京都府立総合資料館等出張調査
| 京都府立総合資料館等出張調査
○ 近代京都における神社制度関係史料の調査と蒐集
1 調査目的 神道に関する実証的研究と文献学研究の中軸である神社制度研究のうち、神道と日本文化に関わりの深い「場」としての神社における「継続」と「断絶」の検討を行うにあたり、近代の神社制度整備の地方的展開についての研究を、当時の重要地方政庁である京都府の官国幣社を中心として進めていくため、平成14年度に、平成15年(2003)2月28日〜3月3日の日程で京都府立総合資料館にて、同館所蔵『行政文書』中の明治(1868〜1912)初年における官国幣社関係史料の「予備調査」を実施した(出張者は藤田大誠・COE研究員及び星野光樹・文学研究科神道学専攻博士課程後期の2名)。 それを受けて15年度は、これまで4度に亘り、社領・経済関係、社内組織(社家)、神仏分離、祭神や由緒、御神宝などの点に注目し、特に神職の入れ替わりについては、その担い手ともなっていた国学者の関わりをも考慮に入れつつ、近代の神社関係史料の網羅的な閲覧とともに、官国幣社を中心とする主要史料の調査検討及びその複写蒐集作業を実施したので、ここに合わせて報告する。
2 調査日 (1)平成15年7月17日(木)〜19日(土) (2)平成15年8月8日(金)〜10日(日) (3)平成15年10月24日(金)〜27日(日) (4)平成15年12月12日(金)〜14日(日)
3 調査先 京都府立総合資料館(京都府京都市左京区下鴨半木町1−4) 京都市歴史資料館(京都府京都市上京区寺町通荒神口下る松蔭町138-1)
4 調査実施者 藤田大誠(COE研究員)
5 調査の概要 4回の調査では基本的に京都府立総合資料館所蔵の『行政文書』の調査検討及びその複写蒐集作業に終始した。7月17日のみ京都市歴史資料館に立ち寄ったが、ここでは京都府内の神社関係史料のうち、近代部分の数量などを目録により確認するに留めた。 調査検討の上、主要な史料は電子複写とマイクロ複写で蒐集したが、マイクロ複写については、(1)及び(4)の日程の際に、2度に亘り集中的に複写申請した((2)の日程では丁度(1)で作業申請した複写紙焼きが完成していたため、その枚数や複写具合の確認の作業も行った)。 蒐集した史料は、まず電子複写では、『行政文書』の各神社制度関係史料の細目を掲げた『行政文書件名簿』を部分的に複写。また、明治7年11月10日に太政官正院歴史課から各府県に対し出された太政官達147号により、京都府が編輯して提出した国立公文書館内閣文庫所蔵『京都府史料』の稿本である『京都府史』(第1編〜3編・明治元年〜15年)のうち、主に京都府の神社・祭典関係などの記録を書き留めている「政治部祭典類」を全複写し、またその他、社寺領上知などに関わる社領・神社経済関係の記録が載る箇所を「制度部禄制類・出納類」などから見出し部分的に複写した。さらに湯本文彦が書いた『京都府管内沿革并領主略考』は明治3年5月に京都府内の全社寺地が京都府の管轄となったことに伴い、引継ぎを受けた社寺領の石高等も記されているため、これも複写した。 一方のマイクロ複写では、『神社改正録』、『官幣十二社官祭私祭取調書』、『官幣十二社教部省ヨリ御達請書留』『祭典記』、『神社御改正神官名前帳』など、主に明治4年の神社改正に伴って作成された史料を、祭祀や神職制度の変遷などをうかがうことのできるものを中心に14点を全複写した。まだまだ当館には大部の史料が所蔵されており、重要な史料でも余りに大部なために複写を見送ったものも多く、また特に『官国幣社明細帳』関係や社寺領上知関係史料などの蒐集が不充分と思われるが、とりあえずこれで、『社寺取調類纂』『公文録』など中央の史料の関係部分と照らし合わせることにより、明治初年の京都府における神社行政・神社制度の大まかな理解は可能になると思われる。今後、当該テーマの共同研究を更に本格的に進める上で不可欠な基礎的史料の蒐集・整備作業は、勿論まだまだ不充分ではあるが、とりあえず一区切りついたといえよう。 以下、複写史料の概略は次の通り。
