忘れられる単語――ひよめきの話 |
日本文学科 久野 マリ子 |
ずっと以前、愛知県犬山市にある京都大学霊長類研究所へ行く機会があった。
「何グラムですか?。何時間おきにミルクを飲ませるのですか?」 それから、ひとしきり「ひよめき」の語の話で盛り上がった。驚いたことに、周囲にいた大学院生は、誰一人として「ひよめき」という語も、それがどのようなものかもまったく知らなかったのである。 「ひよめき」は私が子供の頃は、オドリコという方言語形をもっている有名な人体部分であった。それが何故かあっという間に(と言っても15年くらいはたったかもしれない)、知る人もない無名な部分に変わってしまったのだ。 日本語の一つの語が消えていくところを、目の当たりにしたと言うのは大げさ過ぎるが、本当に、あっという間である。 人体語彙の中には、たくさん方言語形を持っている部位があるのだが、「ひよめき」もその一つで、「そこに息を吹きかけるとしゃっくりが止まる」だの「命にかかわるから、そこだけ毛を剃らないで残しておく」だの、方言調査にいくと楽しい回答が聞けるお気に入りの項目の一つだったので、残念である。 「ひよめき」の意味がわからない方は、国語辞書を引いてみて下さい。日本国語大辞典か、広辞苑になら出ていると思います。「ひよめき」と同じように忘れ去られている語に「ひかがみ」という語があるので、それもついでに調べてみて下さい。 |