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製菓業界

 

細川 恭平

1.製菓業界について

2.大手製菓メーカー

3.近年好成績を記録する大手製菓メーカー(明治製菓、カルビー)

 @明治製菓

Aカルビー

4.地方の大手製菓メーカー

5.中小製菓メーカー

6.菓子の専門商社

@コンフェックス

Aサンエス

7. eお菓子ねっと

8.菓子の専門店

9.受験戦争と製菓業界

10.今後の製菓業界

11.まとめ

 

 

1.製菓業界について

一日の三食の食事と異なり、私たちが普段何気なく食べたいときに口にしている菓子であるが、その製造・流通・販売を行なっている企業は日本に数多く存在している。多くの企業が菓子を生産・流通・販売し、私たち日本人の欲求を満たしている。私は製菓業界各社についてそれぞれの利益や強みを中心に、比較・研究を行なってみた。

製菓業界は、菓子の製造を行なう製菓メーカー、菓子の流通をしている専門商社、菓子の販売を専門とする専門店と、大きく3つに分けられる。それぞれの分野ごとに、大手企業から中小企業に至るまで、研究をすることにした。

 

2.大手製菓メーカー

 菓子の製造を行なう製菓メーカーは、製菓業界の中で最も知名度が高く、作る商品によっても多種多様である。まずは大手製菓メーカーの利益について比較をしてみる。

1 明治製菓の経常利益と当期純利益

2 森永製菓の経常利益と当期純利益

3 江崎グリコの経常利益と当期純利益

4 カルビーの経常利益と当期純利益

 

大手製菓メーカーは数多く存在するが、そのなかでも知名度の高い明治製菓、森永製菓、ロッテ、江崎グリコ、カルビーの5社に焦点を当ててみた(図1〜図4)。ロッテの業績は、現在では2008年度のもののみ公開されており、経常利益は2065200万円、当期純利益は828900万円である。

業績の推移を見てみると、各社年々業績が減りつつあることが分かる。各社の経常利益を利益額の高い順に並べると経常利益はロッテ、明治製菓、江崎グリコ、カルビー、森永製菓という順番となり、最も利益額が高いのはロッテである。同じように当期純利益を並べるとロッテ、明治製菓、カルビー、森永製菓、江崎グリコという順番となり、経常利益同様、ロッテが最も利益額が高い。しかし、ロッテの業績は日本ロッテグループ全体のものであり、他社との比較に用いるのは難しい。そこでロッテを別とすると、最も経常利益、当期純利益が高額なのは、明治製菓である。

5 明治製菓とカルビーの売上高

明治製菓は売上高が向上しているため、不況のなか好成績であるといえる。また、カルビーも利益のみを見ると、「年々減りつつあるが、2008年に回復した」と思われそうであるが、売上高は年々向上している。両社の売上高・利益向上の背景にはなにがあるのかを、両社の歴史・特徴を踏まえたうえで研究してみた。

 

3.近年好成績を記録する大手製菓メーカー(明治製菓、カルビー)

 @明治製菓

 1916年に前身である東京菓子株式会社が設立され、1924年に現在の社名となった。ヒット商品は多くあるものの、そのなかでもロングセラーとなる『ミルクチョコレート』をはじめとするチョコレート商品は長年明治製菓の主力商品となっている。代表的な同社のチョコレート商品には、先述の『ミルクチョコレート』以外に『マーブルチョコレート』や『アーモンドチョコレート』、『アポロ』、『きのこの山』、『たけのこの里』などがある。また、日本初のスナック菓子である『カール』やキャンデーの新分野である『果汁グミ』なども同社のヒット商品である。

