羽前大山駅で汽車に乗り、ひとりガラ空きの座席に掛けていると、汽笛の音がしてあたりの風景が動きはじめた。風景といっても、見る限り庄内平野の田園で、汽車はまたやがておなじような小駅に止まるのである。
「らしさの真相」(『森敦全集』第七巻、79頁)