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ホーム >> COEプログラム事業の遂行と成果について >> b. 研究会 >> グループ2「神道・日本文化の形成と発展の研究」
第3回「古代・中世の神道・神社」研究会 
公開日: 2003/10/17
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第3回「古代・中世の神道・神社」研究会報告

1 開催目的
 近年の古代史研究においては、出土文字資料等の考古遺物や地理学的見地から、地域環境を導き出す研究が注目されはじめている。今回の研究会は、神社研究においてこうした成果をいかに応用すべきかを探るために開催した。現在、地域環境と古代神社との関係についての論考としては、義江彰夫氏の「古代信濃における開発・環境管理と地域の支配」(『国立歴史民俗博物館研究報告』96集・平成14(2002)年)以外になく、こうした手法によって、神社の実態を明確化するための指標を提示することは急務といえよう。
 以上のことを考慮の上、今回の研究会では笹生衛氏を招聘した。笹生氏は考古学的な祭祀儀礼研究に一定の実績があり、かつ安房地域における古代の環境を視野に入れた研究を行っているからである。
 なお今後、神社を対象とした研究会については、「古代・中世の神道・神社研究会」という名称を付し、今回を第3回とした。これは、「愛媛県東予・中予地域(旧伊予国)における神社の文献史料と現状」(平成15年3月15日実施)を第1回、「一宮研究会 中世神社史料の性格をめぐって」(平成15年5月30日実施)を第2回と位置付けているからである。

2 開催日時
 平成15(2003)年8月2日(土)13:00〜16:00


3 開催場所
 國學院大學120周年記念1号館4階・1402号教室

4 発表者・コーディネーター・司会
 笹生 衛(さそう まもる・千葉県立安房博物館上席研究員 発表者)
 杉山 林継(すぎやま しげつぐ・國學院大學神道文化学部教授 コーディネーター)
 岡田 莊司(おかだ しょうじ・國學院大學神道文化学部教授 司会)
 参加者は外部研究者を含め24名であった。

5 研究会の詳細

5-1 発表概要
「古代中世における地域景観の変化と祭祀」
 祭祀遺跡・遺物のみの分析ではなく、各時代の生活環境・実態とその変化の中で、祭祀の意味・変遷を考えるという視点から、古代の周准郡の範囲である千葉県君津市・富津市の小糸川中・下流域の遺跡に注目し、調査・分析を行った。
 笹生氏は弥生時代後期以降、小糸川の小規模な支流の埋没に関連して集落・墓域・祭祀場などが変化していることを、各時代ごとの遺構密度を算出することによって示した。これを受けて、弥生時代後期〜平安時代後期に至るまで、祭祀の場は、集落・耕地・用水系の立地とその変遷に影響を受けて設定される傾向があるとした。また、郡衙遺跡周辺の環境や春日神社の伝承、周西郡の所領の変遷などから、平安時代後期以降古代的な祖先観や祭祀儀礼が解体し、八幡・春日・神明社などの権門寺院と結びついた新たな神格が導入され祭祀形態が再編成されたとして、古代的祭祀制から中世的祭祀制への変化があったことを明らかにした。

「最近の安房地方における祭祀遺跡の発掘成果」
 これまで安房地方では河川上流部や丘陵部内に立地する土製模造品を中心とした祭祀遺跡が知られているが、最近の発掘調査により、平野部や海浜部で祭祀遺跡が発見されるようになり、安房地方全体の祭祀遺跡の状況が判明しつつあるということが報告された。
 ここでは小滝涼源寺遺跡・長須賀条里遺跡・東田遺跡・沢辺遺跡・青木松山遺跡・こうもり穴洞穴の6遺跡の状況が報告された。そして今後の課題として、安房国に存在する多数の式内社と祭祀遺跡がどのように関係・リンクするのか、また式内社の祭祀が3世紀以来の祭祀の伝統を受け継いだものなのか、それとも6・7世紀に新しい祭祀として成立したのかどうかを見極めるべきという点を提起された。
研究会の様子

5-2 研究発表に対するコメント
 以上の報告に対して、まずコーディネーターより、遺跡・遺物に基づいて確認される神社周辺の地域構造から、神社の実態を見いだすという手法は、今後方法論として確立していくことができるという評価があった。ただし、細部にわたり研究する必要があり、特に房総半島のような地形・環境の変化が大きい所では、それらの要素を十分考慮する必要性があるという指摘も同時になされた。
椙山教授

 また、財団法人群馬県埋文調査事業団の高島英之氏は、特定の地域に関して弥生時代〜中世の祭祀に注目し、集落の変遷と対応させながら概論的に説明がなされたのは画期的であり、今後様々な地域の研究成果を持ち寄ることによって発展させていくことができるのではないかというコメントがあった。
 つづいて司会からは、畿内系祭祀の伝播の時期とその特徴についての説明が求められた。これに対して笹生氏は、海上交通の経路に従って畿内の祭祀が伝播した点と、仏教遺物の出土状況などから集落単位で祭祀が行われ、神仏が比較的近い関係にあった集落が存在するという特徴を示した。
 また、国士舘大学の藤森馨氏は、墓域の祭祀と祖先祭祀の関係、さらに、水辺の祭祀と神社の祭祀の関連性についての質問を行った。この指摘に笹生氏は、生活環境の変化にもかかわらず、特定の場所で比較的長期にわたり祭祀場が設定されているという考古事例を挙げ、原則場所が移動しない神社と共通する祭祀的意義が存在していた可能性を示唆した。
藤森氏と笹生氏

5-3 本研究会の成果と今後の課題
 笹生氏が発表したような、生活環境・実態の変化と神社・祭祀における立地の問題を対応させる試みは、これまでの神社研究には見られない視座である。今回の笹生氏の報告を一つの形式として、今後方法論的に確立できるかどうか、本事業推進に当たって検討すべき課題であろう。
 さらに、藤森氏が質問した問題のような、文献資料に基づく研究上で重要な論点に考古学の成果を結びつけるためには、細部にわたる研究が必要である点はコーディネーターの指摘した通りである。具体的には、司会が質疑中で提示した方法、すなわち、様々な地域を調査し、古代における神社の周辺環境と神社の創立・展開を十分に把握した後、それらをデータとして蓄積する作業が求められよう。

文責:加瀬 直弥(COE研究員)・根本 祐樹(大学院文学研究科博士課程前期)
 
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