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ホーム >> COEプログラム事業の遂行と成果について >> c. 国際会議・シンポジウム >> グループ3「神道・日本文化の情報発信と現状の研究」
シンポジウム「現代日本人の宗教性を考える」 
公開日: 2005/6/13
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シンポジウム「現代日本人の宗教性を考える」報告
日時  2005年3月19日(土) 午後1時半〜5時
場所  國學院大學 渋谷キャンパス 120周年記念1号館 1階1103教室
テーマ 「現代日本人の宗教性を考える」
発題者 菊池聡(信州大学助教授)
    西脇良(南山大学専任講師)
    武田道生(大正大学講師)
司会  石井研士(國學院大學教授)

タイム・スケジュール
13:30-13:40 趣旨説明
13:40-14:30 発題(1) 菊池聡氏「不思議現象はなぜ信じられるのか―認知心理学からのアプローチ」
14:30-15:10 発題(2) 西脇良氏「日本人の宗教的自然観」
15:10-15:50 発題(3) 武田道生氏「現代日本人の宗教性の持続と変容」
16:00-17:00 コメント及び応答

1. 趣旨
 このシンポジウムは、現代日本人の宗教性に関する調査研究の一環として実施された。これまでに、國學院大學21世紀COEプログラムの研究計画に基づいて、平成15年度に「日本人の宗教意識・神観に関する世論調査」、平成16年度に「日本人の宗教団体への関与・認知・評価に関する世論調査」の二度の世論調査が実施されている。こうした世論調査の結果を踏まえて、現代日本人の宗教性をめぐるシンポジウムを開催し、問題提起と現状の分析を行った。

1. 内容

菊池聡氏

 菊池聡氏の発題「不思議現象はなぜ信じられるのか―認知心理学からのアプローチ」は、認知心理学の視点から、「不思議現象」がなぜ信じられるのかを扱った発表であった。氏の発表を以下に要約する。
 認知心理学は、心を一種の情報処理系としてとらえて、知覚や記憶・推論などの知的な心の働き(認知)を実証的に解き明かすことを目的としている。信仰をBelief(信念)の一種と考えて、Beliefの成立や強化・維持の認知過程に注目した。不思議現象実在に関する信念=超常信念は、宗教心と同義ではないが類似した側面を多く持っている。その超常信念の成立や強化の上で最も強い影響をもたらすのは、知識を越えた「体験」であることが多く指摘されている。
 この一連の認知プロセスでは、超常体験における知覚情報をもとに諸解釈を検討し、超常的な原因を最も妥当と解釈して問題解決に至る推論過程が働いている。信念には、推論過程の関与程度により基本的信念-高次元信念などの区別があるが、純粋に目撃体験であっても推論プロセスが含まれることに注意が必要である。人間の推論過程は、必要な情報を正確に反映したものではないし公平に扱ったものでもない。そこに認知システム特有の情報処理のバイアスの特徴が多く現れている。
 予知体験(虫の知らせ・テレパシー・霊感)のような確率的事象に関する超常信念では、推論過程の影響力が他の超常信念よりも大きくなる。そして、このような状況で典型的に起こる随伴性認知の歪みによる錯誤相関(幻相関 illusory correlation)、統計的回帰の誤認などの認知的要因が、二つの事象の背景に「何らかの原因」が存在するという解釈を選択させるようになる。この、二つの事象の「共変関係の推論された強さ」が、信念の確信性を高める。
 超常信念に現れる認知バイアスは、人の推論過程の欠陥を示すものではない。限られた知覚情報から効率よく的確な意思決定を下すことができる優れたシステムである。確証バイアスは「認知的節約の原理」からみて当然のものであり(認知的保守性)、バイアスの存在は高度な環境適応の結果として考えるべきである。

