|【戻る】|

ワールドカップの実態

別井 佑

【目次】

序章 ワールドカップの経済効果について

第二章 ワールドカップの実態

 第二章 第一節 ワールドカップ後のスタジアム運営

 第二章 第二節 ワールドカップ全体の経済効果

 第二章 第三節 一般的に言われる日本経済に与える影響

 第二章 第四節 キャンプ地・スタジアム誘致にみる経済効果

第三章 高度成長時代との比較

 第三章 第一節 東京オリンピックとの比較

 第三章 第二節 北京オリンピックとの比較

第四章 低成長期のオリンピックとの比較

 第四章 第一節 長野オリンピックとの比較

 第四章 第二節 シドニー・オリンピックとの比較

 第四章 第三節 将来の経済効果

終章 今後の予想

序章 ワールドカップの経済効果について

 2002年、話題を独占したといえば、記憶にも新しい日韓ワールドカップが挙げられるだろう。最高視聴率も70%を上回り、国民に期待されていたことは間違いない。座席のチケット売れ残りの問題が取り上げられるなど多少の問題もあったが、チケットの販売の利益、試合観戦によるテレビなどの普及、ワールドカップ関連のグッズの売り切れ、広告業界も利益を出すチャンスであったと考えられる。経済波及効果も3兆3000億円と言われるのも理解できる。けれども、最近ではワールドカップのために作られたサッカースタジアムは維持しきれないという話題が挙がっている。

 当然のこととしてオフィシャルスポンサーや広告業界に利益が認められたことは予想できたが、あれから2年が経過した現在でも、騒がれていた経済効果を感じられないのが事実である。ワールドカップの経済効果は一過性のものだったのか、または、関連施設の建設で利益が上がらなかったのか、いずれにせよ詳しい実態を調べてみたい。また格オリンピックとも比較することで、ワールドカップは景気の起爆剤としての効果はあったのか、確かめてみたい。オリンピックを比較対象としたのは、過去において日本を始めとして、先進国の仲間入りをするほどに成長する要因になったからである。つまりスポーツ行事で多くの利益を上げた成功例であるからである。

 そのことを踏まえて、ワールドカップの実態を見ていきたい。

第二章 ワールドカップの実態

 2002年ワールドカップサッカー開催にともない建設されるスタジアムのほとんどは終了後、維持管理費用が利用価値を上回ってしまい、活発に使われないとスタジアムの黒字運営は難しいと言われている。

 例えば1998年の長野五輪の際は競技などに使われた施設の多くが体育館や屋内プールに衣替えしたが、その大半が赤字運営に陥っている。ワールドカップもその二の舞となり各開催都市では終了後のスタジアムの有効利用に対する施策が必要とされている。問題として巨大な施設だけにプロ野球チームが本拠地となっていないなど、ようは使い道がないのである。ちなみに日韓で共催されたワールドカップのため自治体が整備したスタジアムなど巨大施設の建設総費用は3338億円で、地元負担分は2138億円に達することが、総務省の集計で分かった。建設のため発行した地方債の償還費に加え、それぞれ年間数億円の維持費が追い打ちをかけることになり、「祭り」の後の自治体の負担が増大するというのである。

 採算が取れなくなってしまった理由として、ワールドカップを開催した10自治体が元々あるスタジアムを流用せずにいちいち新築、改修など競技場を整備したことが当てはまる。

   建設費は横浜国際総合競技場(横浜市)の603億円を筆頭に、埼玉スタジアム(埼玉県、356億円)、新潟スタジアム(新潟県、309億円)、大分スポーツ公園総合競技場(大分県、251億円)など総額3338億円に達した。

 いずれ自治体も地方債を発行したが、7自治体は「ふるさと創生」関連事業を対象とする「地域総合整備事業債」つまり、地総債を活用した。ちなみに地総債は自治体のハコもの競争を誘導したと批判を浴び、今年度から新規発行が廃止された経緯がある。

 第二章 第一節 ワールドカップ後のスタジアム運営

 スタジアムの管理維持費、交通インフラの維持費などはどこも採算がとれない状態である。(利便性の悪さゆえに、例えば宮城スタジアムは地元のJ リーグチーム・ベガルタ仙台も試合開催に乗り気でないと言われる。その都度赤字補填には税金が投入される。また「公益性があるのなら良いが、赤字補填するような公益性があるとは思えない」と言う声もある。さらにここで使われる自治体負担額は半分ほど国が負担することになる。こうした中で、維持費だけで年間2億円以上の赤字が予想される宮城スタジアムは、アイドルコンサートなどで多目的化を探るが交通の便が悪いので採算が取れるかは微妙である。一般的にスタジアムは中心地から離れており、広大な敷地に大きな施設が建てられているものだ。そして、周辺の交通インフラはそれに合わせて新たに整備される。しかし先ほど例に挙げた宮城スタジアムなどのワールドカップに使われたスタジアムは、維持費は莫大であるにもかかわらず、そのインフラが整備されていない。

