『平成14年度 國學院大學学術フロンティア構想「劣化画像の再生活用と資料化に関する基礎的研究」事業報告』

折口信夫写真資料の電子情報化



 本事業は、本学文学部の付置研究所である折口博士記念古代研究所(以後、「折口古代研」と略記する)所蔵の写真画像資料を対象としたもので、平成12年度から基礎的作業を実施してきた。折口古代研には、折口自身の撮影にかかる民俗写真、折口が収集した歌舞伎関係絵葉書、芸能関係絵葉書、各地景観等絵葉書、さらに折口にかかる諸写真が所蔵されており、デジタル化に向けて整理作業を進めてきた。
 この作業を踏まえて、平成14年度よりデジタル化作業を開始した。デジタル化作業の初年度である14年度は、その準備調査を行う必要があったため、公開には至らなかった。作業の概要と、その過程で明らかになった問題点は以下の通りである。

本年度対象資料

 (1)歌舞伎関係絵葉書(立命館大学アートリサーチセンターとの共同研究資料)
 (2)折口信夫とその周辺の人物写真

 これらのうち(1)の歌舞伎関係絵葉書については、下記の手順でデジタル化を終えた。そして、共同研究を行っている立命館大学アート・リサーチセンター(学術フロンティア推進研究プロジェクト 京都演劇・映像デジタルアーカイブプロジェクト 研究代表者:赤間亮〈文学部教授〉)に、全2452点のコピーと、デジタル化した資料(CD - R)を送付し、情報の共有化をはかった。
 (2)の折口信夫とその周辺の人物写真については、デジタル化に着手し、その作業を進めているところである。

作業内容

 歌舞伎関係絵葉書ならびに折口信夫とその周辺の人物写真のデジタル化については、次の手順で作業を進めた。

1.資料番号の付与
 資料の大半は、画用紙状の台紙に糊付けされて、一部折口の自筆があるものに関してのみ、裏面が確認できるような配慮がなされている。台紙には研究所設立以後の時々に与えられた番号があった。だが、枝番、欠番、同じフイルムからの焼き付けで重複しているために番号を与えていないものがある等の問題点があることから、以後この番号を使用するのは不適切と判断し、資料番号を一資料一番号を原則として新たに与えた。
 (1)に分類できる資料には「os-e○○○○」(「折口信夫‐演劇」の意である記号と四桁の数字)、(2)に分類できるものには同様に「os-j○○○○」(記号は「折口信夫‐人物」の意)の番号を与え、同じフイルムからの焼き付けなど、明らかに複写であるものは枝番をあたえることにした。(1)についてはこの作業を完了させ、当初把握されていた2202点ではなく、2452点のコレクションであることを確認した。(2)については、全集編纂にかかわる資料貸出があったため着手した段階にとどまっている。(2)や、そのほかのコレクションについても今後同様の作業を進める必要がある。

2.デジタル化作業
 研究用、データベース用として200dpi、TIFF形式のファイルを作成した。その後、データ交換用として、TIFFファイルを元に、JPGファイルを作成した。また、大きさがまちまちである各資料の縦横比を固定し、プリントサイズを長辺14センチメートルに統一した(不定形の写真などは、元のサイズを知るため操作しなかったものもある)。(1)については、まず当初、確認されていた2202点、ついで追加分の順で、2452点すべての作業を終了させた。その後(2)の作業に着手した。(2)についてはまだ、統一番号の付与をおこなっていないので、データ名には旧来の番号を使用し、作業を継続中である。新たな番号を付与した時点で、デジタル化した資料名も共に変更する必要があるので、早急に資料番号付与を行いたい。

今後の課題−作業過程で生じた問題点について


1.台紙に貼りつけられた資料の管理
 かつて一般的であった、紙資料をでんぷん糊で台紙に貼りつける資料整理方法は、今日では資料保存の観点から、問題があることが明らかになっている。今年度対象とした資料の中にも、裏面に塗られた糊が表面ににじみ出て、しみ状に変色しているものが確認できた。裏面に印刷されていることの多い、発行所などの情報が確認できないという問題もある旨、立命館大学アート・リサーチセンターより指摘をうけた。裏面数箇所が糊付けされている場合が多いことから、慎重に資料を台紙からはがすことにした。この作業は2月末からおこなっており、現在も継続中である。
 自筆がみられるため糊付けをしていない資料については、四隅を固定する枠を台紙に貼り、取り外して裏面確認できるようになっている。しかし、この場合には、度重なる取り外しによる損傷が生じている場合がある。これらについても適切な管理を検討しなければならない。

2.台帳管理方法
 資料から台紙を除去した後の資料整理方法の検討は残された課題である。次年度は台紙を除去した後の資料をいかにして劣化を抑えていくか、保存用品の検討を早急にしなくてはならない。今年度は保存用品の選定に至らなかったため、台紙なし、もしくは台紙を除去した資料を、仮にカード整理用のフォルダーに整理し、資料番号をフォルダーに記載していった。だが、フォルダーから資料を取り出すのは容易で、脱落する可能性があり、適切な処置ではない。後の混乱を防ぐために資料に直接資料番号を記載したほうがよいであろう。
 資料への番号記載を避けるのであれば、資料とデータベースの照合を念入りに行い、完成したデータの読みとり専用ファイルを作成していくことが必要となる。これをデータベースとして台帳のように扱い、資料自体は番号を記載したフォルダーに整理し、注意深く扱うことにするという方法も考えられる。その際にはフォルダーの番号は目安程度に認識し、資料番号にまつわるトラブルがおきた際には、必ず画像データベースを参照するようにしなければならない。これを徹底させれば画像データベースが有効活用されることになり、本事業の成果の一つとなるであろう。

(小川直之・厚香苗・沼崎麻矢)


帝国劇場「戻り橋(一条戻り橋の場)」
渡邉綱(松本幸四郎)と娘小百合(悪鬼)(尾上梅幸)
大正14年6月上演 銀座上方屋製絵ハガキ


「忠臣蔵三段目」
師直(市川団蔵)と判官(尾上梅幸)
絵ハガキ


歌舞伎座「紅葉狩」侍女碓氷(中村児太郎)
銀座上方屋製絵ハガキ


歌舞伎座「女暫」息女巴御前(中村歌右衛門)
銀座上方屋製絵ハガキ


帝国劇場「心中天網島」紙屋治兵衛(澤村宗十郎)
銀座上方屋製絵ハガキ(書き込みは折口信夫による)


帝国劇場「祇園祭礼信仰記」
此下藤吉(中村吉右衛門)
銀座上方屋製絵ハガキ


帝国劇場「身替座禅」山陰右京(尾上菊五郎)
銀座上方屋製絵ハガキ
(書き込みは折口信夫による)


帝国劇場自由劇「夜の宿」
ナスチャ(市川松蔦)と男爵(市川寿美蔵)
銀座上方屋製絵ハガキ


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