平成23年度
公募制自己推薦
ALT型レポートのテーマ


●課題

「法曹人口」というテーマについて、以下の内容を含む1200字〜2000字のレポートを書いてください。

1)このテーマについて、どのようなことが問題となっているか。
2)その問題が出てきた背景には何があると考えられるか。
3)その問題についてはどのような見解があるか、また、その見解に対する反論をあげなさい。
4)自分はどのような見解を支持するか(理由を必ず付けること)。
※レポートを書く際には、「司法制度改革審議会意見書」、「法化社会」、「規制緩和」、「自由競争」および「法曹の質」、という5つのキーワードを必ず使わなければなりません(文中のキーワードには下線を付して下さい)。

●出題の意図

 平成11年にはじまった司法制度改革は、明確なルールと自己責任原則に貫かれた事後チェック・救済型社会への転換に不可欠な重要かつ緊急の課題として捉えられ、利用者である国民の視点から司法の基本制度を抜本的に見直すというものでした。これにより法曹養成制度改革や裁判員制度など、様々な改革が行われました。
 しかしながら、改革からまだ日も浅いにもかかわらず、早くも見直しの必要性が主張されているのが今回の課題である「法曹人口」問題です。
 これについては、法学部を志すみなさんには、これまでの経緯や現在の状況を知っておいてほしいところですので問題としました。新聞などの日々のニュースをはじめ様々な情報があるので、キーワードを手がかりに高校生でも十分に情報を得ることができるでしょう。それら多くの情報を精査した上で、何を自分なりの課題として設定し、それについての議論を整理・分析した上で、自分の考えを説得的に提示できているかがポイントとなります。

●採点ポイント

1, 形式について
 問題文中にあるキーワード5つを使用しているか(下線を付しているか)、文字数(1200字-2000字)を守っているか、解答用紙(あるいはワープロ原稿の場合でも)の使用についてのルールや句読点などの表記のルールを守っているか、誤字・脱字はないか、といった形式的なところは、当然チェックされるところです。これらを守った上で、日本語として整っているということも重要です。
 また、HPで公開されている過去の問題解説などにもあるように、参考文献をきちんと形式にのっとって挙げているか、インターネットの記事の引用については、それが十分に信頼に値する記事であるかどうかなどもチェックします。

2, 内容について
1) テーマにつきどのようなことが問題となっているか。
 現時点では法曹養成制度が改革されて間もないにもかかわらず、法曹人口増加のペースをダウンさせる議論が活発です。そこで「適正な法曹人口とは」、「法曹人口は拡大すべきか」などが問題として考えられるでしょう。
 キーワードの1つである「司法制度改革審議会意見書」のみから問題を設定しようとすると、「法曹人口の不足」が問題となっているように見えますが、当時と今とでは問題状況が異なっているところに注意が必要です。

2) その問題が出てきた背景には何があるか?
 簡単にこれまでの経緯を見てみると、平成13年の司法制度改革審議会意見書では、@国民の期待にこたえる司法制度の構築(制度的基盤の拡充)、A司法制度を支える法曹のあり方(人的基盤の拡充)、B国民的基盤の確立(国民の司法参加)が指摘されています。本問との関係ではAの部分です。このころの問題意識は国民生活における法曹需要の質的・量的増大(規制緩和による法化社会の到来、諸外国との比較、地域偏在の解消など)から法曹人口を拡大すべきという議論になります。当時の法曹人口は約2万人ですが2018年に5万人をめざすとされており、司法試験合格者は2010年には年間3000人に増加予定でした。
 平成16年には法科大学院により「プロセスとしての法曹養成」がスタートし、平成18年から新司法試験が始まりますが、早くも平成20年には日弁連により「ペースダウンの提言」が出されました。司法研修所の2回試験で不合格者が出たこと、「法曹の質」の低下のおそれ、法科大学院やOJT(On the Job Training)などの法曹養成制度が未だ十分でないことが指摘されています。

 3) その問題についてどのような見解があるか。また、その見解に対する反論をあげなさい。
 これは1)でどのような問題を設定したかによります。仮に「適正な法曹人口とは」と設定したとすると、2)で見たように、「法曹の質」(←キーワードの1つ)との関連が問題となると考えられるでしょう。例えば「法曹人口の増加をペースダウンすべき」という見解がありますが、これは簡単にいえば「法曹人口増加により、法曹の質が低下するので増加をペースダウンすべき」ということになります。
 これに対する反論は様々です。例えば「法曹人口が増加することにより市場原理による淘汰がなされる。これによって結果として法曹の質の向上が図られる」ということも考えられます。この場合、「ペースダウン論」も「拡大論」も、「法曹の質を維持する」という点においては同じなのですがアプローチが異なるわけです。
 他にも様々な見解があると思われますが、1)で設定した問題に対する見解をひとつあげ、それに対する反論をあげることにより、1つの観点からだけではなく、広い視野で問題を分析することができると思います。これは、次の4)のための準備段階なので、どんな見解をあげるにしても議論の整理ができていれば結構です。

4) 自分はどのような見解を支持するか(理由を必ず付すること)。
 3)であげた立場について、どちらを採るにしても(あるいはどちらも採らず、第三の見解をあげるとしても)、理由を付して論じられているかが重要です。この部分にもっとも力を入れて欲しいと思うのですが(設問1)?3)は準備段階で、4)が結論部分)、残念ながら答案の中にはこの部分の論述が薄く、感想程度のものが多いように見受けられました。

