大学における宗教文化教育の実質化を図るシステム構築
科学研究費補助金 基盤研究A

2008年度の研究成果


【グループ別成果】

第1グループ

全体の統括を行なっている第1 グループでは、第3グループとともに資格制度としての「宗教文化士」(仮称)のフィージビリティを検討し、到達目標を策定した。具体的な活動は以下の通りである。
  • 宗教文化士制度に関する検討会議の開催(2008年7月23日、同年9月12日)
  • 国際日本検定協会への聞き取り調査の実施(2008年12月15日)
  • 『英国学士課程教育 神学・宗教学分野資格水準』の翻訳
  • ご当地検定および留学生日本文化教材に関する資料分析
また、2009年2月11日には日本宗教学会の宗教文化士検討委員会、「宗教と社会」学会の宗教文化士ワーキング・グループと合同で、本科研メンバーから提出されたシラバスをもとに、宗教文化士制度のグランドデザインについての話し合いを行なった。

第2グループ

教材の開発と資格認定試験の検討を目的とした第2グループでは、以下のような活動を行なった。
  • 国際研究フォーラム「ウェブ経由の神道・日本宗教―インターネット時代の宗教文化教育のゆくえ―」の共催(2008年10月26日)
  • 研究会「海外勤務経験者の話を聞く会」の開催(計4回)(第7グループとの合同)
  • 第1回「宗教文化を広い視野から考える研究会」の開催(2008年2月1日)
  • 教材開発のための現地調査の実施(出雲大社、京都カトリック河原町教会等)
  • 宗教文化教育に関する学生の意識調査の実施(2008年10-12月、第4グループとの合同)
  • 宗教文化を学ぶためのリンク集の作成
  • 「博物館・資料館・美術館における宗教文化の理解を支援する展示の調査」の予備調査
  • ニュースレターの作成(第1〜3号)
  • ホームページの作成と管理
2008年度の活動のなかで特記すべきものは、次の3点である。まず、第4グループと合同で、「宗教文化士」の資格に関する学生のニーズ調査を実施し、計38大学5,005名の有効回答を得て、資格を「とりたい」14.5%、「条件によってはとりたい」42.9%という結果となり、過半数の学生がこの資格に肯定的であることがわかった。次に、第7グループと合同で、海外生活経験者等を招いての研究会を実施し、日常生活をともにする形態であるほど、宗教文化についての知識が必要となることが確認できた。そして、国際シンポジウムにより、宗教文化教育の必要性は多くの国で重要な課題として認識されてきていることが明らかになり、宗教文化圏ごとの違いに留意することの重要性を確認できた。

第3グループ

資格認定のためのカリキュラムの検討を行なっている第3グループでは、外国の高等教育における宗教学分野のアウトカム評価システムを調査した。具体的な活動は以下の通りである。
  • 国際宗教教育学会での情報収集・交換
  • 国際的な宗教学・神学の学術誌Teaching Theology and Religionの編集委員会での情報収集・交換
  • 国連のEducation about Religions and Beliefs Clearinghouse(宗教文化教育に関する国際的ネットワーク)への参加の準備
  • 国際日本検定協会の事務局へのインタビュー調査の実施(第1グループとの合同)
さらに、第1グループと合同でグランドデザインおよびカリキュラムを検討し、サンプル・カリキュラムを作成した。

第4グループ

学生のニーズ調査などを担当する第4グループでは、第2グループとの合同の学生に対するニーズ調査(2008年10〜12月)、多文化共生教育における宗教文化教育の要素を探るための、愛知県豊田市・豊橋市および静岡県湖西市における行政3ヵ所、市民団体4ヵ所の聞き取り調査(2009年3月29〜30日)を実施し、社会における宗教文化教育の必要性を確認した。

第5グループ

外来宗教の実態調査などを担当する第5グループでは、以下の調査を行なった。
  • 群馬県伊勢崎市のムスリム
  • 群馬県太田市および同県邑楽郡大泉町のブラジル人教会
  • 富山モスク
  • 浜松ブラジル人教会
  • 滋賀県ブラジル人教会
  • 大阪(出来島)モスク
  • 北海道調査
こうした実態調査によって、現在増加しつつある海外からの移住者が担う外来宗教(モスク、上座仏教寺院、ブラジル人労働者の集うキリスト教会等)の施設が、日本各地で予想以上に教勢を伸ばしていることが明らかになった。

