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ホーム >> COEプログラム事業の遂行と成果について >> b. 研究会 >> グループ2「神道・日本文化の形成と発展の研究」
第5回「神道・日本文化と外来宗教思想研究会」・第20回「東アジア異文化間交流史研究会」 
公開日: 2004/12/16
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1.目的:
今回は、浅野春二助教授・三橋健助教授が主体的に進める「神道・日本文化と外来宗教思想研究会」(第5回)と、鈴木靖民教授が進められている「東アジア異文化間交流史研究会」(第20回)の共催事業として開催された。
中国における日本研究の第一人者である王金林氏を招き、古代日本における宗教遺物等にみられる道教受容の問題についての発表をお願いした。
 また、道教と仏教の交渉史研究の立場から、田中文雄氏によるインド、中国などにおける閻魔王の受容と展開についての発表がなされた。
 以上から、外来思想(道教)の古代日本における受容や、大陸における仏教と道教の習合の様相などを考える。

2.開催日時:2004年10月27日(水)17時00分~19時30分

3.会場:國學院大學院友会館3階 大会議室

4.発表者・コメンテーター・司会・コーディネーター(※敬称略)
  発表者
  王金林氏(浙江大学教授)
    「古墳出土の玉・鏡・剣の副葬品からみた道家思想の影響」
  田中文雄氏(真言宗豊山派現代教化研究所研究員・國學院大學兼任講師)
    「十王の成立-ヤマから閻魔へ-」
   
   コメンテーター  鈴木靖民(本学大学院文学研究科教授・事業推進担当者)
              浅野春二(本学日本文化研究所兼担助教授・事業推進担当者)
   司会        三橋健 (本学大学院文学研究科助教授・事業推進担当者)
   コーディネーター 山崎雅稔(本学COE研究員)
               新井大祐(本学COE研究員)

5.研究会の詳細:
  5-1 発表概要
①王金林氏「古墳出土の玉・鏡・剣の副葬品からみた道家思想の影響」
  中国における日中交流史研究、日本古代史研究の第一人者である王金林氏の報告は、近年積極的に取り組まれて来られ、関連著書の刊行を予定されている日本古代における道家思想、神仙思想に関わるものであった。報告では、日本の基層信仰である神道と道家思想がともに持つ自然観、シャーマニズム的性格に見られる構造的類似が、日本の道教思想の受容を遅らせたのではないかとする視点から、古代日本における不老不死や神仙観を窺うことのできる資料として弥生時代から古墳時代にかけての墳墓から副葬品として出土する玉・鏡・剣などの宗教的道具を選び、中国的な道家思想の受容の度合いを究明しようとしたものである。その要点は以下のとおりである。

王金林氏
王 金林氏
 
a.銅鏡の副葬と神仙思想の関係
  これまで、被葬者の周囲に配置された銅鏡は、おもに辟邪の意味を込めて配置されたと考えられてきた。しかし、道教において鏡は神仙示現・予知・不老長生・辟悪などに関わる呪具として用いられるものであり、副葬品としての鏡もまたそうした多様な呪術的性格を持ち合わせていたのではないかと思われる。
 例えば、三角縁神獣鏡に描かれた神仙や霊獣が道教的思想を反映して描かれたことは、神仙が東王父・西王母などに対応して配置されていること、霊獣が"巨(矩)"と呼ばれる呪具などをくわえた例が存在することなどからも窺われる。その際、霊獣は神仙の乗り物として死者の霊魂を仙人のいる天上世界に導いてくれることを期待されたのではないか。

b.剣の副葬と尸解術
  剣は被葬者の生前の社会的地位を示すと同時に祭祀具としての宗教意識を内包するも のである。檪本東大寺山古墳出土の環頭大刀銘に「上応星宿、下辟不□」と刻されているように、大刀は宿星信仰に基づいてその呪力が期待されて副葬された。道教では神仙の地位の上下(総じて九品)が決まっており、道士は修練によって神仙世界に昇ることができるが、その修練の度合いによって昇天の方術は「飛天」・「隠遁」・「尸解」の3つに分かれる。このうち、「飛天」はヤマトタケル伝説、「隠遁」は聖徳太子の片岡伝説(日本書紀)などの例があって日本にも窺われる。尸解術とは道士が昇天するにあたって屍の代わりに何かを残すというものであり、それが宝剣である。日本における剣の副葬もまた道教の尸解術に基づいて天上他界を目指したものと考えられる。 
(当日配布された報告要旨では、図版により豊富な例を示して下さった。また玉についても言及されていたが、口頭報告では時間の都合により割愛された。)


