「考古学実習を引き継いで」


史 学 科    谷 口  康 浩

 

 考古学研究室が考古学実習の一環として遺跡の発掘調査を開始してから、もう30年近くが経つ。小林達雄先生が本学に着任してすぐに、新潟県壬遺跡(縄文時代草創期)の発掘に着手したのが、今の実習発掘のはじまりであった。さらに吉田恵二先生の三宅島での調査が加わり、わが考古学研究室はこれまで、全国各地で次々と重要遺跡の調査を行ってきた。一連の調査に参加した考古学徒は優に1000名を超える。発掘調査から報告書作成までを学生が主体的に行う授業は全国でも珍しい。寝食を共にしながら遺跡の発掘に汗を流すことはもちろん、酒を飲んで議論したり、思うように進捗しない報告書作成に悩んだり、普通の授業では味わえないさまざまな経験をする。多くの考古学専攻生にとって考古学実習は特別であり、生涯忘れ得ぬものであると思う。旅費や食費の負担額は少なくないのだが、それも自分への貴重な投資と考えれば、決して高くないのではないか。 私自身も、実習生として、大学院生として、また助手として、長くこの実習発掘に携わってきた一人である。今度は専任教員として、この伝統を継承・発展 させていくべき立場となった。簡単な仕事でないことはよく承知しているが、これだけは何としても受け継いでいかなければと思っている。考古学のモノの見方や考え方は、教室で教えられる知識だけではなく、実際の遺跡の発掘調査に取り組みながら、実践の中で個々人が主体的に考えるべきものだからである。考古学実習を通じて、多くの専攻生たちがそのような考古学の面白さを知ってほしいと、願わずにはいられない。 昨年の本ノ木遺跡の調査時に、ある事件が出来したとき、小林先生が学生たちに涙ながらに語った言葉が忘れられない。「こういういやなことが起こるたびに、いっそ発掘なんかやめてしまおうと思うことがある。でも、やめてはいけないんですね。発掘というのは、考古学の出発点だから。発掘を経験し、真剣に遺跡と向き合う中で考えることが、何より大切なんだ。」

 

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