第5回「古代・中世の神道・神社研究会」(『古代の神社=青木遺跡研究集会』)


1 開催目的

「8世紀後半・9世紀初頭における地方神社の存立形態をさぐる」
― 島根県青木遺跡の発掘から見えてくること ―
 古代の地域における神社の存立形態は、文献史料が限られており、明らかにすることが困難であった。今回発見された島根県青木遺跡の豊富な遺物資料は、ここに奈良後期から平安初期の間、社殿を伴う神社があったことを確実に推測させるものである。発掘された考古資料と文献史料を通して、具体的な古代神社の地域社会における存立形態を探り、あわせて、出雲地方や房総地方の祭祀関連遺跡との比較も試みる。
 青木遺跡は神社神殿のほか、関連施設、および祭祀関連と考えられる井戸遺構など、神社形態の枠組みを再考できる内容をもっている。そして、祝の活動や出雲郡伊努郷・美談郷の地域住民の信仰形態まで考察できる貴重な遺跡である。本プログラムにおける古代神社論の研究は、文献史料が豊富になる奈良後期から平安初期を主たる対象としているが、このなかで青木遺跡を基本に押さえておく必要がある。
 今回の研究集会では青木遺跡を、とくに古代神社論のなかで把握する基礎作業をしておきたい。(岡田 莊司)

2 開催日時

 平成16(2004)年5月29日(土) 13:00〜18:00

3 開催場所

 國學院大學院友会館・3階大会議室

4 発題者・批評者・司会(敬称略)

 発題者
 松尾 充晶(島根県教育庁埋蔵文化財調査センター)
  「出雲・青木遺跡の祭祀について」
 錦田 剛志(島根県立博物館)
  「出雲地方における祭祀空間 〜奈良・平安時代を中心に〜」
 笹生 衛(千葉県立安房博物館)
  「房総地方における祭祀空間 〜奈良・平安時代を中心に〜」
 早川 万年(岐阜大学)
  「出土文字資料・関連文献史料からの考察」

 批評者
 小倉 慈司(宮内庁書陵部)
 川原 秀夫(明和学園短期大学)
 牟禮 仁(皇學館大学)
 藤森 馨(国士舘大学・事業推進協力者)
 杉山 林継(事業推進担当者・本学教授)

 司会
 岡田 莊司(事業推進担当者・本学教授)

5 会の詳細

5-1 発表の概要

 出雲・青木遺跡の祭祀について(松尾氏)
 島根県出雲市東林木町の青木遺跡で行われた調査では、8〜10世紀前後の土層から、
 ・神社と推定される柱材が残る9本柱の建物跡
 ・丁寧な作りの石敷遺構を持つ井戸
 ・「売田券」と記され、「佐位宮」の税が納められないため1段(約10a)の田を進上したと解釈できる木簡
 ・出雲郡伊努郷を推定させる「伊」や、式内社美談神社の存在が想起される「美社」などと記された膨大な数の墨書土器
 ・正笏した20cm足らずの男子立像
  など、数多くの注目すべき遺物が出土した。このことは平成15(2003)年10月にすでに報道発表されており、様々な検討もなされているが、今回松尾氏は、発掘調査を実施した立場から、遺構及び遺物出土状況の整理を行い、立地状況・交通路との関わりも含めた網羅的な報告をした。青木遺跡の特徴として、遺構は通常の倉庫や集落に伴うものとは考えにくい点、神社推定遺構が機能したのは8世紀後半から9世紀初頭までであり、長くみても50年という短期間と考えられる点を指摘し、出土遺物は圧倒的に饗膳具が多く、ある程度の集団による饗食が認められる点を示唆した。
松尾充晶氏

 出雲地方における祭祀空間 〜奈良・平安時代を中心に〜(錦田氏)
 神祇祭祀の空間を考える資料として、文献史料、考古資料の両者から推察される当時の様相を論じた。文献史料においては『出雲国風土記』の記述から、場所・施設を分類・抽出し、その諸相を整理した上で、問題の所在を明確にした。併せて、考古資料からの考察においては、青木遺跡に近い時期の祭祀関連遺跡の事例を概括し、考察を加えた。
錦田剛志氏

 房総地方における祭祀空間 〜奈良・平安時代を中心に〜(笹生氏)
 地域内での集落と祭祀の場所の位置関係、集落と祭祀空間、祭祀遺跡と神社という3点を中心に、房総における祭祀空間について報告した。青木遺跡の神社推定遺構が機能していた8世紀後半から9世紀代は、東国においても、集落・地域の中で祭祀が大きく変化していく時期であることを示唆した。また、祭祀遺跡だけ見るのではなく、周辺の状況、集落との位置関係、動態、土地利用との関わりを見ていく必要があると指摘した。
笹生衛氏

 出土文字資料・関連文献史料からの考察(早川氏)
 出土文字資料、特に売田券木簡の解釈を行った。売田券木簡に記された「宮税」という文言を「神田の税」として、神田が地域社会に還元されることを前提に、売田券という形で田の囲い込みを図ったものであるとの見解を提示した。このような動きは8世紀後半から9世紀代の寺院勢力の拡張がある一方で、神社も地域有力層の支持の下に、経済基盤を確保する動きがあったのではないかと指摘した。
早川万年氏

5-2 研究会で得られた成果と課題

 今回のシンポジウムには、研究者・学生・一般を併せ、約60名の参加があった。各者発表後の総合討議は、岡田氏の司会により、3時間という長時間に渡って非常に多くの論点が明らかになった。議論は多岐に及んだため、主要な論点のみを要約し掲載する。
 なお、文中に登場する、「I区」とは、石組遺構を伴う井戸などが確認された地区、「IV区」とは、9本柱の建造物遺構や売田券木簡が出土した地区である。

神社資料データベース」の基礎が完成した現在、さらにそれを充実させ、よりよい検討の材料とすべきではないかと考える。
 そうすることが、本事業で求められている、効果的な研究発信の推進につながるように受け止められた。
青木遺跡研究集会会場の様子

文責(1以外):加瀬 直弥(21世紀研究教育計画嘱託研究員)・横山 直正(大学院文学研究科博士課程前期)







日時:  2004/6/26
セクション: グループ2「神道・日本文化の形成と発展の研究」
この記事のURLは: http://21coe.kokugakuin.ac.jp/modules/wfsection/article.php?articleid=128