電子複写 (1)『京都府史』第1編政治部「祭典類」 明治元年〜7年 1冊 (2)『京都府史』第1編政治部「祭典類提要 附社寺沿革類提要」 明治元年〜7年 1冊 (3)『京都府史』第1編政治部「祭典類附録 社寺沿革類」(区別・格例・創建・収地・雑類) 明治元年〜7年 1冊 (4)『京都府史』第2編政治部「祭典類」 明治8年〜11年 1冊 (5)『京都府史』第2編政治部「祭典類附録 社寺沿革類」第1〜8 明治8年〜11年 8冊 (6)『京都府史』第3編政治部「祭典類」(祭典・陵墓・社寺雑) 明治12年〜15年 1冊 (7)『京都府史』第1編政治部「民俗類」完 明治元年〜7年 1冊 (8)『京都府史』第1編第2編補遺 1冊 (9)『京都府管内沿革并領主略考(附・「京職沿革略考」)』 1冊 *その他(部分複写)=『京都府史』第1編〜第2編、制度部「禄制類」(社寺)・「出納類」(社寺費事件)・「禁令類」(紋章制度)、第一編別部「総類」(儀式)
マイクロ複写 (1)「神社改正録」明治5年1月改 貫属課 1冊 社人爵位返上願。官祭。官幣大社列(賀茂御祖神社・賀茂別雷神社・松尾神社・男山八幡宮・稲荷神社・平野神社)、中社列(北野神社・梅宮神社・八坂神社・貴船神社・大原野神社・吉田神社)。 (2)「神社御改正一件」明治5〜8年 貫属課 4冊 明治6年3月、官幣社元神官の編籍に付き、府の伺、大蔵省の指令の綴込。ただし貴船社を除く。明治6年、加茂社・北野社・男山八幡・愛宕社社人の別朱印地の扱い、市中郷村社社人の士族編入など身分扱いに付、大蔵省指令、京都府伺、社人願書、朱印願書、朱印地関係古文書の綴込。鴨社・北野社・府下郷社・村々の社、社人の編籍に付、大蔵省指令、府の伺の綴込。目次。山城国郡中郷村社の祠掌の任免、仰付、辞退、人選等の願書、伺書、口上書の書類綴。賀茂御祖神社・賀茂別雷神社・松尾神社・貴船神社・男山八幡宮・稲荷神社・梅宮神社・大原野神社・吉田神社・北野神社・八坂神社。神祇省より御届書、社人側より京都府庁宛に御届口上書、神官位階、元御朱黒印之写、社領、現収納高。官幣諸社御改正。賀茂御祖神社・賀茂別雷神社・松尾神社・貴船神社・男山八幡宮・稲荷神社・梅宮神社・大原野神社・吉田神社・北野神社・平野神社・八坂神社。社人「神勤被免」「地方編籍」。 (3)「神社」明治4年5月〜7年12月 戸籍掛 1冊 太政官・神祇官(神祇省)等が京都府や官幣社に宛てた達の写し等。 (4)「官幣十二社官祭私祭取調書」明治5年2月 社寺課 1冊 明治5年、鴨社(下鴨神社)・松尾神社・貴船社・男山社・平野神社・大原野神社・八坂神社・賀茂御祖神社・北野神社・白峯宮・籠神社の各官幣社が官祭私祭取調書(年中神事祭典の目録=「官祭」「私祭」の明記、祭典式の次第)を京都府へ提出した文書類。 (5)「官幣十二社教部省ヨリ御達請書留」明治5年6月〜6年7月 貫属課 1冊 各官幣社と京都府、教部省の間のやり取りに関する文書の編綴。積立金有無。神領及び旧新神官等、朱黒印。六月大祓式執行費用。官幣諸社官祭式次第。官国幣社并府県社制札之事。車馬の境内乗り入れ禁止。大宮司・宮司宣下。教導職。改暦。境内絵画絵図面。 (6)「宗廟官国幣社事件御達往復留」明治6年 1冊 官国幣社並びに山陵の営繕費などに関する京都府土木課と大蔵省、教部省、式部寮などとのやり取り等の文書の編綴。 (7)「御陵官国幣社事件御達並往復留」明治11年 1冊 官国幣社や陵墓の営繕費などに関わる京都府と内務省社寺局のやり取りなど。 (8)「岩清水社社士社務等之惑乱一件」明治3年 1冊 慶応4年の一連の「神仏判然令」にともない石清水社において勃発した、復飾した社務家、田中有年と南武胤・善法寺纓清の間の争訟に関して、双方から京都府に出された係争調停方口上書、係争問題申入書など14件の原文もしくは写しの文書が編綴されたもの等。 (9)「祭典記 六」 明治5年1月〜8月まで 貫属課 2冊 官幣社、山陵における祭典に関わった、京都府や官幣社と宮内省、式部寮、太政官、神祇省などとの間のやり取りを綴った文書群。 (10)「祭典記」 明治5年8・9月 社寺課 2冊 北野祭、男山祭、豊岡祭、白峯祭に関わる京都府や官幣社と教部省、出張式部寮などとのやり取りの文書を編綴。 (11)「孝明天皇御祭典記」 明治5年 1冊 泉涌寺における明治5年12月25日の孝明天皇御例祭、後月輪東山陵御祭典に関する往復文書綴。 (12)「祭典記」 明治5年10月〜6年12月 京都府 2冊 各種祭典に関わる京都府、官幣社と教部省・式部寮などとのやり取りを編綴。 (13)「神社御改正各社ヨリ為差出候神官名前帳」 明治5年 1冊 各官幣社より京都府に提出された旧神官の名前帳。鴨社、別雷社、貴布禰社、稲荷神社、八坂神社、吉田神社、大原野神社、梅宮神社、平野神社、松尾神社、北野社。 (14)「明治六年四月下旬 各社神官身分処置士族平民並新神官申付之請書留」 明治6年 3冊 官幣社はじめ各神社における旧神官の身分処置、新神官申付の請書留などを編綴した文書群。
6 今後の課題と反省 これまで、一通りの基礎的史料は蒐集したものの、具体的な検討作業については、その緒に着いたばかりといわざるを得ない。現在はまだ近代神社制度に関する先行研究論文の把握や京都府の行政・文書管理の基礎的な理解を図り、蒐集史料の大まかな史料的性格を把握するにとどまっているような段階で、課題・反省点は多い。特に大部な蒐集史料を詳細に検討し、中央レベルの史料などとリンクさせて全体像をつかみ取る作業を本格的におこなえなかったことは残念である。 ただこのことは、これまでの近代京都における神社制度・神社行政に関して焦点を当てた研究業績が、管見では『京都府百年の資料』6宗教編や『京都府百年の年表』6宗教編、『史料京都の歴史』5社会・文化などの資料集、または『京都の歴史』7概説書における宗教関係の部分や、『京都府立総合資料館紀要』15及び25に関係論考(中谷弸「明治初期社寺政策と事情―京都府庁文書に見る―」・竹林忠男「京都府における地租改正ならびに地籍編纂作業(下)」の第3章「社寺上地と境内外区別」)があるほか、高木博志『近代天皇制の文化史的研究』(校倉書房)第7章「維新変革と賀茂祭・石清水放生会」や中嶋節子「近代京都における神社境内の環境整備―「神苑」の創出―」(『賀茂文化研究』第5号)など数人の論文を数えるにすぎないという研究状況も関係していよう。また史料読解の基礎となる京都府の行政機構や文書管理、令達公布制度などの歴史的変遷などについては、『京都府立総合資料館紀要』に詳細な論文や資料をいくらか見出せたものの、京都府立総合資料館所蔵『行政文書』における近代神社制度関係史料は相当大部に亘り、その全貌を明らかにすることは簡単ではない。ただ、京都府の神社・宗教行政に関しては、先の『京都府百年の年表』とともに、このたび複写蒐集した同館所蔵の『京都府史』政治部祭典類の記載により、明治元年から15年までの大まかな動きを時系列的に把握することができる。また、蒐集史料の中では、明治5年の『官幣十二社官祭私祭取調書』により当時の神社側の祭祀に関する認識が知られるようになり、その他神社改正にともなう史料の『神社改正録』や『神社御改正一件』『神社御改正神官名前帳』、『各社神官身分処置士族平民並新神官申付之請書留』などからは、新旧の神官の実態やその数などの分析が若干なりとも可能になり、今後の研究進展が期待される。 そして、当時の官国幣社の宮司、神官になった国学者たちや中央政府から派遣された国学者たち(門脇重綾・岡本経春・黒神直臣・大畑弘国・師岡正胤・矢野直道・中山繁樹・近藤芳介・植田有年・三輪田高房・岩崎長世・岡部譲・半井真澄など)等の名もいくらかは各史料に見えるので、明治期の国学者研究の観点からも興味深いものがあろう。 来年度以降は、この課題に従事する研究者で構成される研究会、各人による史料読解などを計画的におこないつつ、情報発信・研究教育の面も考慮しながら共同研究を進め、京都府の事例を通し、近代神社制度の見取り図を作成するためのより本格的な研究段階に入っていくことが必要となるであろう。 (文責:藤田大誠 COE研究員)
日時: 2004/1/18 セクション: グループ2「神道・日本文化の形成と発展の研究」 この記事のURLは: http://21coe.kokugakuin.ac.jp/modules/wfsection/article.php?articleid=97
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