 例えば宮城スタジアムは仙台駅−JR 東北線2 駅→岩切駅−利府線2 駅→利府駅−バス10 分以上→到着といったように交通の利便性が非常に悪い。宮城県は「仙台市内への一極集中をさける」と言うが、内情は「列島改造ブームの頃の処分できなくなった土地を買い上げた公社の救済」と言われる。

静岡スタジアムも市街地からの遠さは宮城に負けない。さらに当初収容人数4 万人のところを、ワールドカップでの開幕、準決、決勝戦誘致の条件である5 万人に上積み。結局いずれも誘致できず。建設に230億円を投じた神戸ウイングスタジアムはワールドカップ向けに増設した臨時スタンドを撤去し、民間企業が運営に当たる。しかし下の表を見てもらえれば分かってもられるだろうが、まったく採算が合っていないのが現状である。

表1 ワールドカップ会場のスタジアムの完成年月、建設費、年間収入見込および年間収支見込
競技場完成年月建設費年間収入見込年間収支見込
札幌ドーム2001,6442億23億1億
宮城スタジアム2001,3270億3000万▲3億4000万
カシマスタジアム2001,4193億2億7000万±0
新潟スタジアム2001,3300億7000万▲3億
埼玉スタジアム2001,7365億3億▲4億
横浜国際総合競技場1997,10603億4億3500万▲6億
静岡スタジアム2001,5300億6000万▲4億
長居スタジアム1996,521億7850万▲6億1950万
神戸ウイングスタジアム2001,10230億2−3億▲3億
大分総合競技場2001,3251億5000万▲2億5000万

注)数字は円。カシマ、長居は既存の施設の改修費。長居は収入、収支ともに99年実績

 自治体の言い分は「公共施設は赤字がでて当たり前」というものであるが、赤字がでた分本来ならばできた公共サービス以上の公共性を、スタジアム維持費などがもつのかは疑問である。結果として、ワールドカップのスタジアムとしてしか使い道がないようならばあまりにお粗末であろう。

 例外としては札幌ドームが挙げられる。初期投資は行政が負担するにしても、ランニングコストは利用者に負担してもらって、市の持ち出しが無いよう考えの下に建設された。これは出費を抑えようとする札幌市財政課の考えが反映されている。そのため、札幌ドームだけが2002年にプロ野球20試合が行われるなど収入が22億円と、維持費10億円を上回り黒字。2003年度はJリーグやプロ野球などで延べ73日間の予定が埋まっている。プロ野球の日本ハムファイターズが本拠地とすることも決まっており、経済効果も期待できる。またワールドカップについても割り切っており「4 万規模のイベントが3 回あるというだけ。それが終われば巨人、広島戦の準備をしなければならない」と、ワールドカップが全てと考える他の自治体とは違う。

 ワールドカップに限らず役所は民間企業ではないため潰れる心配がなく放漫な経営になるのであろう。またその経営を補うためにまた同じような放漫な政策をしているように思う。そのようなことに対しきちんと責任が明確になるような制度が必要であろう。そうでなければワールドカップは気分を味わったただの祭りに過ぎない。

 総務省によると、総費用のうち国が地方交付税や補助金で補てんする分などを除く自治体負担は2138億円と、総費用の64%。将来負担である地方債償還費が1406億円を占めている。しかも、自治体は今後、施設の維持費に直面する。年間ベースで横浜市は維持費8億5000万円に対して収入見込みは2億円、埼玉県の埼玉スタジアムは維持費7億円に対して収入は3億円にとどまり、生じる収支差額(赤字)を自治体が補てんする。

 このことからも、ワールドカップがいかに経済効果があろうとも「はこもの」と呼ばれるスタジアムがそれを打ち消してししまっていることが分かるだろう。

 第二章 第二節 ワールドカップ全体の経済効果

 FIFA ワールドカップは世界最大級で熱狂的なスポーツイベントである。それは前大会のフランス大会が全世界で370億人がテレビ観戦をしていたという事からも証明でき、ワールドカップ出場を祝って国民の休日を作ったり、初優勝決定の翌日を休日にしたりした国があることからも言える。またワールドカップを理由に戦争を休止した例や戦争を始めた例などからもその熱狂さが分かる。(セネガルの例)