②田中文雄氏「十王の成立-ヤマから閻魔へ-」
  閻魔と言えば、一般に「閻魔さま」「閻魔大王」などと称され、地獄と関わりながら日本各地において広く信仰され、閻魔堂なども多く見受けられる。また他の9名の王とともに十王と考えられ、十王堂などをまつる所も少なくない。
本発表では、仏教における閻魔や十王の発生や、その道教への受容・展開、また地獄(黄泉)思想との関わりについて、関連典籍の成立や記述などを中心に発表がなされた。
 まず、初期の閻魔は、ヒンドゥーの『リグ・ヴェーダ』や『アタルヴァ・ヴェーダ』にみられる「Yama(ヤマ)」であり、「人類最初の死者」や「死界の王」と捉えられている。その後、輪廻転生説の定着と共に「地獄の王で、獄卒を従えて罪ある死者を罰する」という閻魔像が、仏教における尊格として捉えられるようになる。
このように、インドで発生し、仏教に閻魔として組み入れられた「ヤマ」は、その後中国に渡り、道教の尊神として取り入れられ、他の九王と併せて十王信仰として展開し、隆盛となっていく(9~10世紀)。その中で、多くの道教教典において道教の尊号「真君」なども付されるようになる。
とくに、道教において重要な霊山と考えられる泰山の王(泰山府君)が十王にみられるが、これは、泰山の神が人の生死を司る存在であったことからと考えられる。
また、この他、道教に根ざした名前を持つ王と、仏教的な名前をもつ王が混在することから、閻魔信仰と十王信仰は仏教・道教間で信仰の交渉を繰り返しながら成立していったと考えられる。

田中氏
田中氏

 そして、田中氏は、十王の「十」という数字と忌日の関係、またその際の祖霊祭祀・葬送儀礼との関わりから、道教における十王信仰やその教典は、まず儀礼においてその尊格が発生・定着し、その後、関連教典が編纂されたとの意見を提出した。
  以上から、閻魔信仰・十王信仰は中国において、仏教・道教が複雑かつ重層的に混在する中で、葬送儀礼や祖霊祭祀、忌日、他界観と関連しながら展開していったとの提示がなされた。

5-2 成果と課題
 2人の報告終了後、休憩を挟んでコメンテーターを中心に討論が行われた。まず、鈴木靖民氏が王金林報告にコメントして、以下の2つの疑問点を提出した。
・銅鏡の性格について。
3~4世紀の鏡に刻まれた文様・文字を手がかりに論証しようとしたが、当時の日本人が文字を正しく理解できたのか。
・東大寺山古墳出土の大刀銘について。
古墳自体の築造年代は4世紀と考えられているのに対して、環頭大刀銘に刻まれた年号は2世紀代の「中平」であり、大刀の製造と埋納に大きな時期差が存在する。この差をどのように考えるべきか。剣を埋納することは知っていたとしてもその思想を理解していたかどうかが問題である。また日本における昇天の方術としての尸解術はどこまで遡りうるのか。

討議
討議(左より、三橋氏、王氏、田中氏、鈴木氏、浅野氏) 
 
 これに対して王金林氏は、渡来人が支配者層と交流しており、道家思想の知識を持っていたと考えられるとし、東大寺山古墳の大刀埋納は3~4世紀に道家思想が伝えられて行われたものではないかという見解を述べられた。
 つづいて浅野春二氏による田中報告へのコメントがなされた。浅野氏は十王思想が道教や仏教的要素を多分に含んだ形で展開することは、ひるがえって、神道・日本文化と外来の思想を比較する際に中国やインドにおける信仰の重層性やその歴史を軽視できないことを念頭に置いて研究すべきことを意味するとして、田中報告の本プロジェクトにおける意義を述べたあと、以下の3点を質問した。
・9~10世紀に成立した十王信仰は後々大きな生命力を獲得していくのはなぜか。またその
信仰の中核になっている基本観念はどのあたりにあるのか。
・報告のなかで、「儀礼によって経典ができた」と指摘したのはどのような儀礼を想定してのものか。
・台湾の場合、49日に十王像を掛けるがそこで読まれる十王経典と直接関係無い場合もある。これはなぜか。
 これに対して田中氏は、『旧唐書』の妙崇伝に道教が49日法要を行うのはおかしいという指摘があり、すでにこの頃には道教が法要に関わるようになっていたとし、道教と仏教が混交して十王の信仰をなしていたものが9~10世紀にかけて理論付けが行われていき、それが経典として成立したのではないかという想定を提示し、儀礼に対して付加的に意味づけがなされていったと述べた。
 また、フロアから葛継勇氏(浙江大学博士課程)が、インドのヤマ(Yama)神に語源を持つ言葉としては「黄泉」(ヨミ)があると指摘した。また泰山府君の「府君」はもとは地方長官の意味であり、漢代には将軍を意味する言葉であるが、他の墓誌などに用いられる例を鑑みれば、死者に対する尊称としての意味を持つのではないかと指摘した。これを受けて三橋健氏は、「黄泉」と書き表す根拠について王金林氏に質問した。これに対しては、古代中国の思想には世界を[天-土-水]という三区分で表現するものがあるので、(古事記の「底つ国」に通じるような)土・水の観念を反映しているのではないかという回答が示された。
 最後に田中氏から王金林氏に向けて、初期段階の道家思想と道教の展開、日本への伝播に関しては、中国と日本の学界で議論の溝が埋まっておらず、将来的に必ず議論を深めていくべき問題であるという提言がなされた。限られた討論時間のなかで、活発な質疑応答、意見交換が行われた。


文責:山崎雅稔(COE研究員)
    新井大祐(COE研究員)




 
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