国学院大学法学部横山実ゼミ


最近激変している少年非行 (2)


横 山 実

JK(女子高校生の略語)ビジネスの流行

これは、少年法研究会の例会(2015年3月28日 於國學院大學)で報告したときのレジュメの第11節の部分である。横山實「最近激変している少年非行」、警察政策学会少年問題研究部会編警察政策学会資料第80号『少年問題研究論文』(2014年)、86−117頁の要点を指摘し、2012年のデータを2013年のデータに更新したものである。

売春は、主に、男性による需要と、女性による供給から成り立っている。1965年に制定された売春防止法で、街娼の勧誘行為や管理売春などが犯罪化された。しかし、巧妙な形で、売春は続けられている。

今の草食型の成人男性は、同年代の女性と交際する自信がないためか、中学や高校の女子との交際を求めている。その需要に応じて、最近繁栄しているのが、JKビジネスである。

a)JKリフレ

JKビジネスとしては、2012年春頃から東京の秋葉原を中心にJKリフレ(refresh の省略語)の店舗が増えた。2012年末には都内で約80店舗となっていた(朝日新聞2013年2月7日)。このJKリフレは、制服姿のJK(高校生)が、個室で足をもんだり、添い寝をする。普通の高校生までもが、「リフレは風俗じゃないし、コンビニとかのバイトよりもお金もいい」として働く。性的満足を求める客により、キスを迫られたり、体にさわられたりすることもある。多くの稼ぎを求める女子少年の中には、オプションとして性的なサービスの提供もしている。女子少年を少女売春の業者に紹介したり、脱法ハーブを吸わせたりすることもある。

警視庁は、JKリフレで働く女子少年を保護する対策を検討し、中央労働基準監督署に法律の条文の適用について照会した。2012年12月の回答によれば、厚生労働省令が「有害業務」の一つに定める「客に性的な慰安、歓楽を与えることを目的にする業務にあたる可能性がある」。その回答を得て、警視庁は、全国で初めて、2013年1月27日に都内の17店舗を、労働基準法違反(危険有害業務の就業制限)などの疑いで家宅捜索した。

2013年冬までは、JKリフレで働く女子少年を、悪質業者からの保護の対象としていた。警視庁は、アルバイト感覚によって安易にJKリフレで働く女子少年を、逸脱行動をしている不良行為少年として取り扱うことにした(虞犯少年ではない)。

b)JKお散歩

警察の取締りが始まり、また、働く女子少年が警察によって補導されるようになり、JKリフレの店は減少した。JK(女子高校生)との交際の需要は、根強く残っていた。その需要に応えて、新営業のJKお散歩が始まった。

JKお散歩は、客に時間に応じた料金を支払ってもらうと、店で待機している女子高校生などとのデートの機会を提供するものである。JKお散歩は、女子少年が店内で客と二人きりになることがなく、また、店の規則によって客が女子少年の体に触れることを禁じているので、警察は、「有害業務」と認定して労働基準法違反で取り締まることができなかった。そこで、2013年の終わりには、秋葉原で営業しているのは、約100店舗になっていた。

警視庁は、2013年12月になって、JKお散歩の店で働いている18歳未満の女子少年を、「少年の心身に有害な影響を与える行為」をしているとして、補導の対象とした。地方自治体も、補導強化に協力していて、たとえば、秋葉原がある千代田区では、条例により「JKお散歩」を含めたすべての業種の客引きを禁じるようになった。

c)JK撮影会

2013年の初め頃から、JK撮影会という名称の営業が、秋葉原や池袋で始まった。撮影代金を支払った客が、店内の個室で、JKに希望のポーズをとらせて写真を撮る。2013年11月に摘発された店は、8月にJKリフレから撮影会専門店に衣替えしていた。

女子少年に対してひわいなポーズをとらせた業者を、労働基準法違反(危険有害業務の就業制限)と、重い刑罰を規定している児童福祉法違反(有害目的で児童を支配下に置く行為)で摘発。

少年の性をめぐる問題

少年非行の第2のピークであった1964年頃には、男らしさや腕力の誇示などを内容とする非行副次文化が存在していた。また、その文化は、普通の少年の副次文化から、明確に識別できた。