 ワールドカップが始まるにあたって、ロンドンでは期間中の飲み屋の営業時間を変更したり、会社ではフレックス制を導入したりするなど、ワールドカップに参加する国々は熱狂的になり、4年に一度の大イベントはお酒の習慣や仕事のパターン、また、マクロ経済すら変える影響力を持つ。イギリスにおける GDPは、消費者は試合を見るために家に閉じこもる状態になり、外出が減るなどの理由から、0.3%減少すると思われる。しかしその程度のGDPの減少はほとんど影響が無いといってもよいほどである。むしろ、ワールドカップの開催国である日本は観光客やホスト国であることから経済効果があったはずである。前回の98年大会の開催国であったフランスには一時的ではあったが、確かに景気は刺激されたことが、日本への影響の裏づけとなる。

 第二章 第三節 一般的に言われる日本経済に与える影響

 スポーツ施設を中心とした社会資本整備の促進、開催地・キャンプ地の知名度・イメージの向上などに寄与する。またそれだけではなく、建設、工業、商業、輸送、対個人サービスなどを中心とした産業部門の需要拡大を促す。

 特別なイベント(ワールドカップを含む)に対する支出の発生が他の経済活動に及ぼす効果を「経済波及効果」と呼ぶ。これはイベント開催が「最終需要」部門において追加的な増加を生み、その増加が新たな生産を生み出し、その生産の付加価値(賃金+営業余剰)の一部がまた最終需要にまわり、というような循環をおこすことを示す。

 ちなみに1520 億ドル規模のアメリカのスポーツ産業による間接的経済波及効果は2589 億ドルにものぼると計算されている。これはスポーツ経済産業市場の外側に、約1.7 倍の市場がスポーツによって生じているという計算になる。

 付加価値としては98 年のフランスワールドカップ大会の延べテレビ視聴者数は196 カ国で331 億人、そして総観客数は279 万人である。ワールドカップは世界最大のメディアバリューを持つイベントと言える。

 これは3 つの視点から見ることが出来る。

 @ マーケティングツールとしての価値。具体的にはオフィシャルパートナーやオフィシャルサプライヤーなど新聞・テレビ等の媒体を通じたマーケティング活動経費である。 (例・・・アメリカ大会においてオランダのフィリップ社は2000 万ドルを投資し、試合会場の広告看板7 分半の露出効果を得、世界198 カ国に約1 ヶ月320 億人の視聴者に露出させた。)

 A エンターテイメント(情報)の価値。人々がワールドカップのゲームや関連情報へアクセスする経費、すなわちBS・CS 加入料・視聴料、ハイビジョン・BS デジタルテレビ等情報収集機材購入費、テレビ視聴電力料金、インターネットなどである。

 B ブランドとしての価値。具体的な指標としてワールドカップを利用したキャンペーン商品、サービスの購入量、加えてワールドカップの公式マークやマスコットなどを使用した関連グッズの購入量など。

 長野オリンピックのケースであると投資部門では1 兆3626 億円が2 兆719 億円(1.52 倍)の生産を誘発し、消費部門では1591億円が2533 億円の生産を誘発し、合計で1 兆5218 億円の最終需要が2 兆3243 億円(1.53 倍)を誘発した。

 第二章 第四節 キャンプ地・スタジアム誘致にみる経済効果

 開催地では世界各国からの多くの人々が訪れ始めることから、宿泊・飲食などの経済効果があるとともに、マスメディアによる情報発信を始めとした多くの効果があるといわれる。またキャンプ地においても世界一流の選手やチームが訪れることでの情報発信や観客の消費活動などの効果がある。

 しかし、キャンプ地選定の方法でも非常に多くの無駄な金が使われている。

日本と韓国はキャンプ地選定に関し、まったく異なる手法を採用していた。日本のワールドカップ組織委員会(JAWOC)は、キャンプ地を募集し、申請してきた全国84 ヶ所すべてを公認候補地とした。

 そして、各自治体が独自に出場国と交渉することに任せ、キャンプ誘致を競わせることでワールドカップの盛り上げようとした。一方韓国はワールドカップ組織委員会が自治体と出場国の間に入って調整した。このため醜い招致合戦は勃発せず、出場国に金銭的負担を申し出る自治体も無かった。反面、日本では醜い誘致合戦が行われてしまい、キャンプ地誘致コストの高騰という自体が起こった。

 日本でキャンプをするのは合計で23国であり、84の自治体はその枠を争い競争することで誘致コストの増加をひきおこした。キャンプ事業費は具体的には代理人への委託料、相手国訪問などの事前活動費、契約金(滞在費や交通費やイベントのギャラ等)が挙げられる。またそれに運営経費やイベント関係費が加わる。自治体が競えば競うほど代理人(店)への経費の相場も上がり、また誘致のライバルの存在はキャンプ予定国への契約金の引き上げ、接待費などの上昇を生む。