 明治製菓は、マイナーチェンジを含めて400種類近い新商品をつくっており、一日にひとつ以上の新商品が誕生していることになる1)。関東工場のみで年間約80種類の新商品が誕生している。近年の製菓業界は何が売れるのかが不明確な状況となっており、そんななか同社は積極的に商品のテレビCMを放送し続けている。ロングセラー商品に関してもキャンペーンを取り入れながら、常に新しいCMとして放送をしている。CMを作り続けることは、利益率を下げる原因のひとつになっているものの、明治製菓の強みのひとつであると思われる。売れるものがわからない現代の製菓業界において、歴史が長く、人気のある商品でもいつ売れなくなってもおかしくはないと言える。消費者に飽きられないよう、常に広報活動を続けている前向きな姿勢こそが、他社よりも利益が高い理由であると考えられる。

また、近年の好成績の背景には広報活動だけでなく、古くから菓子事業とともに同社が展開していた薬品事業の発展があるのではないかと思われる。1946年にペニシリンの製造を開始して以降、明治製菓は薬品事業を展開していく。なかでも1983年に発売を開始した『イソジンうがい薬』は現在でも発売されており、ロングセラー商品となっている。スポーツサプリメントや健康食品を開発する事業は、森永製菓のウイダー事業をはじめ他社も展開をしているが、薬品事業に関しては明治製菓独自の大きな強みになっている。明治製菓の健康事業が薬品事業のノウハウを活かして2005年に発足したことからもそのことが言える。

Aカルビー

カルビーの好成績の背景には、インターネットの会員組織の充実さが挙げられると思われる。2007年よりも前はブランドごとにそれぞれ別の会員組織を設けていたが、20058月にすべてを一つの会員組織に集約し、『カルビーマイページ』という会員組織をスタートさせた。特定の商品を好む消費者に対してその商品の新しい情報を配信することで、人気を得た。様々なWebブランド調査で好成績を記録するものの、「会社のメッセージであるとか、会社方針を伝える軸が弱い」2)という指摘もあった。そのため、「掘りだそう、自然の力」というコーポレートメッセージを全国紙で発信し、Webサイトでも公開するほか、『じゃがいも丸ごと!プロフィール』の配信を開始した。これはポテトチップスの原材料の生産者がどこの地域の誰なのかという情報を配信するもので、九州にテスト配信した後、20071月から全国に配信している。特に食品の場合、消費者が生産地、生産者を知りたいと思うことは当然であると思われる。それを詳しく公開することは、企業がいかに正しく、良い商品を消費者に提供しているかということの証明になると言える。この情報配信により、先述の企業メッセージや方針は消費者にうまく伝わっていると言えるだろう。それだけでなく、食の安全に対する日本人の警戒心が今まで以上に強くなっている現代において、このシステムは、他の食品会社の情報公開の手本になると考えられる。カルビーは、Webを使った情報提供により消費者に商品の安全性を伝えて、親近感を持たせることで、幅広い年齢層の人気と売上高を維持していると考えられる。

 

以上のことから、売上高・利益が伸びている大手製菓メーカーは、新たなテレビCMやインターネットの会員組織などを用いて、これまで以上に広報活動を充実させていると言える。明治製菓の強みとなっている薬品事業の発展も、菓子だけが強みではないという意味においての広報活動の一環としてとらえることができる。消費者にわかりやすく企業を理解してもらい、商品を購入してもらうためには、その入口となる広報活動が充実していなくてはならないということが改めてよくわかる。

 

4.地方の大手製菓メーカー

先述の5社はいずれも東京や大阪に本社を置く大手製菓メーカーであるが、新潟に本社を置くブルボン、亀田製菓も大手製菓メーカーとして、東京をはじめ全国の消費者に知られている。この2社の人気や利益についても分析をしてみた。

6 ブルボンの経常利益と当期純利益

7 亀田製菓の経常利益と当期純利益

ブルボンは、2008年度から2009年度にかけて経常利益と当期純利益が向上している(図6)。同社の各商品は一定の人気を保ち続けているが、特に人気が高いのは、ファミリーサイズのビスケット商品と『プチシリーズ』である。『プチシリーズ』はミニサイズのビスケットやせんべい、ポテトチップスなどが細長い袋に入っており、24種類という幅広いラインナップから人気を得ており、同社の定番商品となっている。持ち運びしやすいサイズであることも人気の理由の一つであり、食べたいときに気軽に食べられるものという菓子本来のコンセプトを生かしているといえる。また、『アルフォートミニチョコレートシリーズ』などの小箱チョコレート商品の売り上げが大きく伸びている。水嶋ヒロ氏などの人気俳優をCMキャラクターに起用していることが、売上向上の要因の一つと思われる。先述の明治製菓同様、テレビCMに力を入れることで、ブルボンは広報活動を強化しているといえる。