今の日本では、草食型の少年が増え、地域不良集団や暴走族が衰退している。今では、普通の青少年の副次文化は、逸脱行動も取り込んでいる。取り込まれるようになった逸脱行動の典型が、少年の性をめぐる逸脱行動である。

少年たちは、インターネットでのコミュニケーションの世界で、省略語や隠語を生み出し、独自の副次文化を形成するようになっている。その延長線上で、女子少年は、簡単にJKビジネスの世界に入っている。そして、アキバ系といわれるような少年文化を形成している。普通のJKも、マスコミや口コミなどで、この少年文化を知り、それを共有する。そのために、勧誘されてJKビジネスに入っていかないJKでも、交流サイト(SNS)や掲示板を利用し、小遣い稼ぎなどを目的にして、売春や性的魅力を売り物にする行為を行う。

警察は、性に関する少年の逸脱行動に対処するために、少年、特に女子少年の性的被害を防止するために、盛り場における街頭補導を強化している。そして、サイバー補導を始めている。

サイバー補導担当の警察官や少年補導職員は、インターネット上の掲示板や交流サイトを点検して、売春などを誘うサイトに入り、客を装って接触し、その後、実際に会って、その少年を補導している。

2014年1月から6末までの間、サイバー補導で補導されたのは、18歳未満の女子少年など、220人であった(日本経済新聞2014年8月21日)。性別では、男子少年が10人(4.5%)で、女子少年年齢別では、最年少は13歳の中学2年生で、平均年齢は16.2歳であった。高校生が最も多く、65.0%(143人)となっていた。援助交際を持ちかけたものが65.0%、下着の売買が34.1%、その両方が0.9%。

警察は、2014年4月から6月に、サイバー補導で補導した111人を対象にして調査。98.2%(109人)がスマートフォンを活用して、書き込みをしていた。スマートフォンの普及により、性に関する逸脱行動は、普通の少年にも広がりつつある。

少年は、性に関する逸脱行動で補導されても、警察官から注意されるだけで、また、要保護性が高い場合には保護者などに連絡されるだけで、解放される。それゆえに、援助交際の申し込みなどの逸脱行動を続ける少年は、たくさん存在している。

他方では、法律研究者や弁護士が適正手続きを強調した結果、家庭裁判所の審判における「虞犯」の認定は厳しくなっている。そのために、性的逸脱行動を繰り返している少年、特に女子少年でも、警察は虞犯事件して家庭裁判所に送致することを控えている。福祉モデルを重視する立場からは、性的逸脱行動を繰り返している少年で要保護性が高いものは、近い将来、具体的な罪名の犯罪をおこなう証拠や資料を収集できなくても、警察は積極的に家庭裁判所に送致して、保護処分で対処するきっかけを設けるべきといえる。家庭裁判所が刑事裁判所化している現状をふまえると、少年の健全育成の視点からは、軽微な少年事件について警察に不処分の権限を与えて、必要があれば、本人および保護者の同意のもとで、少年補導職員による

少年の性的被害

以前は、少年が犯罪に巻き込まれたり、被害に遭遇したりするのは、出会い系サイト。携帯電話から有害サイトにアクセスできないようにするために、フィルタリングを活用。最近の少年は、スマートフォンで、無料通話アプリケーションや交流サイトを使う。フィルタリングによる使用制限を受けなくなっている。そこで、少年、特に女子少年の性的被害の問題は、深刻かつ広範囲になりつつある。普通の女子少年が、スマートフォンを使って、交流サイトでコミュニケーションしたり、掲示板に書き込みしたりしているうちに、性に関する被害に遭遇することが増えているからである。

今の草食型の男性は、肉食型のように暴力を行使して女性を強姦するようなことはしない。その半面、執拗な行為や陰湿な行為で、性欲を持たすようになっている。その陰湿な行為としては、他人になりすまして、女子少年に性的被害を与えるもの。

警察の発表によると、インターネットのコミュニティーサイトがきっかけとなって、性的な被害に遭った18歳未満の子どもは、2014年上半期には、前年同期に比べて16.7%増加して、698人に達した。掲示板で知り合った相手のIDを登録して、それを使ってやり取りを始めた結果、性犯罪などの被害に遭ったケースの増加である。