 それでも各自治体は経済効果を信じて、誘致争いに力を入れた。しかしそれによって誘致活動が優先され本来の地域活性化のビジョンを失って、誘致に成功さえすれば地域が活性化すると短絡的に考えている、という指摘がある。

 しかも莫大な資金を投入したにもかかわらず全てが成功したわけではない。

表2 ワールドカップのキャンプ地
キャンプ地出場国投資費用−主な内容
橿原市チュニジア5700万円−ビデオ作成などPR 活動や招致活動費
津名市イングランド1億円
鳥取市エクアドル1億2000 万円−誘致国サッカー協会への協力金
出雲市アイルランド7100万円−抽選会への渡韓費用、誘致国視察費用
松本市パラグアイ1億9400 万円−契約金、イベント費
上野市南アフリカ2080万円−アドバイス契約料

 少ない出費で誘致に成功した例としては中津江村(カメルーン)が上げられる。当初はキャンプ地に公認されるだけでも意義がある、というPRの意味で名乗りをあげた。90 年に開設し、管理努力をしていた村営スポーツセンターの施設の良さと環境の良さが評価されたと言われる。ちなみにカメルーン代表の到着の度重なる延期はマスコミの滞在費、その都度の報道によるメディア露出効果が得られたという。

 誘致コストの高騰はそれだけキャンプ地誘致の値打ちがあるという市場の評価として正当化されるかもしれない。中津江村のように良い施設を持つことも一種の費用として入るのだろう。それでも、韓国を見習って無駄な出費は抑えるべきであっただろう。民会企業では考えられないことを、簡単にすることからも自治体の経営の甘さが伺える。また、開催地選定でもこのような誘致合戦をさせている。

 日本サッカー協会理事会が1998 年5 月に、札幌・宮城・新潟・茨城・埼玉・横浜・静岡・大阪・神戸・大分・青森・千葉・愛知・京都・広島の15 の自治体から、インフラの整備・ホスピタリティー・交通網・運営能力・招致の盛り上がり度などから前者10 自治体を選定したことが当てはまる。

第三章 高度成長時代との比較

第三章 第一節 東京オリンピックとの比較

 ワールドカップの経済効果を確かめる上で、と比較したいのはオリンピックである。

 特に1964年東京オリンピックは日本が、飛躍的な成長を遂げ先進国の仲間入りをするほどの経済効果があった。高度成長期時代におけるインフラ整備と税金の投入のバランスが取れていたからだろ思われる。1958年オリンピック開催決定から、1960年には所得倍増計画が計画され、1964年にはインフラ整備として東海道新幹線が開通した。同年、東京オリンピックが開催された。OECDにも加盟した。この1958年の招致から64年開催までの7年間で年経済成長率10%達成したことからも東京オリンピックは成功と言える。さらにオリンピックの終了後も第一次石油ショック前年の8年間は、平均9.3%GDPの伸び率なっていることからも、ワールドカップのようにその年だけの一過性のものではないことが伺える。

 似ている例で、韓国は1981年のソウルオリンピック開催決定から、1988年のソウルオリンピック開催までの7年間で年平均GDP成長率9.3%を達成した。そしてソウルオリンピック開催後から1996年のOECD加盟の8年間で年平均GDP成長率7.4%になり、日本の東京オリンピックと非常に似た結果となっている。結論として、韓国はソウルオリンピックを挟んで、合計15年間の高度成長を経験した結果、96年に先進国のメンバー入りを果たすこととなった。オリンピック直後は成長率がガタンと落ち込んだものの、オリンピック開催は、戦後荒廃から立ち直りつつあった日本や韓国において近代国家を実現し、国民に豊かさの実現をもたらした。けれども、この結果は日本と韓国が高度経済成長期にあったからだろうと予想できる。現在の低成長時代の日本では、このようなGDPの増加は望みようもない。

 そして、ワールドカップ後には採算の取れないスタジアムが残る結果になったのである。

 比較として、東京オリンピックの資金調達を載せるが、インフレ等があったにせよ、ワールドカップよりもはるかに少ない費用で開催されたことがわかる。この費用に別途、インフラ整備などが加われば費用はがらりと変わるだろうが、東京オリンピックの時代にインフラ整備は、ワールドカップのスタジアムと異なり必要とされていただろう。現にオリンピック時に作られた高速道路や新幹線は、今は欠かせない存在になっている。そのことを考えれば、大会にかかった費用に対して、多大な効果があったと言える。