亀田製菓は、2011年に創業65周年を迎える老舗製菓メーカーであり、『亀田のあられおせんべい』、『亀田の柿の種』をはじめとする米菓を作り続けている。同社は2004年度から2009年度まで、6年連続で増収を更新している。現在、過去最高の売上高、経常利益、当期純利益を達成しているものの(図7)、ヨーグルトなどの国内ヘルスケア商品の低迷、商品構成の偏りなどの課題がある。亀田製菓は、雑誌とのタイアップ、他企業の菓子とのコラボレーションなどを通じて、米菓離れをしている若い世代へのアピールを強化し、これらの課題を解決していこうとしている。

 

5.中小製菓メーカー

有楽製菓株式会社は、中小製菓メーカーであるものの、1994年に発売した『ブラックサンダー』が現在ヒットを飛ばしている。同社の過去5年の売上高は右肩上がりとなっている(図8)。5年間の間に売上高を2倍に増加させている点から、不況が続く近年では大変好成績であると言える。また、同社が中小メーカーであるという点から見ても、評価は高いといえる。

8 有楽製菓の売上高

『ブラックサンダー』がヒットした要因はどこにあるのかを調べてみた。『ブラックサンダー』は1994年に発売されて以来、売れない時代が長かったようである。はじめは九州地方限定で発売され、2004年頃にセブンイレブンが名古屋以西で発売したことがブレイクのきっかけであるといわれている。しかし、その名前が全国的に知られるようになったのは2006年頃であると思われる。当時書籍化されてベストセラーとなった『生協の白石さん』のブログ上で取り上げられたことが、ネット上での知名度上昇のきっかけとなった。そして、2008年には北京オリンピック体操男子の銀メダリスト・内村航平選手が勝負食としてブラックサンダーを持参していたことが報道された。この報道によって知名度の高さはより確実なものとなった。

学生生協職員のブログ上での紹介や五輪日本代表関連の報道など、メーカーが予想もしていなかった外部による影響力こそが、ブラックサンダーのヒットに繋がったと考えられる。有楽製菓は、有名人のファンも多い主力商品の国民的人気から、今後も成長が期待されている中小製菓メーカーであるといえる。

 

製菓メーカーは、日本全国に数多く存在し、各社が様々な菓子を消費者に提供している。しかし、食品に対しての安全・安心への要請が高まるだけでなく、消費者の生活防衛意識が高まっていることで、消費環境の状況はより厳しいものとなっている。東京、大阪の大手製菓メーカーの利益が下がりつつある一方で、地方の製菓メーカーや中小製菓メーカーの利益が上がってきている。利益が低下しているメーカーは、広報活動の強化から売上高を向上させることによって利益の回復を狙っており、利益が向上しているメーカーは、課題を見つけ、解決しようとすることで、その人気をさらに向上していこうと考えている。

 

6.菓子の専門商社

 製菓業界のなかで、製菓メーカーと販売する小売業をつなぐ役割を果たしているのが菓子の専門商社である。専門商社は、消費者に直接関わることはないが、製菓メーカーにとってはなくてはならないものとなっている。代表的な菓子の専門商社2社を取り上げてみた。いずれも東京に本社を持っている。

