日光東照宮文庫調査
| 1. 調査テーマ 日光東照宮文庫における徳川将軍家日光社参及び儀礼関係史料調査
2. 調査日 平成18年7月24日(月)〜26日(水)
3. 調査先 栃木県日光市 日光東照宮文庫
4. 調査参加者 根岸 茂夫(事業推進担当者) 種村 威史(國學院大學大学院文学研究科史学専攻博士課程後期) 笠井 希予志(國學院大學大学院文学研究科史学専攻博士課程前期) 谷川 愛(東京大学総合研究博物館リサーチフェロー)
5. 調査の内容と成果 今回も前回の調査(平成17年8月23日(火)〜25日(木))に引き続き、東照宮文庫が所蔵する史料を目録化した「特別資料貴重図書目録」を基にして調査した。今回は目録分類のうち「六、祭儀」約20点の書誌をとり、史料の内容・性格を検討した。また、「五、神忌・法会」、境内および施設の絵図、柴田豊久氏寄贈資料の総計約2,170点の撮影を行った。以下に史料の概要を列記する。
1 東照宮文庫(祭儀関係) ・「四月御祭礼式法書」(6類第1号)村上成之 寛政頃 1冊 祭式次第、供奉役人などにつき詳細に記録されている。 ・「日光山御祭礼并雑記」(6類第2号) 1冊 ・「日光奉行手控(御宮御祭礼式法書)」(6類第3号)1冊 ・「日光諸例(御祭礼奉行)」(6類第5号) 1冊 嘉永二年九月朔日〜十月七日の日光御祭礼奉行柳沢弾正少弼殿手留写、天保十五年九月朔日〜十月十七日日光御祭礼奉行小笠原信濃守殿手留写、日光諸例(例書の写)であり、日光祭礼奉行となった寺社奉行の職務の実態が判明する。 ・「日光御祭礼奉行柳沢民部少輔手留写」(6類第6号) 安政三丙辰四月 1冊 ・「奥宮御遷座式書」(6類第7号) 1冊 ・「御修営正遷宮略記」(6類第8号) 享保十六年辛亥年 1冊 ・「外遷宮勤方秘記」(6類第9号) 延享元年甲子年正月 1冊 外遷宮の勤方の次第及び心得書。 ・「御修営正遷宮略記」(6類第10号) 寛延三年 1冊 ・「御遷宮次第」(6類第11号) 宝暦三〜十四年 1冊 ・「新宮本宮遷宮日記」(6類第12号) 安永八年七月十八日〜二十八日 1冊 ・「御遷宮次第」(6類13号) 安永八年十一月七日〜八日 1冊 御宮正遷宮、御宮御供養、御宮奥院正遷宮、御本地堂護摩堂正遷宮のそれぞれの次第書をまとめたもの。導師や将軍名代などの式参加者の動向が理解でき、祭祀や儀礼の実態が見出せる。 ・「御遷宮覚帳」(6類第14号) 寛政 1冊 ・「御遷宮覚帳」(6類第15号) 文化 1冊 ・「御遷宮日記扣帳」(6類第16号) 天保 1冊 ・「御遷宮扣帳」(6類第17号) 嘉永二酉年〜四亥年四月 1冊 ・「御遷宮扣帳」(6類第18号) 文久三年 1冊 ・「御遷宮次第」(6類第19号) 文久三年 1冊 ・「天和三年 日光山両御宝塔供養并安鎮入仏記」(6類第20号) 柴田豊久 2冊 ・「奉幣之次第」(6類第21号) 文化元年甲子春三月吉日 1点 ・「日光御祭礼御用記」(6類第22号) 天保年間 1冊 天保年間の日光祭礼に関わる記録で、祭礼先日までのいわば準備段階の記録。幕閣の動向、共連、装束準備、振舞や諸触が留められている。また登山にあたっての禁忌も記されている。 ・「日光御祭礼御固覚」(6類第23号) 寛延元年九月十七日 1冊 牧野内膳正が日光祭礼奉行を命じられた際の、家臣による留書。 ・「日光御名代松平采女正手記」(6類第24号) 四月朔日〜五月三日 1冊 将軍の名代として参詣した譜代大名の御用留。御用御請から祭礼終了までの儀礼や届書写などが詳細に記されている。 ・「御宮御霊屋拝礼之次第」(6類第25号) 1冊 拝礼の次第が絵図に書き込まれ、東照宮と家光廟における儀礼の実態が判明する。 ・「日光東照宮祭礼之絵」(6類第26号) 明治十年 大室茂吉 1冊 祭礼行列の絵である。
2 大熊博士寄贈史料(「造営古図」) 近世の建築史の基礎を構築し、江戸城や東照宮建築についても多くの業績を残した大熊博士が寄贈した日光東照宮に関わる絵図類。延享元年の造体に関わると判明する資料もある。主な史料に以下のような絵図がある。 ・「日光御宮外迁宮御褥筥台寸法図」 縦26.6cm×横49.8cm 1点 褥筥と台が各2点宛描かれている。それぞれの、形と詳細な寸法が理解できる絵図。 ・「坂下門ヨリ奥社迄」 縦162.5cm×横118.8cm 1点 本殿脇の坂下門より奥院宝塔までを描写した絵図で、各建物の寸法や、階段の段数や幅が朱で、石垣の寸法が墨で記入されている。 ・「奥社参道石段之図」 縦53.8cm×横78.0cm 1点 東照宮より奥院までを描写した絵図。各所の階段の段数が貼紙で付されている。また、階段の段数を記録した「覚」が貼り付けられている。 ・「御殿地小屋場絵図」 縦77.2cm×横79.5cm 1点 裏に貼紙で「延享元甲子年 御宮・御霊屋・御坊御修復、此絵図之外ニ段々建足之申候」とあり、延享元年における迁宮の際の小屋場絵図である。修復に関わった職人、例えば絵師、飾師、建具師などの小屋と寸法がわかる絵図で、修復にどのような職人が関わっているかも理解できる。 ・「御仮殿御幕張図」 縦54.0cm×横64.4cm 1点 延享元年甲子年の迁宮の際の東照宮仮殿の様子が記録された絵図。朱引で幕を、浅黄色で土台、黄色で借物を表現している。
今回調査した史料は、日光東照宮における例祭や遷宮の儀式次第などで、祭礼に参加した日光奉行による詳細な記録類であった。また、大熊博士寄贈の絵図により、儀式を視覚的に理解できる。今回の調査は、前回までの将軍の日光社参史料を中心とした政治史関係史料の調査から、日光における祭祀・祭礼や宗教的な儀礼、社殿の構造や配置などに関する史料に対象を広げ、日光における儀礼の実態を検討しうる史料を確認することができた。紹介した史料以外にも、東照宮文庫に長く奉仕されていた故柴田豊久氏が収集し献納した日光奉行所に関する史料など様々な史料も確認した。今後調査した史料を詳細に分析することにより、日光における政治と儀礼の問題をより明らかにすることができよう。 なお、調査にあたり、東照宮宮司稲葉久雄氏・権宮司代理文庫長青山隆生氏に多大な御配慮と御教示を賜った。ここに深謝する次第である。 (文責 谷川愛)
日時: 2006/12/1 セクション: グループ2「神道・日本文化の形成と発展の研究」 この記事のURLは: http://21coe.kokugakuin.ac.jp/modules/wfsection/article.php?articleid=238
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