきたが、今年度以降は5ヵ年にわたる研究成果を基盤として、画像データベースの構築を進める。さらに画像資料を本学所蔵の神道資料・図書資料・考古資料などの多分野にわたるあらゆる学術資料(文字資料・造形資料含む)の中で位置づけ、人文科学の再構築を行なっていく。國學院大學は、とくに考古学や民俗学、神道学、歴史学、宗教学などの人文分野では、多くの研究者を輩出し、博士号授与数も国内大学で最上位に位置している。こうした学術的特質を持つ大学において、従来から研究の進んでいた文字記録資料や造形物資料に加え、画像資料を学術資料として位置づけてきたのであり、具体的にはこうした画像資料について、本学図書館・考古学資料館・神道資料館・折口博士記念古代研究所所蔵資料と関連させ、人文科学資料全体を捉えなおすことが中心的な研究内容である。

○達成目標
 当該プロジェクトは学内外に所蔵されている劣化画像・古写真資料を再生し資料化することで、これを学術資産として捉えなおすことができ、大きな成果があがった。再生・資料化した劣化画像は、我が国の人文科学ならびに文化財保護の進展に寄与できるもので、16・17年度には共同研究機関等を一部変更して、次のような研究方針と目標で継続する。

1、平成11年度から15年度にかけて再生保存処理を行った劣化画像資料については、その一部を印刷物やWeb上で公開し、学術研究・文化財保護上の共有資産化を行ってきたが、これを、CDなどによる電子媒体化も含めて加速して進める。共有資産化にあたっては、データベースとしての機能を強化していく。

2、平成15年度に本学の保管あるいは収蔵されることになった宮地直一博士資料、他機関に一括貸出を行っていて平成15年度に返却された大場磐雄博士資料など、劣化画像資料の再生と資料化の作業を継続する。

3、学外機関・施設などが所蔵する劣化画像コレクションに関する情報収集ならびに連携を強化するとともに、産学共同による画像資料の再生活用・資料化に関する機器・ソフト開発を進展させる。

4、当該プロジェクトのホームページの英語版・中国語版も作成したが、他言語版も随時作成し、国際化を進展させる。

5、5年間のプロジェクトで行ってきた劣化画像の再生活用と資料化に関する研究成果を中核にして、図書館・考古学資料館・神道資料館・折口博士古代研究所等に所蔵されている学術資料全体を包括的に連関させて研究を進める組織・システムを、当該プロジェクトの継続年次(2ヶ年)で完成させる。

6、上記5による学術資料全体を総括的に活用する組織・システムの研究を踏まえて、平成18年度には、渋谷キャンパスの再開発と連動させて、新規学術フロンティア事業として仮称「國學院大學学術センター・総合資料館」の建設ならびに「近代学術資産の再構成と活用に関する研究(仮称)」の組織化と始動を計画している。

○共同研究の体制
 大学院に加え図書館・考古学資料館・神道資料館・折口博士古代研究所との共同研究を行う。これらの機関が所蔵する諸資料の特質を捉えながら資料相互の連関性を明らかにしていくことが重要で、共同研究は欠くことができない。

○期待される研究成果
 従来、人文科学分野では文字記録資料、実物資料を主な資料として研究を進めてきたが、5ヶ年にわたる画像資料の再生・資料化とこの過程での研究の深化によって、これが重要な資料であるとの認識が深まった。写真技術が我が国にもたらされて100年余を経過した現在、全国各地に多くの劣化画像・古写真が残されており、本研究プロジェクトを継続することで、これらの有用性についての認識をさらに深めることができるのが、引き続いて期待できる成果である。画像資料データベース構築し、これをWeb上で公開あるいはCD化することで、画像資料そのものを共有資産化でき、各地における地域史や文化財保護活動など幅広い分野で活用することができるようになることも、引き続き期待できる。
さらに今次の研究では、大学院に加え、図書館・考古学資料館・神道資料館・折口博士記念古代研究所との共同研究を進めることで、人文科学資料全体を包括的にとらえ直すことが可能となり、資料論を基盤とした先端的な人文科学研究をきり拓くことが期待できる。ややもすれば文字記録資料のみ、実物資料のみになりがちだった研究を、幅広い資料的見地から再検討できる基盤が整うのであり、各地に設置されている図書館、博物館、文書館という資料特性による分断的研究体制を組み替えていく契機をつくることも期待できる成果である。

○研究成果の公表の計画
一定の資料の蓄積が整ってきているため、オンライン・リアルタイム検索の提供を可能にする。また、これと同時に書籍による公表も計画しており、渋谷区との共催による企画展示を公開活動の一環として計画している。





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