@コンフェックス

コンフェックス株式会社は、1906年に創業した100年以上の歴史を持つ菓子の専門商社である。創業当初は煎豆業を行なっていたが、1913年より菓子卸売業を専業とするようになる。その後、名称を変えていきながら菓子の卸売を続け、2002年に現在の社名となった。菓子を意味する「コンフェクショナリー」と優良を意味する「エクセレント」を社名の由来としている。過去10年間で業績は右肩上がりに伸びており、20072月期にはグループ全体の売上高が1000億円を達成した(図9)。長い歴史を持ちながらも、近年好成績を記録している背景にはなにがあるのかを分析してみた。

 

9 コンフェックスの売上高

コンフェックスは、流通卸売部門を中心とし、製造・開発部門、小売部門の三部門から成り立っている。 製造から小売りまでを自社内でカバーすることにより、菓子マーケット全体の状況をつねに把握し、万全の体制でメーカー、小売業をサポートすることができている。

コンフェックスのグループ内で製造・開発部門を担当しているのはクリート株式会社、株式会社きらら、株式会社スイートファクトリーの3社である。クリート株式会社の発売している『ロイヤルバラエティークッキー』は多くの消費者から人気を得ていて、近年その人気がさらに高まっている。クリートは、海外生産を活用して、安心で高品質、低コストの商品を発売し続けている。プライベートブランドの開発は、現在6ブランドあり、毎月35種類の新たなアイテムが加わっている。そして、この製造・開発を通じて、小売業におけるストアブランドの開発をサポートしている。小売部門を担当しているのは、株式会社夢やと株式会社YSOである。夢やは、1988年に設立された駄菓子屋である。「昔・懐かしい駄菓子屋」をキーワードとして、全国展開を行なっている。店舗には約1000種類の商品があるが、すべての商品を一目で見ることが可能である。また、子供が気軽に買うことのできる商品を子供が見やすい位置に配置し、大人が好む商品の配置は、大人が立ったときの目の高さに合わせるなど、商品配置にも工夫がなされている。そして、店舗ごとに建物のつくりを変えているため、各地それぞれの懐かしさを表現している。夢やは、コンフェックスのグループ企業となってから、代表取締役社長に女性の安東恵美子氏が就任した。就任後すぐに全国の店舗をすべて訪店し、既存店の見直しを図ったことから、安東氏には夢やを変えていこうという強い意欲があるといえる。安東氏は、「コンフェックスと結びついたことにより、マーケティングや商品開発・店舗開発力を向上させる大きな可能性が広がりました。」3)と語っている。このことから、夢やは幅広い世代へ懐かしさを提供していくと同時に、駄菓子屋としての新たな挑戦を今後も続けていくと思われる。

以上のことから、コンフェックスの成長の背景には、各部門間の強い連携と、そこから生まれる各部門それぞれの新しいことへの挑戦意欲があるといえる。連携することによって菓子に対するあらゆる情報を把握することができ、その情報を読み取ったうえで今後なにをしていくべきか、なにに挑戦すべきかを各部門の社員全員が考えることが可能である。

Aサンエス

株式会社サンエスは、1935年の創業から現在まで、一貫して菓子卸売業に取り組んできた老舗企業である。同社は、顧客の期待をさらに上回る品揃え提案を行なうマーチャンダイジング戦略、顧客視点に合った小売業支援を行なうリテールサポート戦略、市場の変化に対応する物流を行なう物流戦略という3つの戦略を駆使して卸売業を行なっている。しかし、これら3つの戦略は卸売業の核となっている取り組みであって、サンエスの特色とはいえない。サンエスは、3つの戦略に加えて、様々な市場や販売ルートの開発、菓子の新たな可能性を開く付加価値づくりなど、従来の卸売活動にとらわれないマーケティング活動を行なっている。