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●解答例
以下では、概ね評価の高かったレポートを、一部修正の上、紹介します。レポート執筆の参考にしてください。

「法曹人口と法曹の質」

 政治改革、行政改革、地方分権推進、規制緩和等の経済構造改革等の諸改革により、21世紀の我が国は、過度の事前規制・調整型社会から事後監視・救済型社会への転換を図ろうとしている。このような諸改革は、国民にとって、紛争が生じた際には、既存の共同体内部の秩序や事前の規制による救済ではなく、法や裁判によって事後的に自己責任で解決するという法化社会の到来を意味する。
 このため、平成13年に出された「司法制度改革審議会意見書」は、司法を「法の支配の理念に基づき、すべての当事者を対等の地位に置き、公平な第三者が適正かつ透明な手続により公正な法的ルール・原理に基づいて判断を示」すものであり、政治と並んで「公共性の空間」を支える柱である、と位置づけた。このように司法が重要な役割を担うとなると、司法の運営に直接携わるプロフェッションとしての法曹の役割が格段と大きくなり、人的基盤の拡充が必要となる。我が国では従来法曹人口が十分とはいえなかったため、法科大学院による新たな法曹養成制度を整備するとともに、平成22年には新司法試験の合格者数を年間3,000人にまで増加させることにより、法曹の質・量を大幅に拡充することとなった。
 現状では合格者数は年間3,000人までには至っていないものの漸次増加し、平成10年に16,853人だった弁護士は平成20年には26,964人となっている。この改革が実現された結果、「法曹の質」の低下、新任弁護士の就職難など様々な問題が浮き彫りになった。司法制度改革審議会においては、法曹人口が増加しても市場の自由競争によって、質の高い法的サービスを低廉な価格で受けることができるようになり、質の低い弁護士が淘汰されるという考えがあった。しかし、平成20年に最高裁判所が平成19年の司法修習の修了試験について「最低限の能力を修得しているとは認め難い答案があった」と指摘した。
 また、当初は法曹人口の拡大を推進してきた日本弁護士連合会も、平成20年の「法曹人口問題に関する緊急提言」や平成21年の「当面の法曹人口のあり方に関する提言」において、法曹の質の確保、法的需要の動向、財政措置を含む司法の制度的基盤整備の状況など、司法を取り巻く環境の変化は、この間の弁護士人口増加の状況に比して、当初の想定に沿った進展に至っていないことを理由として増員ペースの見直しの姿勢を示した。
 これに対して、法科大学院協会は、@新司法試験に合格した司法修習生が、全体として、旧試験時代の修習 生に比べて劣るという客観的な証拠はなく、新しい法曹養成制度の成果は、いわゆる2回試験の結果という部分的な評価ではなく、実際に実務についた法曹が良質の法的サービスを提供できる専門家として社会に貢献しているかどうかによってこそ測られるべきものであること、 A増員見直し論の根底には、法曹資格者の就職難や弁護士間の競争の激化などへの懸念があると思われるが、それは司法制度改革の展望を欠いた議論であること、B国際的な司法分野における競争という観点からも、増員見直し論は疑問であるなどとして、増員見直し論に反対している。
 しかしながら、私には現在の日本国内においては司法制度改革審議会がその論拠とした市場原理が成立するほどに、法的サービスに対する一般国民の需要があるとは考えられない。たとえいわゆる弁護士過疎地などにはそのニーズがあるとしても、増加した弁護士は結局のところ都会に集中し、就職難という現象になっている。
 次に、法曹人口拡大論の根拠として、しばしば諸外国との法曹人口の比較があげられるが、日本においては隣接士業(司法書士、行政書士など)が存在しているのであり、諸外国においてはそれらの職域も弁護士が行っているのである。この点から、単純に法曹人口の比較をすることはできないと考えられる。
 さらに、迅速かつ充実した裁判のためには、単に弁護士のみの増員ではなく裁判官や検察官の増員も求められるべきである。実際、平成7年から平成19年にかけての増加率を見ると、弁護士が53%増であるのに対し、裁判官は19%、検察官は21%であった。主として弁護士の増員のみが実現されている現在の法曹人口拡大ではなく、司法基盤整備のためには調和のとれた拡大が望まれる。
 以上から、私は、現状のままの法曹人口拡大はこれ以上進めるべきではなく、ペースダウンさせるべきであると考える。
以上

参考文献
1,司法制度改革審議会意見書
 http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/report/ikensyo/index.html(最終アクセス日2010年9月28日)
2,日弁連「法曹人口に関する緊急提言」「当面の法曹人口に関する提言」
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/index.html(最終アクセス日2010年9月28日)
3, 青山善充(法科大学院協会理事長)「法曹養成制度をめぐる最近の議論について」
http://www.lawschool-jp.info/press/press07.html(最終アクセス日2010年9月28日)
4,村上政博『法科大学院-弁護士が増える、社会が変わる』(中公新書・2003年)
5,河井克行『司法の崩壊』(PHP研究所・2008年)
6,小林正啓『こんな日弁連に誰がした?』(平凡社・2010年)
7,佐藤幸治・竹下守夫・井上正仁『司法制度改革』(有斐閣・2002年)


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