『情報処理学会研究報告』2005-CH-66(情報処理学会 第66回人文科学とコンピュータ研究会発表会(2005年5月27日 花園大学)にて発表)

学術調査資料の整理・公開システムの構築
―写真資料を中心に―

Processing of Academic Survey Materials and Creation of a System for Public Access, Focusing on Photographic Documents

中村耕作・黒崎浩行・小川直之・杉山林継

NAKAMURA Kousaku, KUROSAKI Hiroyuki, OGAWA Naoyuki, SUGIYAMA Shigetsugu
†國學院大學大学院博士課程前期 ‡國學院大學日本文化研究所
† Master's degrees at Kokugakuin university graduate school ‡Institute for Japanese Culture and Classics, Kokugakuin university

國學院大學日本文化研究所では、多年にわたり本学で蓄積してきた学術調査資料、特に写真資料についての整理を進めてきた。学術調査資料は多種類・多分野・多量、資料記録/記録資料の両側面という特徴を有しており、写真資料に関しては一般性・汎用性という特徴も付加される。整理にあたっては独自の方法を構築する必要があるが、本稿では、インデックスの整備を重視すること、段階的な整理・公開を行なうことといった基本方針およびその具体的成果を紹介し、さらに、今後の展望として資料群間の連関に関する課題と構想を示した。
Kokugakuin University has collected a large volume of photographic and other academic survey materials over the period of its existence, and work is now proceeding on the editing and collating of those materials. The materials collected through decades of academic surveys and research are highly diverse in variety and discipline, large in quantity, and possess both characteristics of records of documents, and documents composed of records. Photographic documents have the additional complication of being general and universal in character. While there is a need to create unique methods for handling and collating such a wide range of materials, this report will focus on the decisions (1) to emphasize index organization and (2) to use a staggered or phased process of editing and publication, together with an introduction to the current results of the program. Future issues will also be suggested regarding the linkage of diverse data collections

1.はじめに

 國學院大學には大場磐雄博士・折口信夫博士・柴田常恵・宮地直一博士ら考古学・民俗学・国文学・文化財学・神道学などの分野にあって重要な業績を残した研究者の膨大な研究資料群が所蔵されている。國學院大學日本文化研究所では、1999年度より私立大学学術研究高度化推進事業(学術フロンティア推進拠点)の選定を受け、「劣化画像の再生活用と資料化に関する基礎的研究」のテーマの下、上記研究者等の旧蔵資料のうち特に写真資料についてデジタルデータ化を進めてきた。写真資料を含む画像素材は近年その資料価値が改めて認識されてきている分野であるが、一方で図書館の扱う図書資料や博物館・文書館が扱う考古遺物・民具・文書などと違って、整理方法の確立が遅れている分野でもある。
 本報告では、学術調査記録に関わる写真資料の整理・公開に関わる成果と課題を提示したい。

2.対象資料の概要

大場磐雄博士資料
 大場磐雄(1899-1975)は、國學院大學在学中考古学を専攻したが、一方で折口信夫に民俗学を学び、卒業後、内務省神社局で宮地直一のもと神社調査を行なった。のち、國學院大學で考古学の教授となり、幅広い学問領域を活かした神道考古学を樹立している。没後蔵書(7172件)、写真原版(約5000点)、拓本・図面・紙焼写真類(整理箱190箱)、原稿類・調査票その他(ダンボール約30箱)などと共に國學院大學に寄贈され、蔵書類については図書館から目録が刊行されたが、それ以外の資料については図書館収蔵庫の一角に保管されてきた。前述のように1999年度より学術フロンティア事業の一環として、写真原版、拓本類の整理が開始された。

柴田常恵資料
 柴田常恵(1877-1954)は、東京帝国大学助手を経て内務省嘱託・史蹟名勝天然紀念物調査会考査員を務めた考古学者・文化財行政の専門家である。没後、大場磐雄の尽力で研究資料が國學院大學に寄贈された。受入時の仮台帳によると紙焼き写真(5817枚)、フィールドノート(83冊)、拓本(5837枚)、自筆原稿類(108冊)、ガラス乾板(177枚)で、このうち、2001年度より紙焼き写真の整理を開始した。