サンエスの物流体制は、他の菓子卸売業の物流体制よりも効率化・合理化が図られていると思われる。同社は、コンピュータの積極的な活用による物流体制をとっているため、他社よりもより早く新時代に対応した物流を行なうことが可能である。自社開発のシステムを核として社内外にまたがるトータルコンピュータシステムを構築し、物流業務全体の円滑化を図っているほか、『eお菓子ねっと』を導入している。『eお菓子ねっと』に関しての詳細は後述する。商品の倉庫であるロジスティックスセンターにおいてはデジタルピッキングシステムや無線LANを導入することによって商品管理と品揃えの効率化に努めている。デジタルピッキングシステムとは、商品が保管されている場所に制御コンピュータからネットワークされた表示・応答装置を設置して、その装置からの作業指示によってピッキング作業や仕分け作業を行なうシステムである。また、ロジスティックスセンターでは、これらシステムの導入によって検品精度の向上と誤配送防止にも努めている。サンエスは、ロジスティックスを“考える物流”として捉えており、ジャストインタイム(納品時間指定)による商品供給の実現を目指して、 システムのさらなる向上と物流ネットワークの充実に常に取り組んでいる。

サンエスもコンフェックス同様、プライベートブランド商品を発売しており、そのなかでも『かむかむレモン』は特に人気がある。テレビCMなどの広告宣伝は一切行なっていないものの、その知名度は、製菓メーカーの発売する菓子と肩を並べるほどの全国的なものとなっている。ヒットの要因には、先述の『ブラックサンダー』と同じように、口コミやインターネット上での消費者同士のコミュニケーション、テレビ番組においての芸能人の紹介など、外部の影響力がある。現在、『かむかむシリーズ』には多くの種類があり、消費者を楽しませている。プライベートブランド商品の国民的な人気は、取引先であるメーカー、小売店へ提案型営業をしていくうえでも高い影響力があるといえる。

サンエスは、物流体制強化やプライベートブランド商品のヒットなどの強みを持つものの、2009年度の連結業績は、減収増益で着地した。2009年の秋より深刻化した消費不振や一部帳合の組み換えが、減収の要因である。一方、コスト削減のほか、先に述べた物流体制をはじめとする業務の効率化を積極推進したことから、利益面においては増益を達成した。経営環境の変化に対応することが、サンエスの今後の課題である。しかし、これまでと同じように、新しいシステムの導入と、そこから生まれる提案型営業を駆使することによって、同社は、激変する時代を乗り越えていくと思われる。

 

 コンフェックスとサンエスは、それぞれに歴史と特色があり、特色を生かしつつ新しい要素を導入することで、歴史を繋いでいっている。菓子専門商社は、菓子の流通だけでなく、製造や販売も行なうことから、メーカーとしての顔も持ち、小売店としての顔も持っている。製菓メーカーと小売業、それぞれの苦労を自ら知ることによって、それぞれにより適切なバックアップをすることが可能となる。

 

7. eお菓子ねっと

 『eお菓子ねっと』とは、製菓メーカー専用に作成された販売管理ソフト『菓子メーカーくん』のオプションであり、菓子専門商社・メーカー向けの電子商取引サービスである。1988年に前身である『菓子業界VANシステム』が稼動を開始し、2000年に現在の名称となった。全国菓子卸商業組合連合会と全日本菓子協会が共同で設立した『eお菓子ねっと運営委員会』が運営を行なっている。運営委員会には、先に取り上げた製菓メーカーの明治製菓、森永製菓、ロッテ、江崎グリコの役員も参加している。また、システム上の問題や利用者の意見・要望を検討し、システムの機能改善に繋げるほか、生販への加入促進を行なう『eお菓子ねっと専門委員会』には、カルビーや亀田製菓、専門商社の例として取り上げたサンエスも参加をしている。その他にも多くの菓子企業が参加をしており、現代の製菓業界になくてはならないものとなっている。

eお菓子ねっと』導入のメリットは、受発注から請求支払いまでの取引業務のデータを電子化するEDIサービスにより、メーカーと商社双方の業務効率を向上させることが可能となる点である。このサービスが多様な商品コードに対応している点も、業務効率アップを促進しているといえる。本システムを導入しているメーカーや商社は、インターネット上でのオンライン取引が実現し、受注業務や入庫予定連絡作業をブラウザのみで即時稼動させることができるようになった。また、豊富な商品情報を貯蔵していることから、メーカーはいち早く商品のPRをすることが可能となっている。そして、最大のメリットは、データ入力の省力化により人件費を削減できる点である。現在eお菓子ねっと』を導入しないと決めている企業もある。しかし、製菓業界はいつ状況が変化するのかが不透明であり、本システムの導入は、製菓業界全体の取引の流れをより円滑にしていくといえる。他業界のIT化が進んでいくなかで、eお菓子ねっと』は、21世紀の製菓業界の取引を象徴するシステムとして、今後も多くの企業に導入されていくと思われる。

