ホーム >> COEプログラム事業の遂行と成果について >> b. 研究会 >> グループ1「基層文化としての神道・日本文化の研究」 研究会「東アジア先史における農耕と祭祀の諸問題」 | |||
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國學院大學21世紀プログラム研究集会 「東アジア先史における農耕と祭祀の諸問題」 1 開催目的
東アジア先史における祭祀遺跡や祭祀遺物として使われるものは多数存在する。しかし、物質文化から祭祀的行為やその痕跡を復元し考証することは、その過程における困難が少なくない。そこで、本研究集会では東アジア先史時代における農耕と祭祀を研究する若手研究者を学内外から招聘し、研究の現状と動向及び問題点を共通に認識し、今後の研究活動をより発展させることを目的として開催した。 また昨年度訪問したベトナム国立考古学院のグエン・キム・ズン博士にベトナム考古学の最新の情報を交えてご講演いただくことになった。 2 開催日時 平成15年7月19日(土) 3 開催場所 國學院大學306教室 4 研究発表者・司会(敬称略) グエン・キム・ズン博士(特別講演講師) 山形眞理子(特別講演通訳) 阿部昭典(研究発表者:國學院大學博士課程後期) 岩崎厚志(研究発表者:國學院大學考古学研究室助手) 今村佳子(研究発表者:山口県立萩美術館・浦上記念館学芸員) 加藤里美(研究発表者:國學院大學日本文化研究所兼任講師・國學院大學21世紀COE研究員) 宮里 修(研究発表者:早稲田大学考古学研究室助手) 村松洋介(研究発表者:國學院大學博士課程後期) 山添奈苗(研究発表者:國學院大學博士課程後期) 研究会の出席者は48名であった(外部出席者を含む)。 5 特別講演・研究集会の詳細 5-1 グエン・キム・ズン博士 「フングエン文化(4500-3500BP)における農業生産経済の証拠」
要旨:フングエン文化は、ベトナム新石器時代の終わりから鉄器時代の幕開けにかけての文化であり、多くの生活痕跡を提示している。1970年代以降、より細かな研究が進められるようになり、また、60数箇所確認されているフングエン文化の遺跡をもとに、農耕に依拠した生活が提示されつつある。 中でも、玉器は特徴的といえ、中国南部との関連性を強く示している。中国文化の影響はベトナムのフント省から紅河を遡り雲南、四川に続く山の道や、台湾、広東などの海の道が考えられている。出土炭化米の計測値にばらつきが少ないことや農具、動物遺存体などから、水稲耕作が一定の水準をもったものであったことも明らかになりつつある。フングエン文化に先行する時代に水稲耕作の萌芽があると考えられているが、現在のところ北部ベトナムに関しては明らかになっていない。しかし、水稲耕作を発展させたフングエンの人々は、フングエン文化―ドンダウ文化―ゴームン文化―ドンソン文化と続く金属器文化発展の基礎を築いた。この安定した農耕は精神文化にも影響したことが考えられている。たとえば、フングエン文化の土器文様のS字モチーフは後のドンソン文化の代表的遺物である銅鼓の文様として受け継がれており、フングエン文化の精神生活も、千年にわたって古代ベトナムの地で受け継がれていったのである。
阿部昭典氏 「縄文時代の環状列石―縄文時代中期末葉における環状 集落の崩壊と環状列石出現の意義―」 縄文時代には幾つかの画期があり、中期中葉〜後期前葉にかけての時期もその一つと考えられる。この時期に出現する環状列石を含めた大規模配石は重要な意味を有しており、多様な視点からの研究がなされて来ているものの、その定義を含め、基礎的研究がおろそかになっている。発表では、この環状列石について、基礎的な位置づけを再検討した結果として、その機能・性格を示す幾つかの要素をとりあげて、今後の研究課題を示した。 岩崎厚志氏 「中国における先史精神世界」 中華人民共和国の新石器時代長江下流域における副葬品の個別の意味について考察し、社会構造の把握を行おうとするものである。岩崎氏は、生業形態の変遷とそれに伴う墓域の立地と副葬品の変化を紹介。特に副葬品に施された文様が具体的な事物の表現から抽象的な表現へと変化していることをあげ、こうした精神世界の変化の背景に、生業をはじめとする社会の変化があると指摘した。 今村佳子氏 「中国新石器時代における動物像 ―動物を用いた「まつり」を通してみる中国初期農耕文化の一側面―」 中国新石器時代の信仰・呪術などに関わる遺物・遺構について、特に動物像・動物形象器物、供儀とト骨を今村氏独自の検証に基づき説明された。また、それらの変化や分布、特色の成立背景として生業形態に着目し、動植物遺存体との有効的な関連性を示唆した。 加藤里美氏 「食品加工具と精神文化」 中華人民共和国の新石器時代に雑穀栽培を主体に行ったと考えられる地域に出現する、食品加工具である有足磨盤・磨棒をとりあげ、稲作栽培主体の文化にはない精神文化を有していたことを提示した。また、稲作が雑穀栽培を主体とする地域に進出することで、雑穀栽培社会特有の精神文化が崩壊し社会における変容が考えられることを示唆した。 宮里 修氏 「朝鮮半島における青銅武器の儀器化について」 朝鮮半島においては青銅武器そのものが儀器化するのではなく、出土状況が儀器化を認定させるという点に問題意識を置き、近年の研究動向、儀器化の検証、祭祀・儀礼の空間といった視点から検討を試みた。 村松洋介氏 「鏡と信仰―鏡習俗にみる変化―」 8月25日〜8月30日の九州地方における多鈕細文鏡調査に向けて、多鈕鏡を含めた東アジアにおける青銅器文化の研究動向と、わが国における多鈕細文鏡、前漢鏡、後漢鏡の副葬状況と埋納状況の変遷を提示し、朝鮮半島や中国大陸における使用状況との共通性と非共通性を抽出した。 山添奈苗氏 「線刻入り紡錘車の機能と変遷」 古墳時代から古代にかけての線刻入り紡錘車について分類、分布、時期的変遷、出土遺跡の性格を総合的に検証し、特に線刻内容の変遷と祭祀との関連性を指摘し、線刻内容が文様から文字へと変化しても、線刻入り紡錘車に期待された役割は変化することなく引き継がれることを提示した。 6 成果と課題 東アジアの先史時代において祭祀遺跡や祭祀遺物は多様な形で存在する。しかし、物質文化から祭祀的行為やその痕跡を復元考証することには、その過程における困難が少なくない。そこで本研究集会では、東アジア先史時代における農耕と祭祀に関連するテーマをもつ若手研究者を学内外から招聘し、研究の現状と動向および問題点を共通認識し、今後の研究の方向性を見出すことに努めた。こうした基礎的作業を重ねていくことにより、今後の研究活動をより発展させることが可能となろう。 文責:加藤里美(COE研究員) |
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