1 プロローグ〜代替 【本書の目次へ戻る】【つぎへ】

  Lipnack and Stamps(訳1984:23)が提唱した「他人とのつながりを形成するプロセスである」ネットワーキングは、この「ネットワーキング」という言葉に新しい意味を持たせた。そして、Lipnack and Stamps (訳1984:31)は、ネットワークは自分たちを表現する際に、代替教育や代替エネルギーなどのように、それぞれの活動分野に対しての「代替」(alternative)という言葉を多用してきたと指摘した。Lipnack and Stamps(訳1984:34) の「さまざまな問題を提起し、その解決策を主として既存の体制の外に求めるような人びとによって、自発的に形成されたネットワーク」という定義に示されるように、ネットワーキングは既存の体制に代替して新しい価値志向を探索するプロセスでもある。さらに、Lipnack and Stamps(訳1984:296)が指摘したように、ネットワークでは「価値を創造すること自体に価値がある」ならば、ネットワーキングは「一般化された信念の名において価値を復興、防衛、変容、創造しようとする集合的な企て」(Smelser,訳1973:421)である価値志向運動1)であることが多い
。  2 ネットワーキングの背景で検討するように、工業社会においては物質を大量生産することが優先され、効率的に物質を大量生産するためには、ヒエラルキー型意思決定や集団が適していた。そして、工業社会においては、物質を大量生産する以外のことは優先順位が下げられてしまった結果、さまざまな歪みが生まれた。
 例えば、植民地を広範に略奪した先発工業国が工業化を進めていくために、植民地の先住民族や植民地へと強制移住・強制労働させられた人びとが犠牲となったり、工業製品を効率的に大量生産するためには、さまざまな有害物質を工場から散逸することが黙認され、公害や環境破壊が起きてしまった。
 工業化の結果としての歪みとネットワーキングにおける代替とを対照してみよう。植民地支配の結果、先住民族や被強制移住者=被強制労働者の子孫が従来は正当な人権を認められてこなかったという歪みが生じた。この歪みに対して、先住民族や被強制移住者=被強制労働者の子孫の正当な人権を認めさせることが代替である。「宗主国」こと侵略国によって搾取されてきたために工業化が遅れ開発途上国となってしまった国々があるという「南北対立」の歪みが生じた。この歪みに対しての、植民地の搾取を前提とした侵略国型の開発の替わりに他国を搾取することなく進めていく持続可能な開発を行うことが代替である。工業製品を廉価に大量生産するために有害物質を散逸し公害が起きた。公害という歪みに対して、有害物質を排出削減したりリサイクルすることによって環境を保護することが代替である。さらに、先進工業国の内部でも、工業化に伴う職住分離の結果として、過疎問題や過疎地域における社会福祉の脆弱化といった歪みが起きたが、都市部とは異なる過疎地域ならではのすばらさを核として地域を活性化していくことが代替である。
 工業化を支えてきたものは、意思決定の権限が上位の階層に集権化されているヒエラルキー型企業であり、このヒエラルキー型企業においては労働疎外などの歪みや、情報社会における環境の変化についていけないなどの限界が生じた。そこで、企業においても、ヒエラルキー型に替えて、意思決定の権限をメンバーに委譲しメンバーの自律性を増加させるというネットワーク型企業へと変化する動きが見られるようになっている。

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