 

8.菓子の専門店

埼玉県に本社を置く株式会社みのやが、関東地方で展開している菓子専門店『おかしのまちおか』は、近年その急成長ぶりが多くの企業から注目されている。群馬県を除く14県において110店を構えており、現在は200店舗達成を目標としている。

みのやは、1954年に菓子問屋として創業した。その後、約40年間にわたり菓子の卸売を行なってきたが、1997年に『おかしのまちおか』を東京に開店することで、小売業に進出した。2008年には卸売事業を中止し、小売業へと事業転換をした。みのやの社長である正木宏和氏は、小売業に進出した理由について「最も大きかったのは卸という業態にある種の限界を感じたことです。」4)と語っている。当時は、総合スーパーなど、チェーン展開をしている小売店の力が強まり始めていた時期であった。みのやの取引先は地元の小売店が中心であり、チェーン展開をしている大手小売店との取引は少なかった。しかし、仮に商社としての規模を拡大しても、小売店に主導権がある以上はみのやの努力が報われることはなく、同社の成長には繋がらないといえる。努力した分だけ報われる小売業への事業転換には、正木氏の「社長の私だけでなく社員たちも、自分の努力が100%報われる方がうれしいに違いない。」4)という思いがあった。会社の経営方針だけでなく、社員全員のことを考えたうえでの正木氏の決断が、現在まで続く小売業としての急成長のきっかけとなったのである。

『おかしのまちおか』は、開店時以外は、チラシによる広告宣伝を一切行なっていない。商品を最大9割引まで安くすることがあるが、それだけが人気の要因ではない。立地先の客層に応じた店作りを、各店舗の店長に任せる分権経営こそが『おかしのまちおか』の最大の特徴であるとともに、人気の主要因となっている。それぞれの店舗が個性的な店作りを行なうことで、消費者を日々飽きさせず、楽しませているのである。正木氏は、「2つとして同じ店がないと言っていいほど、店舗ごとに店構えが違っています。」4)と語っており、店員一人ひとりが知恵を出し合うことで、個性的な店作りを行なうことが可能となり、同時に店員たちの成長に繋がっていくのである。

『おかしのまちおか』は、毎年20から30の新規店舗を出店している。20096月期のみのやの売上高は121億円となり、9年前の約7倍に増加した。今後も店員たちのアイディアが新たな店舗を作り上げ、みのやを大きく成長させていくと思われる。

 

9.受験戦争と製菓業界

 近年、世間が受験シーズンに突入すると同時に、多くの製菓メーカーが普段発売している商品のパッケージを合格祈願パッケージに変更している。“キットカットできっと勝つ”という語呂合わせが受験生の間で広まったことが、このブームのきっかけになったといわれている。『キットカット』を発売しているネスレコンフェクショナリー株式会社は、2003年より都内のホテルに宿泊した受験生に『キットカット』をプレゼントし、2004年には桜をあしらった特別パッケージを販売した。同時期に、“コアラは寝ているときでも木から落ちない”ということから“寝ていても落ちない”というおまじないとして受験生の間でロッテの『コアラのマーチ』が注目された。受験生から支持を得たロッテは、2005年に合格祈願パッケージを販売した。明治製菓は、2002年に『カール』の合格祈願パッケージとして『ウカール』を販売しており、他社よりもいち早く受験生の注目を浴びていた。いずれの特別パッケージも、高い評価を得たことから現在まで展開を続けている。多くの製菓メーカーがこのブームに乗り、次々と合格祈願パッケージを展開していくものの、なかには苦しい語呂合わせのために人気を得られなかった商品もあった。そのため、現在ではパッケージの変更だけでなく、商品に受験生向けの特典を付けたり、キャンペーンサイトを展開するなど、各社が工夫を凝らしている。