表3 東京オリンピックの所要経費と資金調達方法
所要経費(百万円)資金調達方法(百万円)
大会の準備および実施に必要な経費8,852大会の準備および実施関係資金8,852
(組織委員会経費)1.国庫および東京都補助金4,000
内訳管理費1,506(組織委員会運営費の一部)
交通警備費48722.組織委員会事業収入等2,947
宿舎運営費160内訳入場料1,237
広報宣伝費1,338プログラム収入21
入場券管理費1,598権利金収入492
競技費101選手団負担金763
式典費687雑収入434
医事衛生費1063.資金財団調達額1,905
施設費2,282
予備費422
競技技術向上対策に要する経費1,604競技技術向上対策関係資金1,604
(日本体育協会経費)1.国庫補助金642
内訳競技技術研究会710(競技技術向上対策費の一部)
コーチ経費1482.日本体育協会調達金200
スポーツ科学研究費603.資金財団用調達額762
スポーツ国際交流費686
大会運営の本部等となる会館の建設に要する経費750大会運営の本部等となる会館の建設関係資金750
1.資金財団調達額750
資金財団の事業遂行に要する経費193資金財団の事業遂行関係資金193
1.資金財団調達額193
合計11,399合計11,399

(注)資金財団調達額  3,610百万円

 以下の表を参照していただけるとわかるだろうが、建設費は当時の物価を考慮すればそれなりにかかっていることがわかる。しかしワールドカップスタジアムとの最も異なる点は採算が取れていることである。国立競技場や日本武道館などの現在でも非常によく利用されている競技場が並んでいるが、これらの有名な会場は大きなイベントでも使われている。

 採算が取れないという話は聞いたことは無いどころか、億単位の収益が見込める会場である。改装工事などが2、3度行われているとはいえ十分にそれを置きなって余りある利益を出しているだろう。また、ワールドカップスタジアムと異なり、いくつかは改修工事のみで済ませている。

                
表4 オリンピック東京大会競技場および付随設備関係建設費
名称建設費(単位 円)
国立競技場※8,8850,000
戸田漕艇場687,243,000
江ノ島ヨットハーバー2603,230,000
朝霧射撃場341,381,000
矢沢射撃場65,134,000
国立屋内総合競技場 国立屋内付属体育館2,904,400,200
秩父宮ラグビー場※44,694,000
駒沢陸上競技場733,590,000
駒沢バスケットコート ホッケー場347,220,000
駒沢第三ホッケー場26,300,000
八王子綾南グランド96,670,000
馬事公苑覆馬場899,884,000
渋谷区立公会堂731,220,000
早稲田大学記念会堂149,216,000
相模湖漕艇場249,000,000
大宮蹴球場70,673,000
三ッ沢蹴球場167,400,000
横浜文化体育館408,989,800
日本武道館1,800,000,000
オリンピック村581,000,000
同八王子分村185,830,000
同相模湖分村103,900,000
高尾ユースホテル87,000,000
相模湖ユースホテル500,000,000
大磯ホテル※500,000,000
日本青年館30,000,000
プレスハウス450,000,000
プレスハウスレストラン35,000,000

※改装工事費のみ

 下の表はオリンピック関連の高速道路と関連道路である。

 現在でも相当の費用がかかっているが、2004年次においても欠かすことのできない道路がほとんどである。これらはオリンピックのために作られた道路ではなく、いつかは建設しなければならない道路だったと言えるだろう。むしろ東京都心のインフラ整備がオリンピックと重なったというのが正しいだろう。そのため採算が取れる以前に、必要不可欠なものを良いタイミングで作れたと見れるだろう。

            
表5 東京都オリンピック関係道路事業費
事業箇所総事業費
(単位100万円)
高速1〜8号線105,800
高速1号関連14,288
高速2号関連5,638
高速3号関連12,638
高速4号関連2,375
高速5号関連3,020
高速7号関連395
関連道路関係71,000

表6 神奈川県オリンピック関係道路事業費
路線名工事費
(単位千円)
国道1号 大崎〜ロングビーチ2,600,000
国道1号 戸塚区〜茅ヶ崎1,050,000
横須賀大磯 大磯〜平坂213,000
横須賀大磯 鎌倉〜逗子755,000
横須賀大磯 逗子145,000
森戸海岸17,000
相模原与瀬768,000
東京沼津 川崎〜町田1,640,000
東京沼津 厚木〜松田3,154,000
富士吉田小田原53,000
湯ヶ原箱根仙石原859,000

