『平成13年度 國學院大學学術フロンティア構想「劣化画像の再生活用と資料化に関する基礎的研究」事業報告』

平成13年度事業概要


 平成11年度・平成12年度と継続して実施してきたプロジェクト、國學院大學学術フロンティア構想「劣化画像の再生活用と資料化に関する基礎的研究」事業(以下、フロンティア事業)も3ヵ年度目に入り、過去2ヶ年度間に情報化を実施してきた資料のインターネット上での公開(http://www2.kokugakuin.ac.jp/~frontier/)や、講演会・シンポジウムの開催、新規資料の研究や他機関との交流も視野に入ってきた。
 過去の画像資料が時間の経過によってより重要性を増している現状に対する認識の啓発と、この研究を実施した事によって、これまで不明な点が多かった文化財写真の保存状況と、研究資料そのものの再評価が可能となってきた。また、考古学等の分野において、研究対象として従来取り組まれてこなかった、表現方法としての記録写真の歴史的意義の研究から、近代以降の文化財研究において写真がいかに利用されてきたかが明らかになりつつある。さらに、これまで重要文化財等の特別な優品を除いて、文化財に関わる画像資料保存への取り組みは実物資料の保存に比較すると極めて遅れてきたが、本プロジェクトが先駆けとなって、各地の教育委員会・博物館等での資料に対する取り組みの姿勢を喚起する動きが出て来た。
 同時にこれまで実施してきた研究体制や画像資料特有の問題も、研究の進展に伴って解決していかなければならない案件として視野に入ってきた。

大場磐雄コレクションの電子情報化と公開
 大場磐雄博士の写真資料(ガラス乾板3704点、硝酸セルロースフィルム574点、35mmフィルム322点)については、平成11年度以来デジタル化・複写を実施し、分類保存を行っている。平成13年度からは、12年度報告で公表した長野県塩尻市平出遺跡調査関連資料について、インターネット上での公開を開始した。
 また大場コレクションのうち、調査時の図面・遺物実測図・拓本・絵葉書・プリント・スケッチ等として一括されている資料について目録を作成した。目録作成の終了した縄文時代資料については、平成12年度報告資料編において、「大場資料目録−縄文時代編−」として公表したが、この結果、研究者による学術研究目的としての資料の閲覧に関する問い合わせがあり、次第にその需要が見込まれる事がわかった。
 なお、今年度報告では、写真資料については静岡県登呂遺跡調査関連資料を、目録については「大場資料目録−弥生時代編−」を掲載する。

桜井満コレクションの公開
 平成12年度にデジタル化を実施した桜井満博士の写真資料303点について、インターネット上での公開を開始した。これらは主に昭和30年代後半から40年代前半にかけて実施された南西諸島での調査・奈良県春日大社の御祭りの調査記録写真である。

折口信夫コレクションの電子情報化
 折口信夫博士に関連する写真資料の情報化を実施した。これらの写真資料は現在文学部の折口信夫博士記念古代文化研究所にて保管されている。内容は博士がフィールドワークを実施した全国の調査写真のみならず、周辺を彩る人々が撮影されている他、博士の趣味でもあった歌舞伎関連のブロマイドが多数存在している。
 これらは平成12年度から基礎的作業を実施しており、平成14年度よりデジタル化作業を実施・公開する計画である。

柴田常恵コレクションの電子情報化
 大場磐雄博士が國學院大學文学部教授時代に購入し、現在、考古学研究室で所蔵している柴田常恵資料についてのデジタル化、および調査・研究を推進している。これらは県別に整理された写真アルバムとフィールドノートからなり、東京帝国大学人類学教室助手の頃から、内務省地歴課で勤務している頃までの、氏の調査足跡が克明に記録されている。東京大学総合研究博物館では氏が撮影に関わった写真資料のネガにあたるガラス乾板が保存されており、インターネット上で公開されている。これらは國學院大學所蔵資料のような詳細なデータが欠落しており、両者を整合させていく必要がある。
 
椙山林継コレクションの電子情報化
 國學院大學日本文化研究所所長・教授である椙山林継博士による神道考古学・祭祀考古学関連写真資料についてのデジタル化を実施した。今年度はこのうち、「神坂峠」・「入山峠」の調査に関連する写真資料計524点(神坂峠203点・入山峠321点)のデジタル化を実施した。これらについては逐次公開する。

歴史系学術雑誌に掲載された写真について
 『考古学雑誌』・『史学雑誌』等の歴史系学術雑誌に掲載された写真についての調査を実施している。これらは我が国における写真・印刷技術の進歩や近代アカデミズムの展開、文化財保護行政の確立と密接に関わっていると考えられる。

他機関所蔵資料の調査
 大学・博物館・社寺等における所蔵資料の調査を実施している。これらは本学所蔵資料と比較されるばかりではなく保存・活用に関わる文化財保護の現状を認識するものである。今年度は奈良県春日大社や長崎大学等の所蔵資料を実地調査した。

他機関・研究プロジェクトとの交流
 当学術フロンティアにおけるプロジェクト研究は、画像資料の保存と活用に関わる問題をその研究テーマに据えているが、比較的隣接する分野を研究対象とし、同様の問題を抱えている機関も多くあり、こうした機関と連携していく事によってスキルの向上をはかっていく事は極めて重要であると考えられる。
 このような点から、平成13年11月11日付で、学術フロンティア選定機関である立命館大学アートリサーチセンターと学術提携を結び、共同プロジェクトを実施していく事となった。

研究成果の公開及び講演会・シンポジウムの開催
 前年度に引き続き、講演会・シンポジウムを開催した。10月27日には講演会『近代化と写真師―その地域的展開―』を実施し、東京都写真美術館の金子隆一氏による「近代の幕開け−街の写真と写真館−」、熊本県にある冨重写真所工房の冨重清治氏による「冨重写真所の160年」と題した講演と、日本大学芸術学部の高橋則英氏を交えたショートディスカッションを催した。
 12月8日にはシンポジウム『画像資料と近代生活誌』を開催した。このシンポジウムでは香月洋一郎氏(神奈川大学)、須藤 功氏(民俗学写真家)、齋藤多喜夫氏(横浜開港資料館)、田邊 幹氏(新潟県立歴史博物館)の各氏による発表とディスカッションを実施した。また、本プロジェクトからも小川直之、山内利秋がそれぞれ発表した。
 平成14年2月23日には、シンポジウム『無形文化の記録保存に関する動画像の過去と未来』を開催した。このシンポジウムは研究プロジェクト『無形の文化の記録保存に関する基礎的研究』と共同で開催し、栄久庵憲司氏(インダストリアルデザイナー、道具学会会長)、星野 紘氏(東京文化財研究所)、孝寿 聡氏(博物館映像研究所)、長瀬一男氏(たざわこアートファクトリー)の他、当プロジェクトから茂木 栄が発表した。またパネルディスカッションではコメンテーターとして大島暁雄氏(文化庁伝統文化課)を交え、討論を行った。

(山内利秋)


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