折口信夫博士資料
 折口信夫(1887-1953)は、國學院大學教授・慶應義塾大学教授を務め、国文学・民俗学・芸能史の分野で多くの理論提示を行なった学者である。没後、全集出版とあわせて研究資料の保管を行なう折口博士記念会が組織され、これを基盤にして1966年に國學院大學文学部に折口博士記念古代研究所が設けられた。資料は蔵書(13538冊)、著述(502点)、書簡(9867通)、年譜写真(1074点)、民俗写真(2250点)、歌舞伎絵葉書(2687点)などからなる。このうち、本事業では2001年度より歌舞伎絵葉書(2547点)の整理を行なった。

宮地直一博士資料
 宮地直一(1886-1949)は、史蹟名勝天然紀念物調査会考査員、内務省神社局考証課長、國學院大學教授、東京帝国大学教授を務めた近代神道史学の第一人者である。柴田とは史蹟名勝天然紀念物調査会での同僚であった。所蔵していた研究資料は2004年に國學院大學に寄贈され、整理が開始された。これまでに書籍類(約15000冊、写真帳53冊を含む)、軸物(約300点)、天神人形・神像類(約150体)等が確認されており、2004年度に写真2796点について整理を開始した。

3.対象資料群の特徴と課題

 本事業では上記資料のうち写真資料から整理を開始した。近年、文化財あるいは文献情報の大型デジタコンテンツが構築されてきているが、学術調査写真はそれらのカテゴリーには入るものの、中心からは外れた性格を持っている。従って、学術調査写真の整理・データベース化にあたっては、その特徴を踏まえて独自の方法を構築していく必要がある。これらを「学術・教育資料」として、整理・活用することを考えた場合、その特徴は次の6点があげられる。

多種類
 資料群は、図書・写真・図・ノート・原稿など多くの種類にわたる。これは、学者個人の研究資料としては通例のことであり、他機関同様、本事業でも種類ごとに整理を進めることとしたが、一方でその連関についても考慮する必要がある。なお、本稿で「資料群」といった場合、この単位を指すこととする。

多分野
 各学者とも考古学・民俗学・神道学など多分野にわたる業績を残している。同じ資料についても学問分野の違いによって呼称や分類が異なることは少なくないが、それぞれの分野で活用できるような整理方法を構築する必要がある。

多量
 資料群ごとに千点単位で資料が残されている。この多量の資料について、いかなる整理方法が効果的であるかの検討が必要である。従来の写真資料集や文化財デジタルアーカイヴの多くは多数の対象資料の中から選択された特定少数のみを扱い、1点1点に詳細なデータを付与することが多かったが、学術資料という性格上、全点を対象とすべきである。その際に、個々の資料に対しどの程度の手間をかけるべきかが問題となる。

二次資料としての価値
 資料の価値としては、まず写真の被写体あるいは写し込まれている内容自体があげられる。発掘調査時の状況がその時点でしか記録できないものである考古学や、既に失われた文化財の復元などの分野のみならず、撮影者の意図とはかかわらず当時の生活が写し込まれている写真から民俗が再発見・提示されるなど、その価値が見直されてきている。これらは資料の記録であり、博物館などでいう二次資料として位置づけられる。

一次資料としての価値
 一方で、写真資料はそれら学術調査・研究に関わる記録類全体の一部として存在してきたことも大きな特徴である。これらの有機的な関係を念頭において整理を行なう必要がある。これは資料自体が学史的な研究対象となり得るものであり一次資料としての価値を持つ。つまりは、従来の一次資料・二次資料という区分は見方を変えれば容易に転換するのであり、便宜的区分にすぎないといえよう。

写真の視認性・一般性
 最後に、写真を含む画像の視認性・一般性・汎用性があげられる。文章記録などと違い、画像は一般の人にも馴染みやすく、そこから読み取りうる情報も多い。展示用や挿絵用としての需要は、他の学術資料よりも高いものと思われる。従って、専門家向けの整理を行なうと共に、一般に向けて資料提示を行なうことも必要とされよう。そのためには、一定の基準に従った汎用性のある画像内容の言語化が必要とされる。

資料整理にあたっての課題
 以上の特徴から、本事業における整理作業の課題を抽出すると以下のようになる。これらは整理段階・公表段階の両者に関わってくるものである。
(1)個別資料間、資料群間の関係性をいかに記述するか
(2)多分野にわたる資料をいかに扱うか
(3)多量の資料に対し、いかなる整理が効果的か
(4)一次資料としての側面と二次資料としての側面の両者をいかに扱うか
(5)画像内容とそれ以外の情報をいかに扱うか