 毎年の受験戦争の開始は、製菓業界にとっては一つの商戦の始まりでもある。各社が展開する合格祈願商品は、今後も受験生にとって受験シーズンにおける必需品になっていくと思われる。しかし、受験生の合否は受験生自身の実力で決まるものであり、合格祈願商品の購入は、あくまで菓子本来の特色である“衝動買い”に当てはまるといえる。製菓メーカーが合格祈願商品をモデルとして、不景気や就職難に苦しむ社会人や大学生を応援する特別パッケージの開発を行なえば、パッケージの変更や特典の効果でどれだけ衝動買いをする消費者が増えるのかがより明確になると思われる。

 

10.今後の製菓業界

経済状況の悪化によって、製菓業界の状況も大きく変化している。消費者の低価格志向が強まり、あらゆる商品の価格競争が激しくなってきている。製菓業界だけでなく、食品業界全体がこの状況に悩まされている。菓子は現在、スーパーやコンビニなどで安易に買うことが可能であり、菓子の専門店がこれらの大手小売店に対抗するには、『夢や』のように昔懐かしい駄菓子を専門に扱ったり、『おかしのまちおか』のように店舗ごとに品揃えを工夫して差別化を図ったりしなければならない。また、少子化が進むなかで、健康志向の観点から菓子の幅広い世代に向けた販売展開が広がりつつある。砂糖を使わない製品の普及のほか、ビタミンやカルシウムといった栄養成分の強化、キシリトールに代表される新しい原料の効果など、従来の糖分補給から健康補助食品としてのニーズの変化は今後の売上拡大を目指す上でも重要視されていく点であるといえる。同時にこの変化は、中高年の世代における需要の開拓など、製菓業界の新たな展開を考えていくうえでの大きなきっかけにもなると思われる。

 

11.まとめ

私は今回の研究で、私たちが気軽に食べている菓子一つ一つに多くの企業が関わり、多くの人たちが消費者に飽きられないよう常に何かを考えているということを改めて理解した。そして、メーカーのアイディアを生み出すためには、商社のプライベートブランド商品販売による調査や店舗の売上データが必要不可欠であることなどから、製菓業界は他の業界以上に各分野間の連携がとれなければ成り立たないということがよくわかった。

 

 


【参考文献】

・コンフェックス株式会社 『会社案内パンフレット〜CONFEX Corporate Concept Book SINCE-1906

 

【参考URL

・明治製菓株式会社 公式ホームページ

http://www.meiji.co.jp/

・明治製菓株式会社 有価証券報告書(20093月期)

http://www.meiji.com/investor/library/securities/2008/pdf/securities_2008_04_ms.pdf

・森永製菓株式会社 公式ホームページ

http://www.morinaga.co.jp/index.html

・金融庁 EDINET 森永製菓株式会社 有価証券報告書 161期(平成2041 平成21331日)

https://info.edinet-fsa.go.jp/E01EW/BLMainController.jsp?1294913411746

・江崎グリコ株式会社 第104期 報告書(平成2041日から平成21331日まで)

http://www.glico.co.jp/ir/jigyo/pdf/104_jigyo_rep2.pdf

・カルビー株式会社 公式ホームページ 会社情報 業績推移

 http://www.calbee.co.jp/company/suii.php

・株式会社ブルボン 平成223月期 決算短信

http://www.bourbon.co.jp/static/pdf/H22.3tannsinn.pdf

・株式会社ブルボン 平成233月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)