このようにして被害に遭った18歳未満の子どもの数は、2012年の1年間の36人、2013年上半期の117人、同年下半期の235人から、2014年の上半期には、262人へと急増している(朝日新聞、2014年9月18日)。262人の被害者の年齢別を見ると、15歳以下の子どもが被害者全体に占める割合は、出会い系サイトと比べて11ポイント高い54%となっていた。

コミュニティーサイトをめぐって子どもが性的被害を受けた摘発された事件の数は、前年同期に比べて10.4%増加の948件であった。その大半は、青少年保護育成条例違反と児童買春・ポルノ禁止法違反であった。

2013年に全国の警察が摘発した<児童ポルノ事件は、統計を取り始めた2000年の10件から増加して、過去最高の1,644件となっている。犯行の態様は、写真や画像の撮影などの「製造」と、インターネット上での掲載などの「流通」が、ほぼ半数ずつであった。

捜査を通して身元を特定した18歳未満の被害児童の数も、過去最高で646人。このうちの半数が、携帯電話やスマートフォンで加害者と知り合い、裸の画像を送らされるというような被害に遭っていた。被害児童のうち42%は、自分で裸を撮影してメールで送る「自画撮り」であった。ファイル共有ソフトで児童ポルノをネット上で閲覧できるようにしていた事件が507件。裸の画像が、一旦サイトに掲載されると、それは際限なく閲覧され、流通する。騙されて撮影されたり送らされたりした自分の裸の画像がサイトに掲載された場合、女児の心の傷は深く、癒されることはない。そのような悲劇が生じないように、予防策を充実させることが必要である。無料アプリケーションや交流サイトを使って被害に遭わないように、教育するのが大切。

結 語

今の子どもは、一人子や二人子なので、保護者および周りの大人によって、過保護といえるほど、大切に育てられている。そこでは、管理が徹底していて、非行行為や危険な行為に対する監視だけでなく、犯罪や事故による被害の防止のために、日常的な行為までも監視されている

子どもへの殺傷事件や子どもの死傷事故が発生すると、マスメディアはそれを大きく報道。その度に、人々、特に母親たちは、モラルパニックを起こし、過剰反応して、子どもの保護・監視の体制を強化する。保護・監視が不十分のために、子どもが犯罪や事故に巻き込まれた場合、監督責任がある者は、保護者から責任が追及され、損害賠償まで請求されることがある。子どもに対する保護・監視の体制は、監視カメラの導入などで、際限なく強化される。日本は、トータルな監視社会に向かっているといえる。

他方、子どもたちは、インターネットの世界で、大人の監視の目を逃れて暮らしている。彼らは、「他人指向型」の人として、異常なまでに仲間の目を気にして、仲間からの発信を受け取るレーダーを張巡している。それは、LINEなどの交流サイトの使用によって加速されている。

彼らは、メッセージのやり取りで、また、ゲームに没頭することで多くの時間を使い、勉強や読書の時間を減らしている。やり取りするメッセージの内容は、宿題の問題への回答を教えてもらうこともある。しかし、メッセージの多くは、刹那的に思いついた話題他愛無い会話である。刹那的な会話で一時的には、他人との接触について情緒的な満足を得るかもしれない。

彼らは、交流サイトの仲間から、仲間外れにされることへの不安を絶えず抱いている。その不安のために、刹那的な会話を繰り返していくという消耗的な生活を送っている。また、交流サイトを通しての「いじめ問題」が深刻化している。

若者は、学校を卒業すると、社会で働き、自立することが求められる。今の若者は、私的世界で刹那的な楽しみを享受していて、自立への準備ができていない。そのような若者は、就職しても、厳しい競争社会で生き抜くことに耐えきれない

非行少年対策でも、に居場所づくりをしたり、彼らに手取り足取り指導したりするほか、彼らが自ら自立してゆくような方策を確立すべきである。女子少年は、男女共同参画社会基本法のもとで、たくましく暮らすようになっている。他方、男子少年は、親、特に母親の過保護の下で、自立心を養えないでいる。

日本社会が持続発展するためには、少年たちが、たとえ、非行を行った少年でも、将来に夢を持ち、自立してその夢を追求していけることが望まれる。大人たちは、単に彼らを保護・監視するだけでなく、彼らに夢を持ってもらえるような社会を築いていくことが求められる。(平成17年4月16日に、このホームページに掲載)

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