4.整理の基本方針

 この研究プロジェクトが「基礎的研究」と命名されていることからもわかるように、研究目的の1つが画像素材の学術資料化の指針作りであった。試行錯誤の結果、5年目において一応の指針が定まった。

インデックスとしての目録整備
 上記課題全体に関連する対処法として、インデックスとしての側面を重視することとした。これは、資料の選択は行なわず、全点を対象とすることを意味する。また、今回写真のデジタルデータ化を掲げているが、通常、デジタルアーカイヴというと、資料自体の二次元・三次元のデジタル化のみが重視されがちである。しかし、多量の資料中から必要なものを検索し、活用するためには、その資料の周辺情報の整備こそ不可欠である。

段階的整理
 当初の計画では被写体の分類等を行なっていたが、作業を進めるに従い予め想定していた分類項目では対応できないことが明らかになった。また、2000年度より大場資料の拓本類、2001年度より柴田、折口の写真資料の整理が始まり、これらとの互換性を考慮する必要性が出てきた。しかし、多分野・多量の資料全体をカバーする分類体系を予め用意することが困難なことは明らかであり、段階的に整理・公開を進めていくこととした。
 段階的整理の語は記録史料学の分野で用いられているものと必ずしも同義ではないが整理・公開を一度で完結させず、段階的に行なうことで、より充実させるという目的は同じである。
 ここでは大きく、オリジナル情報の整理を第1段階、個別資料の周辺情報の整理を第2段階、資料群間の連関を第3段階として位置づける。

成果の逐次公表
 段階的整理と関わるが、整理が一段落した資料については逐次公表を行なってきた。その具体例については後述するが、冊子体で刊行した場合でも、利用者の目に付きやすいよう、その内容はWebサイトにも掲載する方針をとっている。既に研究論文・展示等で活用されることで、それらの資料についてのより詳細な情報のフィードバックが始まっている。

5.資料整理の各段階

第1段階:オリジナル情報の優先
 まずは第1段階として、資料に直接伴うオリジナル情報のデジタルデータ化を優先することとした。これは上記課題(3)(5)に対する最低限の必要事項としての方針である。
 オリジナル情報とは、画像内容、物理属性(支持体・サイズ・劣化状況等)、保管状況、メモ書き・印字内容などである。これらは整理者しかデータ化できない項目であり、撮影場所や撮影年代、被写体の内容など、オリジナル情報をもとに第3者でも検討可能な項目とは区別されよう。具体的な項目は、残されたデータの種類・量によって資料群ごとに設定する。すべてが埋まるとは限らないが、その補完は第2段階にまわし、オリジナルの記述に専念する。
 第1段階の作業工程は大きく画像データとテキストデータの2つの流れに分けることができる(第1図)。各工程の概略については別稿(中村2005)で述べており、ここでは省略する。



第2段階:個別資料の周辺情報の整理
 インデックスにはタイトル(撮影対象)をはじめとする項目が整備される必要があるが、資料群によってオリジナル情報として残された情報量には差がある。これを補うためには、撮影内容や報告書・日誌等を詳細に検討する必要がある。また、当該資料が調査等におけるまとまりを有している場合は、それぞれ関連資料として位置づけることも必要であろう。これら、オリジナル情報を補う周辺情報の整備を第2段階とする。具体的には、大場博士写真資料における調査単位名、撮影対象、撮影場所、撮影年代、時代、文献等の情報、折口博士歌舞伎絵葉書資料における演目、役者名等の別名の確定がこれにあたる。これらは、第1段階で得られた成果をもとに、その資料群に合った項目設定を行なったもので、第1段階同様資料群ごとに異なった項目が設定される。
情報機器の発達により容易に画像のデジタルデータ化が行なえる状況となった現在、膨大な画像データの中で重要となるのは、いつ・どこで・誰が・何を撮った写真であるのかといった情報を伴っている資料であり、本段階の重要性を指摘しておきたい。これによって上記課題@のうち、個別資料間の連関がはかれ、第3段階への足がかりが整えられることとなる。

第3段階:資料群間の連関
 大場博士資料における写真資料と拓本・実測図等資料との連関、あるいは大場博士資料と柴田資料との連関をはかるのが第3段階であり、上記課題@・Aにいかに対処するか、現在はそのシステム構築にむけての準備段階である。この点の構想については後述する。

