平成21(2009)年度 第1回特別講義 白承玉氏
            「釜山広域市立博物館の現状と今後の課題」

講師:白承玉(ペク・スンオク)釜山広域市立博物館学芸研究室長
日時:平成21(2009)年12月7日(月)17:50~19:20
場所:國學院大學渋谷校舎若木タワー 506教室
通訳:高慶秀氏(國學院大學研究開発推進機構伝統文化リサーチセンター外国人研究員)
受講者:約30名

講義内容要旨:
 釜山広域市立博物館は釜山博物館・福泉博物館・近代歴史館・臨時首都記念館・東三洞貝塚展示館の5館で構成されている。それぞれの館によって特色を備えているが、核となる展示テーマは釜山広域市域の先史時代から現代までの歴史と文化の重要資料で構成されている。
 本館である釜山博物館は、常設展示では時代別・テーマ別展示を行っており、特別展示に関しては所蔵資料を基に国内的なテーマを主体とする「国内展示」、日韓交流史などを重点的に取り上げた「国際展示」、さらに他館から借りた資料を基にした「貸館展示」の3種類の特別展・企画展を行っている。東三洞貝塚展示館と福泉博物館は野外博物館としての機能も持ち合わせており、新石器時代の東三洞貝塚と三国時代伽耶文化の福泉洞古墳群を保存・展示している。一方、臨時首都記念館と近代歴史館は、日本による植民地支配時代から朝鮮戦争後の復興期の重要な舞台となった歴史的建築物を博物館として使用しており、近現代の歴史と文化に関する資料を中心に展示が構成されている。これらの博物館で行われる特別展・企画展の具体的な準備実施方法の流れは、日本とほとんど変わりはない。
 釜山広域市立博物館は、年間予算85億ウォンを基に75名の職員で運営されている。2008年度の年間合計入館者数は622,550人で、このうち外国人が13,980人を占め、その外国人の多くが日本人であることも地理的特色を反映している。
 本館と各分館の収蔵品総点数は、2009年現在で30,615点であるが、これらは購入品・蒐集品・寄贈品・受託品・保管品・発掘品に区別され、なかでも発掘調査による考古資料が大きな割合を占めている。大韓民国では発掘調査による出土遺物は本来国家に帰属するが、今後は地域の博物館でも管轄することにとなるため、保管状況(収蔵庫)の改善が必須課題である。更に今年度より発掘調査チームが組まれたため、急激に収蔵品が増えることが指摘される。
 所蔵品の保存に関しては科学的な保存方法がとられており、防災・防犯管理に関しては一括統制が行われている。
 釜山広域市立博物館の目指すところは、市民のための開かれた歴史・文化空間であり、釜山関連の歴史資料・文化資料を収集・保存・展示して、市民の文化素質向上に貢献することである。更に海洋都市釜山としてのシンクタンク的な役割を担っていくことも今後の目標としている。そのため、社会教育機能の強化・ボランティアの資質と役割の拡大・展示技術と手法の向上・保存活用方法の改良・国際交流など外部との連携協力体制を強化し促進していくことなどが今後の課題として挙げられる。中でも日本の博物館と同様の問題点として、学芸士(学芸員)職資質向上が現在の重要課題である。

講義風景1

講義風景2講義風景

講義風景3


(文責・撮影:博物館学教育研究情報センター)


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