第三章 第二節 北京オリンピックとの比較

 もう一つの比較として、高度経済成長時代に酷似している北京オリンピックを対象としてみた。あくまで予想の粋だがワールドカップよりはるかに高い経済効果が望める見込みとなっている。

表7 北京オリンピックの経緯
時点出来事
1993年9月24日2000年五輪招致シドニーに敗れる
1998年11月2008年五輪招致を決定
1999年9月北京2008年五輪招致委員会発足
2001年7月13日2008年北京オリンピック決定
2008年夏北京オリンピック開催予定

表8 中国および北京の現状(単位:%、失業率以外は対前年/前年同期比)
統計量19971998199920002001
(1〜3月)
実質GDP8.87.87.18.08.1
工業増加値11.18.98.5 9.911.2
消費財支出11.16.86.8 9.310.3
消費者物価2.8-0.8-1.40.40.7
都市部失業率3.13.13.13.13.1
輸出20.90.56.127.813.9
輸入2.5-1.518.2 35.817.3
直接投資受入(実行額)8.50.411.41.011.7

 GNPは1998年では928.9(×10億)ドルで世界第7位(日本2位)に位置している。

 過去五年間北京の経済成長率は年平均10%維持、安定成長をしていると言える。

 北京市のインフラの状況としては道路では北京市五環高速道路である。2003年には全線完成予定である。総投資額約189億元(約2835億円)と言われている。

 宿泊設備では1つ星以上のホテルは392軒(8万室の客室がある)から2008年には高級ホテル800軒うち4つ星と5つ星は54軒(客室:13万室)になる予定である。

 通信ではCATV利用者数は2650万人、携帯電話ユーザー数は2001年6月末時点で1億1700万人になり、インターネットユーザー数は2650万人になった。この数字は半年で400万人増加という驚くべき内容である。

 環境としてはオリンピック招致と都市建設事業を密接に結びつけ、オリンピック招致を機として大気汚染の解消や市内整備、緑化、重点建設プロジェクトの実施など進行させている。東京オリンピックと異なるのはこの点だろう。過去のオリンピックでは環境について計画を立てるのは珍しい。

 例えば、大気汚染対策でクリエーションエネルギーの普及、ゴミの無害処理・資源化・分別収集、汚水処理、砂嵐防止対策などこのような一連の環境保全プロジェクトが本格的に動き出せばその関連ビジネスチャンスもさらに広がる可能性があるだろう。

 施設では各種イベント開催施設の建設や改修も順調に進んでおり、一般市民向けスポーツ施設もさらに増加する予定である。オリンピックでは37(そのうち北京32)の競技用施設と59の練習用施設が使われる予定である。

 現在32のうち13が既存施設の改造残り19が新規建設、2007年まで170億元の資金が調達され体育館など施設費(約2550億円)に使用予定である。

 消費への影響は7月の消費者信頼感指数で、6月に比べて0.7ポイント増え98.1ポイントになった。理由として五輪開催の決定により経済成長のスピードが増し、就業先が増え、市民の収入がアップすると思われているためである。

 参考までに7月の消費財の小売総額は2851億元(約4兆2765億円)になった。昨年の同期比で9.8%増加という数字で北京オリンピックの影響が出ている。

年平均の成長率などからも、東京オリンピックの日本と状況が非常に酷似していることがわかる。インフラ整備にかける投資と、中国国内の需要のバランスがつり合い更なる成長のきっかけになる可能性は非常に高いと思われる。

表9 予想される経済影響(比較参考:長野オリンピック)
項目初期投資生産誘発額初期投資比
交通・情報インフラ1800億元5094億元 2.83
環境713億元2018億元2.83
オリンピック施設費170億元481.1億元2.83
運営費117億元331.1億元2.83
総額2800億元7924億元2.83

 あくまでもこの予想は長野オリンピック経済波及効果の数字を単純に当てはめたものである。長野オリンピックでは、初期投資が国に2.83倍の、長野県へ1.49倍の生産誘発効果をもたらした。長野県内に限れば、初期投資が開始された1998年度からの10年間で、公共投資が年平均で1.82%も県内総生産を押し上げた。同期間の平均名目成長率が、3.97%であることから、成長率の46%が、オリンピック関連の公共投資のおかげだった。北京オリンピックにおいてはこの予想よりももっと高い経済波及効果が予想されるのではないかと考えられる。1998年の長野オリンピックでは、長野のインフラ整備が進んだのが特徴である。例えば新幹線、高速道路、オリンピック道路、競技施設、スポーツイベント施設、あるいは選手村など整備された。経済効果としても国内への波及や県内への波及があったといえる。