6.成果の公表

年次事業報告・Webでの公表
 大場博士写真資料のうち、まとまった遺跡の資料については年次ごとの事業報告に掲載し、翌年度には本事業のWebサイトにも掲載した。Webサイトには、上記の他、折口博士歌舞伎絵葉書資料(24点)等も公開した。いずれも整理途上で一部分のみの公開であるが、外部への宣伝効果は大きく、その一部については利用が始まっている。なお、これらは後述するデータベースに移行している。

冊子体目録
 2003年度には柴田写真資料の約半数(2733点)、2004年度には宮地博士写真資料全点(2798点)について第1段階の整理が終了し、冊子体の目録を刊行した。同年には大場博士写真資料の約半数(2979点)について第2段階の整理まで終了し、冊子体の目録を刊行した。紙媒体の利点として、一覧性の高さや書き込みのしやすやなどがあげられ、デジタル媒体と併用して活用されることを期待している(第2図)。

CD-ROM版データベース
 2004年度には大場博士写真資料の第1段階整理終了分(4722点)を収録したCD-ROM版のデータベースも作成している。キーワード検索とともに、ページを繰るように順に閲覧することも可能な仕様としているほか、ユーザー用メモ欄も設けている。

Web版データベース
 以上の経験をもとに、2004年度には株式会社東芝のデジタルアーカイブシステムパッケージ「でんとうなび(R)」を利用したWeb版データベースを公開した(第3図)。本ソフトはデータのインターネット公開を前提として開発されているため、現段階における第1段階の成果を直ちに公開することが可能となった。また大場磐雄博士写真資料などの資料群単位で項目設定、階層設定が可能であり、データを容易に一括入出力できるなどの多くの利点がある。今後は、資料の相互の連関やユーザー側の使い勝手などついて、機能を強化することにより、さらに充実したweb版データベースが実現すると考えられる。




7.今後の課題と展望

 以上、國學院大學における学術調査資料、特に写真資料の整理に関わる課題とその対処法について紹介してきた。最後に第3段階に関する展望を述べておきたい。

データベース間の連関
 本学には、今回取り上げた資料群以外にも、多数の研究者の旧蔵資料が残されている。さらに、図書館・考古学資料館・神道資料館などで実物資料が多数収蔵されており、また、考古学研究室では実習時の調査写真等のデジタルデータ化を進めている。これら、資料館・研究室等の資料を含めて、将来的には國學院大學学術資料として一貫した検索システムを構築することが期待されている。

国際標準導入の問題点
 種類・分野の異なった資料群を統合するには、より高次の検索項目が必要となる。学術情報・文化財に関しては多数の国際標準が提唱され、Dublin Core、Z39.50・Bib-1などがよく紹介されている。資料の性格に即したものとして、ISBD(国際標準書誌記述)、ISAD(記録史料記述の一般原則)、博物館資料情報のための国際ガイドラインなども考慮しておく必要があろう。
 国文学研究資料館ではDublin CoreおよびZ39.50・Bib-1を用いた複数のデータベースの統合を試みている(原・安永2001)。同館は主として文献・文書資料を扱う機関であり、Z39.50が書誌データの規格として出発したことを考えるとその導入には大きな支障は無いようである。一方、国立民族学博物館では収蔵品のデータベースにZ39.50・CIMIを適用させている(山本・中川2003)。CIMIは博物館・美術館用のプロファイルでDublin Coreの基本要素を含む84の要素が定義されているが、必ずしも既存のデータベース項目と合致しないことが指摘されている。また、複数機関の資料情報の共有については国文学研究資料館の史料情報共有化データベ−スにおいてISADが採用されている。
 これらは相互排他的なものではなく、重複する部分も多い。また、国際標準はその性格上、項目設定やその定義が緩やかであり、実際の適用にあたっては図書・文書・実物資料など資料の性格ごとに従来の慣例または既存の目録規則等が生きている。
しかし、冒頭に述べたように、本事業で扱っている学術調査写真資料は文献情報とも標本資料とも異なった特徴を持っている。さらに、一次資料としての性格と二次資料としての性格という資料の持つに二面性に関わって、例えば、creatorの項目には、被写体の製作者を入れるのか、撮影者を入れるのか、という問題が発生する。
 以上のような点を考えると、国際標準といえどもその項目立てをすぐに導入できるわけではない。この点、「文化遺産オンライン」では共通項目を参加しやすい程度のものから段階的に提示することを構想しており注目される(文化遺産情報化推進戦略会議2004)。

