宮本武蔵の身体技法に学ぶ

スポーツ・身体文化 加藤 寛教授

最強の剣豪ともいわれる宮本武蔵の伝記書『武公伝』に、武蔵の動きはあたかも仕舞のように静かなものだった、と記されている。武蔵自身も五輪書で、「鍛錬をもって惣躰自由(そうたい−やわらか)なれば、身にても人にかち」と柔らかくしなやかな動きを強調し、また、「太刀はふりよき程に静かにふろ心也」と教えている。さらに、「上手のする事は緩々にと見へて、間のぬけざる所也」とも言っている。

  人々が仕舞のようだ、と思った動きは、実は衝撃的な破壊力を秘めた静かさなのである。

  武術は室町時代の中頃から流儀としての形を整えはじめるが、それぞれの流儀により指導法が確立してくると、和歌という簡潔な表現によって、技や心を教えようとする試みが行われているようになった。それらのなかにも、力まず、しなやかに兵法を使うことを説いたものがある。

 手と肩の力を抜いて腰強く

   飛ばず剣は岩通すなり(根岸流手裏剣) 

 

 兵法はやはらかにして強くあれ

   きつく弱きは下手のふるまい(新陰流剣術) 

 

 りきみなくよわきを己が心にて

   柳の枝に雪折れはなし(荒木流拳法) 

 

 手の内は唯和らかに持なして

   あたる時にぞ手をば締めぬる(宝蔵院流槍術)

 

 これらの先達の教えは、我々の日常の身のこなしを含め、武道やスポーツなどの身体文化を習得していく時のよい参考になろう。

 


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