平成22年度
公募制自己推薦
ALT型レポートのテーマと作成の手引き


●課題

「被疑者の取調べ」というテーマについて、以下の内容を含む1200字〜2000字のレポートを書いてください。
1)そのテーマについて、どのようなことが問題となっているか。
2)その問題が出て来た背景には何があると考えられるか。
3)その問題を解決するためにどのような方策が現在とられているか、また、現在とられている方策以外にどのような議論がなされているか。
4)自分はどのような解決策がもっとも望ましいと考えるか。(理由を必ず付すること)
※レポートを書く際には、「冤罪の原因」、「真相の解明」、「憲法38条」、「審理の迅速化」および「取調べの可視化」、という5つのキーワードを必ず使わなければなりません(文中のキーワードには下線を付して下さい)。

●出題の意図

 このテーマについては、司法制度改革審議会以後、裁判員裁判の施行もふまえて活発な議論が広くなされ、関連報道も多数なされています。日弁連が行っていた取調べ可視化を求める署名運動も110万人強の署名が集められました。国会でも可視化法案が2度にわたって提出されています。そして、政権をとった民主党は、マニフェストの中で取調べの可視化実現を明言しています。一般的にアクセスしやすい文献も多数出ていますし、ネット中にも多数の情報が提供されています。以上のような情勢に鑑み、今の高校生には十分調査・検討でき、また法学部生になる者として考えてほしい重要な古典的かつ現代的問題であると判断したので、出題しました。

●採点ポイント

1.総論
(1) 大量の情報の中から「最新の情報」・「信頼のおける情報」を選び出しているか。
(2) レポートの書き方に問題はないか。特に、テーマに含まれる問題点を明確に指摘し、その問題点について、人々がとっている立場や論拠を整理し、それとの関係で自分の意見を論拠とともに明快に述べているか。また、形式は整っているか。例えば、引用のしかたや参考文献の示し方がきちんとしているか。そして、表現の誤りや漢字の誤りがなく、日本語としての形式が整っているか。

2.各論
(1) 「1)そのテーマについて、どのようなことが問題となっているか。」について
 →取調べの適正化、可視化が問題になっていることを明快に指摘しているか。
(2) 「2)その問題がでてきた背景には何があると考えられるか。」について
 →「自白の強要、結果として得られる虚偽自白、そして誤判」という背景を指摘しているか。
   *具体的な事例を調査、紹介していることが望ましい。
   *虚偽自白がなされる心理メカニズムについても調査していることが望ましい。
 →最近出てきた「裁判員裁判施行に伴う、迅速な審理の要請」というポイントを指摘しているか。
(3) 「3)その問題を解決するためにどのような方策が現在とられているか、また、現在とられている方策以外にどvのような議論がなされているか。」について
 →以下のような情報につき、幅広く紹介していることが望ましい。
   a.現在とられている方策関連
    ・司法制度改革審議会での議論
    ・取調べ状況報告書作成義務創設(犯罪捜査規範182条の2)
    ・警察捜査における取調べ適正化指針(警察庁)、被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則(国家公安委員会規則)
    ・検事取調べ、警察官取調べ、双方につき、取調べの一部可視化
    ・被疑者ノートの活用
    ・監獄法は改正されたが、代用監獄は存置されたこと
   b.それ以外の議論関連
    ・拷問禁止委員会の勧告(2007)
    ・自由権規約委員会の勧告(2008)
    ・2度にわたる取調べ全面可視化法案提出
    ・民主党マニフェスト(全部録画)
(4) 「4)自分はどのような解決策が最も望ましいと考えるか(理由を必ず付すること)。」について
 →真相解明VS黙秘権保障という古典的利益対立の紹介と評価は、含まれているか。
 →これらに「審理の迅速化」を加え、3項対立の調整策を示していることが望ましい。


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●解答例
以下では、概ね高い評価を得たレポートを、一部修正の上、紹介します。レポート執筆の際の参考にしてください。