段階的なデータベースシステムの構想
 以上の点を踏まえ、当面はより低次の資料群の連関を考えることにしたい。
 これはまず、大場博士資料のうちの、蔵書、写真、拓本類、原稿類の各データベースを、大場博士資料データベースとして統合することから始めたい。キーとなるのは、遺跡・神社等で、写真資料の第2段階において整理した調査単位といった項目であろう。
 次いで、大場博士資料、柴田資料、考古学資料館収蔵品、考古学実習資料など他の考古学関係のデータベースを統合した國學院大學考古学資料検索システムと進めたい(第3図)。ここでのキーは、考古学に特有な土器・石器など材質による分類、時代、遺跡の種類などとなる。
 一方、大場博士資料は単に考古学のみならず、民俗学や神道学の資料も数多く含まれている。従って、例えば折口博士資料や坪井博士資料などと共に民俗学資料検索システムを、宮地博士資料や神道資料館収蔵品データベースと共に神道学資料検索システムをそれぞれ構成することとしたい。両者ともそれぞれの学問分野に沿った分類・検索項目を設定することができる。
 つまり、大場博士資料には、第1段階でのオリジナル情報、第2段階での周辺情報、第3段階での大場資料内の検索項目、考古学分野・民俗学分野・神道学分野の各検索項目が付加される、という構想である(第4図)。
 先にあげたように、国際標準を含んだ、各分野を横断する検索項目は抽象化されすぎて、各分野の研究資料の検索には不向きとなる可能性が高い。また、同じモノに対し分野によって異なった命名が行なわれることが多いため、用語統一やシソーラスの構築の必要性が指摘されているが、この方法を用いればその必要はなく既存の分類を活かすことができる。何をキーとして入力すればよいのかというユーザー側への配慮が足りないデータベースがしばしば見られるが、この点については使用した各分野の分類体系表を同時に公開しておく必要がある。
 最後に、これら各分野を横断する全学的な検索システムへと話を進めたい。しかし、ここでのキーは地域・時期等の汎用性の高い項目を除けば、これまでに付加されてきた様々なキーワードがそのまま使用できため、その窓口さえ用意すればよいのである。
 以上は、現段階での将来構想案の1つであり、具体的に動き出したものでも、事業内で確定したものでもない。しかし、今後いかなる形をとるにせよ、学術調査資料の整理・検索・公開を行なっていく上で、ここに示した視点は重要になってくるものと思われる。



8.おわりに

 以上、学術調査資料に関わる写真資料の整理・公開の問題について紹介してきた。今回扱ったテーマの基本的な原理については既に資料・情報を扱う学問分野で提示されてきている。しかし、実際の運用に関しての実践報告は少なく、我々も試行錯誤を繰り返してきた。研究者が所蔵していた学術調査資料を受け入れている機関は、大学・地域博物館を問わず多数存在するものと思われる。しかし、現状は多くの場合、実物資料の目録化の段階で留まっているか、記録類についての簡略な目録が提示されているのみである。不十分ながらあえて本稿を発表する所以もここにある。本稿がこのジャンルの資料整理・公開に関わる議論のたたき台となれば幸いである。

引用参考文献
國學院大學日本文化研究所編 2004 『劣化画像の再生活用と資料化に関する基礎的研究』平成11年度〜平成15年度私立大学学術研究高度化推進事業(「学術フロンティア推進事業」)研究成果報告書 國學院大學日本文化研究所
中村耕作 2005 「学術調査写真の整理・公開の現状と課題−大場磐雄博士写真資料整理をふまえて−」『人文科学と画像資料研究』第2集 國學院大學日本文化研究所
原正一郎・安永尚志 2001 「メタデータによるマルチメディアデータ統合の試み」『情報処理学会研究報告』2003-CH-51 情報処理学会
文化遺産情報化推進戦略会議2004「文化遺産オンライン(試行版)の公開に向けて−今後推進すべき事項と当面進める施策−」http://www.bunka.go.jp/1hogo/houkokusho22.html
山本泰則・中川隆 2003 「z39.50CIMIプロファイルにもとづく民族学標本データベースの試作」『情報処理学会研究報告』2003-CH-58 情報処理学会

付記:本事業に関わる目録・事業報告については下記Webサイトを参照されたい。刊行物のほぼ全文を公開している。
・國學院大學学術フロンティア事業実行委員会 http://www2.kokugakuin.ac.jp/frontier/
・國學院大學学術資料データベース http//frontier-db.kokugakuin.ac.jp/

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