西脇良氏

 西脇良氏の発題「日本人の宗教的自然観」は、大学生へのアンケート調査の結果から明らかになった日本人の宗教的自然観に関する発表であった。氏の発表を以下に要約する。
 宗教を「有限である人間が無限を想起し、その関係性のもとで人間の問題の究極的解決を目指そうとする営み」と定義し、人間の意識・行動の問題として探求するのが宗教心理研究である。近年の日本人の宗教意識をめぐる世論調査では、その低さが指摘されている。しかしながら人々の宗教的営みを的確に捉えるためには、人間としての存在の在り方そのものの自覚によって生じてくるような宗教性を視野に入れた、より根本的な「宗教的自然観」という指標が必要である。
 調査は2000年10月から2003年4月に、カトリック系学校9校に通う学生(中1,中3,高2,大学生、合計3,466名)を対象に実施された。中心的な質問は「これまでの生活をふり返って、ふかく感動した、身近な自然体験を1つ、思い出してみてください。」である。
調査の結果、宗教的自然観は、「宗教意識の低さ」「宗教への無関心」の陰に隠れてはいるものの、現代もなお有効かつ重要な宗教性の一指標であることが明らかになった。

武田道生氏

 武田道生氏の発題「現代日本人の宗教性の持続と変容」は、現代の多様な宗教現象を通して、現代日本人の宗教性の持続と変容を考察した発表である。氏の発表を以下に要約する。
 「宗教とは、自己の存在や自己を取り巻く世界全体の意味を説明するもの」とすれば、日本人の宗教性の根源は「結びの宗教性」ということができる。この点における最も極端な例は仏教である。鎌倉新仏教祖師が個人の苦悩の解決や悟りへの道筋を新たに示したにもかかわらず、江戸期には先祖と子孫を結ぶ先祖供養の宗教へと変質していった。明治以降の新宗教でさえも、現世利益的な救済の側面は大きいものの、不幸の原理を「先祖への感謝の念の欠如」とするものが多い。
 先祖や一族と言った血縁共同体は、現代ではその存在の意味を失っている。なぜならそこには守り継承するべき共通の職業も家産もなく、もはや所属する意味や価値がないからである。「イエから家族へ、そして個(孤)へ」という絆の縮小は避けようもない。
他方で新しい繋がりを求める現象が現れている。宮崎駿が制作するアニメの高い人気は、現実に体験できないイニシエーションの仮想体験としての共感が背景にある。「セカチュー」「黄泉がえり」『電車男』といった純愛ブーム、「ウォーターボーイズ」「ゴクセン」などの熱血ブームも新しい絆の模索であり、とくに『電車男』は、同時参加性による新しい匿名友人関係による恋愛成就であった。また、「リング」「たたり信仰」などホラー系ブームでは、見るだけで呪いが伝染、自分が作り出していない原因での不幸を起こすタタリが強調され、仮想世界での不可思議な繋がりが見られる。
 現実に熱く結びつく場をもたなくなった我々の求める世界はどのような世界なのか、仮想世界現実にはない繋がりを求める多くの現代日本人が向かう先はどこなのかを理解することが重要である。

討議の様子

 以上の発題を踏まえてディスカッションが行われた。司会の石井から菊池氏に対して、分析には社会的変化が考慮されていないのではないかという点、西脇氏に対しては、「宗教的自然観」にも変化があるのではないかという点、武田氏に対しては現代日本人の宗教性の持続に関して質問がなされた。
 これらの質問に対して、菊池氏から、より認知バイアスを生み出す環境の変化を想定していると回答がなされた。西脇氏は、よりさらなる研究の積み重ねが必要であることを強調した。武田氏は、変化とともに持続的側面がありこの点も見落とすべきでないことを指摘した。
 その後会場から複数の質問が寄せられた。西脇氏には「宗教的自然観」と体験の具体的な場所(海、山など)との関係について、研究上の比較の視点(例えば過去/現在、カトリックなど特定宗教/それ以外、男性/女性、世代間など)の重要性について質問があった。菊池氏には「不思議現象」の用語の意味と「宗教的信念」の語との関係について質問があった。
 質問に対して西脇氏と菊池氏を中心に回答と意見の交換が行われた。他にも武田氏の『電車男』に関する考察について意見が交換された。
 このシンポジウムには約50名の参加者があった。
(文責:石井研士)
 
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