第四章 低成長期のオリンピックとの比較

 まず、現在の低成長期時代のオリンピックの問題点を挙げたい。

第四章 第一節 長野オリンピックとの比較

表10 長野オリンピックにおける投資
項目初期投資生産誘発額初期投資比生産誘発額初期投資比
観客などの消費673億1787億2.65759億1.13
五輪関係部門4436億1兆1949億2.696188億1.40
高速交通網整備1兆930億3兆1698億2.901兆6904億1.55
移転家屋新築効果474億1368億2.89698億1.47
1兆6512億4兆6803億2.832兆4548億1.49

 問題点としては、整備などを行うために数十年分の公共投資を先取りしたために、現在長野県、市が財政難に苦しめられている。しかも五輪後の競技施設の維持費などで財政は年々悪化しており、採算が合わなくなってきている。具体的に言えば、長野市民の場合一世帯あたりでは約340万円。白馬村一世帯あたりでは550万円にも上る負債になっている。

第四章 第二節 シドニーオリンピックとの比較

 私が最もワールドカップと比較したいのは、2000年のシドニーオリンピックである。このオリンピックは少ない投資で最大の利益を上げたことで、各界の評価五輪史上最高の成果を収めたからである。オリンピック開催前の豪州経済オーストラリアの経済は、高成長を続けて1960年代以来最高の状態にあった。拡大する個人消費や好調な輸出のおかげで、2000年の第1、4半期の経済成長率は年率で4.3%を記録、1997年から12四半期連続で年率4%を超える成長を続けている。好調な景気に支えられ、6月の失業率は過去10年間で最低の6.6%となり、7月には株価指数が史上最高値を更新した。しかし、豪州経済の先行きには大きな不安定要因が横たわっている。大規模な税制改正の影響とオリンピック後の景気減速への懸念だ。好調が続いた建設産業が税制改正の影響や五輪関係需要の消失で後退が予想される他、景気拡大のけん引車だった個人消費もインフレを懸念する中央銀行の度重なる利上げの影響でこのところやや減速ぎみとなっており、今年後半には雇用拡大が止まり、失業率が上昇するとの見方もある。世紀の境目を迎えて、豪州経済は引続き景気拡大を持続できるか、大きな岐路に立っていた。高度経済成長時代の日本とは違う背景がそこにはある。失業率も現在と日本とさほど変わりは無い。しかし、少ない投資で、莫大な利益をあげることに成功した数少ない例といえる。

 具体的には費用面で開催経費総額はわずか59億豪ドル(約3500億円)である。長野冬季オリンピックの開催経費総額約1兆5000億円と比べてみると約4分の1でこなしていることになる。また、施設建設費を中心とするニューサウスウェールズ州政府の負担は23億豪ドル(約1400億円)程度で、新幹線などの関連公共事業費を含め、約1兆5000億円かかった長野冬季五輪と比べると、大幅な経費減となった。 オーストラリアの経済成長率を約1%高める。さまざまな分野、例えばグッズ売上、入場券販売などで過去最高記録を打ち立てている。

 費用対効果の面でも、シドニーは成功を収めたといえる。加えて両大会は国内経済も刺激し、オーストラリアの経済成長率を約1%高める波及効果もあった。

 世界200カ国、地域が参加する史上最大規模のシドニーオリンピックの開催(9 月15日〜10月1日)は、豪州の社会経済に影響を及ぼすことは間違いない。大手会計事務所アーサーアンダーセン等の調査によると、オリンピック開催が豪州経済に与える影響は開催数年前から数年後まで10年以上にわたり、その経済効果は直接的なものだけで総額65億Aドル(1Aドル=63円として、約4,000億円)に上ると推計されている。地元ニューサウスウェールズ州政府も、今年度(2000年7月〜2001年6月)の同州の経済成長率について、オリンピック効果によって全国平均より0.25%高くなると予測している。

 オリンピックの主な経済波及効果としては、次の4分野が挙げられる。

 (1)ハード整備(土木建設分野):五輪開催に必要な施設(競技場、ホテル、メディアやスタッフ用の施設など)とその周辺インフラの建設、交通インフラの改善等→1996/1997年度から4年間で年平均約5億Aドルの需要を創出

 (2)五輪運営:大会の準備と運営→1997/1998年度から4年間で年平均約7億Aドルの需要を創出

 (3)五輪参加者、観客等:国内外からの五輪関係者(観客、選手、役員、メディア、スポンサー等)の訪問→今年度に約7億Aドルの需要を創出

 (4)五輪効果による訪問者の増大(間接効果):五輪及び五輪関係のメディア報道により、豪州の知名度が向上し、国際的な注目を集めることによる訪問者の増大→五輪前後の12年間にわたり、年平均約2億Aドルの需要を創出