http://www.bourbon.co.jp/static/pdf/H22.3.daiitisihanki.pdf

・亀田製菓株式会社 平成223月期 決算短信

http://www.kamedaseika.co.jp/admin/images/irInfo/upload/338.pdf

・亀田製菓株式会社 20103月期 決算説明資料

http://www.kamedaseika.co.jp/admin/images/irInfo/upload/343.pdf

・有楽製菓株式会社 公式ホームページ 事業内容

 http://www.yurakuseika.co.jp/11kaisha/index.html

ブラックサンダーチョコの通販ショップ ブラックサンダー丸かじり!】

 http://black-thunder07.seesaa.net/

・がんばれ、生協の白石さん!  2006121

ブラックサンダーの再入荷

 http://shiraishi.seesaa.net/article/11996704.html

exciteニュース 200638日 コネタ

「生協の白石さん」にも登場! 謎のお菓子ブラックサンダー

 http://www.excite.co.jp/News/bit/00091141701056.html

・コンフェックス株式会社 公式ホームページ

 http://www.confex.co.jp/

三井物産・企業リスクプロテクション協議会 レポートNo.654610

企業事例/駄菓子屋のフランチャイズ「夢や」 駄菓子はチェーン展開で新時代に

「流通改革」・「システム構築」が生んだ成功

http://www.insurance.ne.jp/kyougikai/modules/news/download.php?url=ca04f842-98c7-74e0.pdf&filename=%C6%A6%C3%CE%BC%B1%A1%D6%C2%CC%B2%DB%BB%D2%A4%CF%A5%C1%A5%A7%A1%BC%A5%F3%C5%B8%B3%AB%A4%C7%BF%B7%BB%FE%C2%E5%A4%CB%A1%D7.pdf

・食の情報源 日本食糧新聞社 2010222

サンエス、103月期業績は減収増益の見込み 菓子業界、厳しい市場環境続く

http://news.nissyoku.co.jp/Contents.aspx?pid=urn%3Anewsml%3Anissyoku.co.jp%3A20100222%3AAOYAGI20100217044053247%3A1

・食の情報源 日本食糧新聞社 2010712

サンエス、09年度連結業績は減収増益 今期は成長業態・チャネル強化

http://news.nissyoku.co.jp/Contents.aspx?pid=urn:newsml:nissyoku.co.jp:20100712:AOYAGI20100709083923152:1

JMR生活総合研究所J-marketing.net 提言論文 消費研究チーム

ヒット商品分析からわかった五つの事実

 http://www.jmrlsi.co.jp/menu/report/2005/jirei30.html

・株式会社プランズ・オペレーション 菓子メーカーくん eお菓子ねっと

 http://www.plansoperation.co.jp/kam6xpcs/Kam6_Van2.htm

eお菓子ねっと 公式ホームページ

 http://www.eokashi.net/

日経流通新聞ウォッチ 2010219

「おかしのまちおか」が繁盛する理由

 http://mjwatch.blog15.fc2.com/blog-entry-1237.html

・日経トレンディネットもう一つの受験戦争?過熱する菓子メーカー『合格祈願商品バトル』

 http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20080110/1006022/?ST=life&P=1

FIDELI業種ナビ

【菓子小売業】業界動向/マーケティング情報

 http://industry.fideli.com/industry/m/industry4_28_1.html

 



1) プレジデントロイター 20098.17号 新・会社論

明菓の新商品は1日にひとつ以上生まれている!

http://president.jp.reuters.com/article/2010/06/08/89534882-6EEF-11DF-805F-F6E93E99CD51.php

2) 日経ビジネスON LINE 20071218日(火)トレンド

ウェブブランド順位を急上昇させた理由 〜カルビー〜

【石黒不二代のマーケティング最前線】

http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmg/20071217/143178/

3) コンフェックス株式会社 『会社案内パンフレット〜CONFEX Corporate Concept Book SINCE-1906

4) 日経ビジネスON LINE 2010326日(金) 伸びる会社は全員力

「おかしのまちおか」の急成長を支える分権経営 正木宏和・みのや社長が手にした信念http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20100325/213560/

 

 

 

 

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