第6グループ

宗教文化教育に関する国際的な研究交流を推進する第6グループでは、以下の海外調査を行なった。
  • イギリス調査(2008年10月21〜30日)
    アバディーン大学、エディンバラ大学、グラスゴー大学、スターリング大学、 ランカスター大学、バーススパー大学の6大学を回り、リサーチ・アセスメント・エクササイズ(イギリスの研究評価システム)等について情報収集。
  • カナダ調査(2008年11月5〜7日)
    トロント大学の宗教・文化教育の研究者訪問(Ontario Institute for Studies in Education, University of Torontoの研究者2名、 St Michael's College学長)、および、学校現場(St. Joseph's College School)の実態調査を実施し、宗教・文化教育における大学と学校現場の連携などについて情報収集。
  • オーストラリア調査(2008年11月13〜19日)
    メルボルンのモナシュ大学とキャンベラのオーストラリア国立大学において、「宗教文化」 に関わる大学の授業について8名の教師から聞き取り調査を行なうとともに、キャンベラのグラマースクールを訪問して高校の宗教教育についてのデータを収集。
  • 香港調査(2009年2月10〜13日)
    香港教育学院と香港大学教育学部の研究者を訪問し、多宗教社会である香港の宗教教育事情を知るとともに、異なる宗教文化に対する理解を深めていくうえで有用な情報を得る。
以上のように第6グループでは、イギリス、カナダ、オーストラリア、香港の中等・高等教育機関を訪問調査し、大学や学校の教育現場における宗教教育・文化教育の実態、研究者と学校教員の連携、研究評価システム等について情報収集することで、「宗教文化教育」の方法論に役立つ知見を得ることができた。

第7グループ

国外における関連の情報を収集する第7グループでは、海外赴任経験者や外国人ジャーナリストを招いての研究会を第2グループと合同で実施し、滞在期間の長短や現地の日常生活への関わり具合によって、必要とされる宗教文化の知識が異なる点を確認できた。


【刊行物】

論文等

  • イギリス・高等教育水準審査機関(QAA)作成 「英国学士課程教育 神学・宗教学分野資格水準 Subject Benchmark Statement for Theology and Religious Studies」(日本語訳)、2009年
  • 井上順孝・渡辺学・平藤喜久子・藤原聖子・塩尻和子「パネル 情報時代の宗教文化教育の教材 (第67回日本宗教学会学術大会紀要特集)」『宗教研究』第82巻第4輯359号、2009年、101-107頁
  • 土屋博「日本における宗教教育の公共性―『宗教的情操』をめぐって―」『学園論集』第138号、2008年、1-15頁
  • 藤原聖子「宗教文化士と学士力認定制度が宗教学会になげかけるもの―評価・アカウンタビリティの要請とその危うさ―」『宗教研究』第82巻第4輯359号、2009年、58-82頁

アンケート調査報告書

  『宗教文化教育に関する学生の意識調査報告書』2009年

ニュースレター

  『ニュースレター』1〜3号

【研究発表】

  • 井上順孝(代表者・司会)・渡辺学・平藤喜久子・藤原聖子・塩尻和子(以上、発表者)・磯岡哲也(コメンテータ)「パネル 情報時代の宗教文化教育の教材」日本宗教学会第67回学術大会(於:筑波大学)、2008.9.14
  • 國學院大學研究開発推進機構日本文化研究所主催・科学研究費補助金基盤研究(A)「大学における宗教文化教育の実質化を図るシステム構築」共催「国際研究フォーラム ウェブ経由の神道・日本宗教―インターネット時代の宗教文化教育のゆくえ」(於:國學院大學)、2008.10.26
  • 土屋博「知識と情操の間」「パネル 「宗教的情操教育」をめぐる諸問題」日本宗教学会第67回学術大会(於:筑波大学)、2008.9.15
  • 藤原聖子「宗教文化士と学士力認定制度が宗教学会になげかけるもの―評価・アカウンタビリティの要請とその危うさ―」「公開シンポジム現代社会における宗教学の役割を問う」日本宗教学会第67回学術大会(於:筑波大学)、2008.9.13