 ハード整備

 オリンピック効果の中で最も明らかなものは、競技施設や関連施設、インフラ施設等の建設、整備だろう。1991年以来オリンピック関連の施設、インフラ整備等に使われた費用は約33億Aドルで、この建設・整備が、多くの産業分野で需要を生み出し、景気拡大に貢献したのは確かだ。さらに、空港へのアクセスが改善、例えば高速道路及び鉄道が開通された。世界第一級のスポーツ施設が整備されたことで、将来的に大規模な競技大会が開催できる条件を整えたことは、シドニーやNSW州にとって大きな遺産だろう。

 また、主要施設のうち、開会・閉会式が行われるオリンピックスタジアム(11万人収容)や空港連絡鉄道、道路などは、民間の資金やノウハウを生かすPFI(プライベート・ファイナイス・イニシアチブ)方式で開発された点が注目される。そして上記費用のうち約33 億ドルのうち約12億ドルが民間資金である。

第四章 第三節 将来の経済効果

 オリンピック開催による経済効果

 オリンピック開催による経済効果は、大きく分けて3つの分野に及ぶと見られる。

 1.オリンピック招致成功により、「経済建設」が大規模に進み、経済成長率にとってプラスとなる。北京だけでも五輪向け投資は2800億元。そのうち1800億元がインフラ整備に使われる。北京オリンピック開催を見込んでの動きなどでは地下鉄などの市内インフラ整備中国最長の北京から上海間高速道路の開通などが当てはまる。

 また、北京オリンピック開催決定により、宿泊施設や大会会場の建設が進められる。

 2.直接の効果だけでなく、関連産業が発展する。消費ニーズが大きく伸び、国内外の投資家にとっても大きなビジネスチャンスが訪れる。五輪開催により、雇用の拡大、一般市民の収入の増加が期待されるなど、消費という観点から見ても経済成長は疑う余地がない。

 北京オリンピック招致の成功は、外国企業の資本と生産拠点の中国シフトをさらに加速させる結果をもたらす。中国側の最新発表によれば、今年T〜6月期の外国企業による対中直接投資は前年同期に比べ、案件数で18.3%増、契約金額ベースで38.2%増、実績ベースで20.5%増となっており、新たな外資ブームが形成されつつある。中国側の予想によれば、08年前後、中国に流入する外資は現在の年間600億ドル程度から1000億ドルへ、そのうち直接投資は年間400億ドル程度から600億ドルへ増える見通しである。

 3北京五輪開催では、「環境に優しい五輪、科学技術を利用した五輪、文化的五輪」がテーマ。

環境整備、都市緑化や公園化、工場による廃液・排ガス・廃棄物対策などの分野でも、様々な作業が求められる。

 以上のことから、経済波及効果は各方面にわたることがわかる。効果が期待されるセクターを効果が現れる長、中、短期で比較してみる。

 長期(大会開催の前後10年間)では北京国際空港の拡張工事、道路整備などの交通インフラ、情報インフラである。そしてオリンピック関連のインフラ整備に伴う「市内移民」の増加に対する新規住宅の建設である。

 中期(開催の前後2〜3年間)では通信業、おそらく携帯電話やインターネットの大幅な普及が予想される。

 短期(大会開催中)では小売業や観光業で賑わうだろう。

終章 今後の予想

 経済専門家によると、北京でのオリンピック開催により、GDP成長率は今後7年間、年0.3〜0.4%押し上げられると推定される。観光客が年20%増加すると見込まれるほか、観光収入20億ドル、年100万平方メートルの住宅建設、150万人の雇用拡大など、国内経済への直接の影響が期待できる。

 また、北京のオリンピック招致成功は中国の株式市場において営利チャンスが生まれ、オリンピック株は全体的に7年間の好調市場になる。北京でのオリンピック開催は、中国経済の発展、社会の進歩、国際的な地位の向上などによるところが大きい。つまりはオリンピック、ワールドカップ等は成長期の経済を盛り上げる効果は十分にあると言えるだろう。

 しかし、消費などが一過性なので低成長期もしくは低迷期の経済を復活するほどの効果はない。そして、経営方法を間違えれば、採算のつかない箱物が増えるだけで終わってしまう。ワールドカップは残念ながら、無用な箱物が増えただけで終わってしまった。低成長時代だからこそしっかり考えた上で、成功したシドニーオリンピックもある。日韓ワールドカップは成功することはできなかったが、経営しだいでは経済効果は十分にあると言えるので、今後のオリンピック等の参考になれば良いだろう。

参考文献

Copyright 2004, Yuu Betsui

【先頭行へ】 【戻る】