参考例1

 被疑者の取調べは、それが適正に行われる限り、真実の発見に寄与する。また、罪を犯した被疑者が自己の犯行を悔いて自白する場合、その改善更生に役立つものである。刑事司法が真相の解明を使命とする以上、取調べが適正を欠く事があってはならない。しかし、今日でもなお、自白強要による虚偽自白を原因とする冤罪事件は絶えていない。最近では、無罪判決はまだ出ていないが今年6月4日に元被告人が釈放された、足利事件がある。2007年には、鹿児島志布志事件、富山氷見事件という2つの事件において無罪判決が出され、冤罪であったことが明らかになっている。
 日本の刑事裁判は、科学的・物的証拠よりも、取調べで作成された自白調書を偏重している。戦前の拷問による自白強要の深い反省から、日本国憲法38条は次のように定めている。「強制、拷問、若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」(2項)。しかしながら、実際は自白強要を法廷で訴えても、強要していないという警察官証言が採用されがちである。また、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」(同条3項)とあるが、自白をした者は有罪判決を受けやすい。そのため、事件を早期解決し、検挙率を上げなければならないと思っている捜査官は、人権侵害的な取調べをしようとしてしまうのではないか。
 現在の取調べの問題点はいくつかあるが、その中でも大きいのが代用監獄の存在である。本来行政的措置のための施設である警察留置場を、被疑者を収容し拘禁する施設として代用するためこう呼ばれる。代用監獄と拘置所では、管理・処遇の面で相違が生じ、拘置所のほうが被疑者に有利となっている。なぜなら、代用監獄での被疑者の生活は、1日24時間常に捜査当局の監視と管理の下に置かれるものだからである(これに対し、拘置所は法務省管轄の施設であり、警察とは独立しているから、そのようなことはない)。また、取調べには弁護人の立会いも許されず、その内容が録音・録画されることも従来なかった。厚い扉に隔てられた完全な密室である。これらが原因で、脅迫、暴力、利益誘導等の被疑者に対する人権侵害的取調べが行われているといわれている。つまり、被疑者の取調べが冤罪の原因となってしまっているのである。
 これらの問題を受け、警察庁は「警察捜査における取調べ適正化指針」を2008年1月に策定した。そして、これを実施するため「被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則による被疑者取調べ監督制度」を導入し、今年4月に施行した。これは、警察部内のチェック機能を発揮させることにより、不適正な取調べを未然に防止しようとするものである。しかし、全く新たな制度の導入であるため、捜査担当者の間で戸惑いが生じる事が懸念されている。  一方、日本弁護士連合会(以下「日弁連」)は、被疑者の取調べの適正化という観点から、取調べの可視化(取調べ全過程の録画)を求めてきた。これは、捜査過程を透明化し、違法・不当な取調べを減少させ、取調べの適正化をもたらそうというものである。さらに、取調べの状況を直接客観化し、自白の任意性立証が容易になるため、審理の迅速化も期待できる。これを受けて、最高検察庁は2006年5月、被疑者取調べの録音・録画の施行を実施することを発表した。そして1年4カ月の試行を経て、その報告書を作成した。そのうえで、2008年4月から今年の3月末まで再び試行し、「取調べの録音・録画の試行についての検証結果」が発表された。その翌月には、警察庁からも「警察における取調べへの録音・録画の試行の検証について」が発表された。この2つの報告書に対し、日弁連は「密室取調べの弊害に対する配慮を全く欠いたまま、一部録画を正当化しようとするものであり、不当というべきである」との意見を出している。
 私は、全取調べの可視化を現在の取調べの問題点の解決策として推したい。取調べ全過程の録画を行えば、不適正な取調べが減り、自白の任意性立証が容易になるため、効率的に問題を改善・解決できると思うからである。現在行われている長時間にわたる取調べや裁判での不毛な証人尋問の繰り返しは、非効率的で無駄なコストがかかってしまう。また、今年8月から裁判員裁判が始まった。裁判員裁判は、連日開廷する法廷での証言と示された証拠だけに基づいた審理でなければならない。そのためには、供述調書の作成過程が客観的に検証できる可視化が必要だと考える。
 しかし、自白偏重がなくなれば、科学的・物的証拠に重点を置かざるを得ない。そのため、証拠の収集に時間がかかる等の問題が残る可能性がある。裁判員裁判が始まった今、私たちはこれ以上冤罪事件が起きぬよう、日ごろから問題意識を持って、可視化という制度を確立していく必要があるだろう。

参考文献

日本弁護士連合会『裁判員制度と取調べの可視化』(明石書店、2004年)
小田中聰樹『冤罪はこうして作られる』(講談社現代新書、1993年)
小池振一郎=青木和子『なぜ、いま代用監獄か』(岩波書店、2006年)
小林道雄『日本の刑事司法──なにが問題なのか』(岩波書店、1992年)
渋谷秀樹『憲法』(有斐閣、2007年)
日本弁護士連合会HP http://www.nichibenren.or.jp/(最終アクセス日:2009年10月6日)


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