第6段 『2001/02/25(土)掲載』   「カリフォルニア便りー電力危機!編ー」2001年2月:バークレー発  【戻る】

 昨年末から騒がれていた電力危機が本格化し、ついに大規模な計画停電(Black Out)、ステージ3の緊急事態の毎日にやっと慣れてきた今日この頃です。それ以上 に深刻なのは、電気代とガス代です(規制緩和、市場連動効果!?)。日々寒さを我 慢して節約に努めても、請求書を見てがっかり、古くてエネルギー効率が悪い高家賃 の借家の転居を検討しているところです。
 計画停電とはいっても、予告なしの抜き撃ちですから、信じられない話です。予告 すると、セキュリティーの切れた建物に泥棒が入る危険があるといったような理由な のですから、あきれてしまいます。

 さて、1月から始まったバークレー校の春学期では、「エネルギー経済」と「アグ ロエコロジー」・「アグロフォレストリー」の授業とゼミに参加しています。
 とくに電力危機は、昨年の大統領選挙と同様、まさしく米国での生きた体験的勉強 の機会だと感じています。規制緩和(デレギュレーション)の先頭を切っていたカリ フォルニア州が体現した大きな社会実験であり、さまざまな角度から分析できる興味 深いテーマです。幸運なことに、環境NGOに積極的に関わり国際環境経済学会
(Ecological Economics) の会長も務めたことのあるノルガード ( Richard Norgaard ) 先生のゼミに参加させてもらうことができました。(当大学でも、主流 派は新古典派のビジネススクールの教授陣で規制緩和論者が多いのですが、反主流派 の筆頭の方です)
 米国のエネルギー政策の歴史やさまざまな勢力の動向、新エネルギーから原発まで さまざまな社会実験の状況・評価について多角的に学べるよい機会になりそうです。 ただし、電力市場の仕組み、エネルギーや電力のインフラ(基盤)の知識、州の関連 法の成立の解読・背景分析、他州や諸外国との比較まで幅広くテーマとしますので、 どこまでついていけるか不安なところです。

<参考>
*ノルガード先生の紹介: http://socrates.berkeley.edu/~erg/Pages/norgaard.html
*アグロエコロジーのサイト: http://www.cnr.berkeley.edu/~agroeco3/


<電力危機の真相は?>
 すでに報道されているように、電力危機は電力の市場形成と自由競争により価格低 下をねらった規制緩和政策が、途上段階で裏目に出たものとされています。カリフォ ルニア経済の好況と電力需要の増大(需給の逼迫)、環境規制や目先の利益優先によ り州内の発電設備投資の後退、送電設備の弱体化、いろいろと理由づけられていま す。
 米国で起きている事態は、当初かかげられた市民のための「デレギュレーション」 (規制緩和)ではなく、実際上は企業のための「アンレギュレーション」でしかな かったのが実体と言ってよいでしょう。実感から言えば、時間毎に電力価格を入札す るネット市場の開設、需給バランスの究極の姿を電力市場でも達成しようとした夢の 実現が、まさしく裏をかかれて投機と儲けのカジノと化した、との悪評をぶつけたい ところです。
 2大電力(配電)会社
(PG&E、S.C.E.) は、卸価格が暴騰する一方で移行期間制約 で消費者価格への転嫁が押さえられていた結果、デフォルト(事実上の倒産)に追い 込まれ、州政府が介入して綱渡り状態が続いています。その一方で、発電会社やエネ ルギー供給会社、その背後にいるエネルギー関連巨大資本は、巨額の利益を計上する といった状況です。
 現ブッシュ政権に巨額献金を続けてきたエンロン
(Enron:本社、テキサス州) は、その筆頭にあげられます(中南米やインドなどでも発電事業に取り組み、地元住 民から告発されている有名な多国籍資本)。この件に関しては、スキャンダル的な暴 露情報はまだまだありますが、冷静に多角的に分析していくことが重要ですので、今 回はこの辺にとどめます。詳しいレポートと分析は、後日の宿題とさせていたいただ きます。

<参考> 日本での記事情報は、あまり参考になるものはありませんが、幾分は多角 的に分析されているものに、「カリフォルニア電力危機を考える」(田中 宇、1/ 29)がネット上で見られますので、アドレスを載せておきます。
 米国での情報は山のように積み上がっていますが、緑の党から大統領選に対抗馬で 出たラルフ・ネーダーの活動グループの一つ「パブリック・シチズン」の批判レポー トを紹介しておきましょう(英語)。

*(田中宇の国際ニュース解説): http://tanakanews.com/
*(パブリック・シチズン): http://www.citizen.org/cmep/restructuring/utilityderegulation1.html

(*一言付言すれば、日本との安易な対比は禁物でしょう。学ぶべき点は多々あるに しても、米国の1930年代にちかい統制・独占体制にある日本の状況については別 の視点からの検討が必要です。)



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