中華人民共和国西安于右任故居紀念館インターンシップ実施報告

博物館学コース博士課程後期1年 野中優子

西安于右任故居記念館正面西安于右任故居記念館正面

・実習期間と受け入れ博物館
 2010年7月29日から8月27日までの30日間、中国は西安にある于右任故居紀念館に受け入れていただきました。西安于右任故居紀念館は歴史の古い中国でも特に古い歴史を持っている西安の城壁の中にあり、明・清代の最高学府である関中書院がある書院門の通りに位置する博物館です。于右任故居紀念館はその名の通り、書家・思想家として名高い于右任がかつて暮らした家を修復・改築して造られており、展示は于右任の生涯を年代別に見せる展示と、于右任の書の展示で構成されています。
 博物館の職員は館長1名、副館長2名、警備兼総務が2名、チケット販売や案内をするスタッフが2名、日本からの研究員・学芸員が1名の総勢8名の規模としては小さな博物館です。博物館の職員は8名であるが、博物館の1階エントランスの展示室と2階を画商に貸しており、博物館で働く人はかなり多い印象でした。
 1階エントランスの展示室という博物館としての導入に当たる重要な場所を画商に貸していることからもわかるかと思いますが、この博物館はただ単に于右任の事を展示する目的だけでなく、博物館を使って利益を得る努力を行っています。展示室を貸すことで于右任故居紀念館は賃料を得て、画商は博物館である于右任故居紀念館で絵を販売しているという顧客の信頼を得ます。また、オークションなどで于右任故居紀念館が購入したいものがあると画商が交渉をするという協力関係があり、これは非常に興味深いものでした。

・博物館での業務
 1週間のうち木曜日から日曜日までの4日間、全体で13日間を于右任故居紀念館で過ごさせていただきました。于右任故居紀念館の1日の流れとして、開館前に掃除、お客様へ提供するお茶入れをし、定刻に開館、開館後はエントランスでお客様を待ちます。お客様が来たらチケットを売り、展示室に電気をつけます。17時半になると閉館をし、電気を消して業務日誌を書き1日の仕事が終わります。この他に館長のお客様がきたら対応をし、一ヶ月間に3度お花を生けるなどの仕事もあります。
 私がさせていただいた業務は、朝のお茶入れと掃除、開門、生花、お客様がいらっしゃったときに展示室の電気をつけることなどです。1日の多くはチケットを売る方とエントランスで過ごしましたが、ここでじっくりと時間をかけて博物館について立地と天気の関係や、エントランスの重要性など考える事が出来ました。
 書院門は西安の中でも古い町並みが残る観光客に人気の場所ですので、于右任故居紀念館にもよく観光客が立ち寄っていましたが、雨が降ると書院門の人通りは驚くほど少なくなり、それと同時に来館者もいなくなってしまうことがよくありました。そのような日は初めから開館せず、展示室の掃除など整備をしており、雨が止んだら開館していました。

エントランスエントランス

展示の様子(点灯前)展示の様子(点灯前)

休憩スペース休憩スペース

・周辺調査
 1週間のうち月曜から水曜は于右任故居紀念館をお休みして、西安市やその周辺の博物館の調査に充てました。大唐西市、西安城壁、西安博物院、碑林博物館、兵馬俑博物館、大雁塔、興慶宮公園、華清池、臨潼博物館、驪山、半坡博物館、陝西歴史博物館、西安植物園、大唐芙蓉園など西安の見所にかなり行くことができました。路線バスの乗り方がわからず、タクシーもなかなか捕まらなかったので、市内の移動は殆ど徒歩で移動しました。一日に何時間も歩くことになりましたが、歩いたことにより西安の一般の人の生活が近くで見ることができました。
 中国の博物館は国が博物館の評価を明確にしている点が面白く、評価を受けている博物館はその証明を博物館のどこかに掲げてあり、参考になりました。古い歴史に裏付けられたすばらしい展示物に深く感動しましたが、その他に博物館が利益を得るための様々な努力にも感動しました。最も驚いたのは碑林博物館の貴重な展示品の拓本をとって展示室で販売していたことですが、どの博物館にもミュージアムショップとは少し違うお土産屋が入っており、熱心に商売がされていました。中国では博物館は単に文化施設ではなく、利益を得ることができる場所であるようです。

華清宮御湯遺址博物館華清宮御湯遺址博物館

碑林博物館の拓本職人碑林博物館の拓本職人

半坡遺跡内にあるお土産屋半坡遺跡内にあるお土産屋

西安城壁から見る古い街並みと奥の高層ビル西安城壁から見る古い街並みと奥の高層ビル

・総括
 30日間、西安で生活し感じたことは、西安の人たちは古い歴史の都市に住み、その歴史をうまく利益に結びつけていること、歴史を残しつつも常に開発を続け新しくなっていることなどです。しかし、これまでは古さを残しつつ新しくされていましたが、近年行われている急激な開発は古いものを壊して新しいものを作る開発のようで、今残っている昔ながらの街並みや古い家がどんどん無くなっているとお話を伺いました。生活の豊かさと歴史の古さをどちらも守るのは大変なことですが、歴史の古いものを残すことは現在苦労しても100年後の人に残せる大切な遺産です。歴史の古いものを残し、中国ならではの手腕を持ってそれを利益にかえる方法をこれからも実践してもらいたいと思います。

業務風景業務風景

 日本にいては到底考えが及ばなかった博物館の利益、経営についてインターンシップに行ったことにより考えることができました。例えば、中国の博物館に見る積極的な利益の追求は今後の日本の博物館も学ぶべきものであるといった事などです。中国で得た新しい視点でこれからも日本の、また、世界の博物館について考えていきたいと思います。
 今回、インターンシップという貴重な機会を与えてくださった先生方、受け入れてくださった西安于右任故居紀念館の于館長他職員の方に心より感謝し御礼申し上げます。


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