これもただの噂で立ち消えになりました。いや、立ち消えになったと思うころ噂はほんとうになって来たのです。ただし、じさまの思惑とは違い、惨憺たる敗北に終わったのです。しかし、じさまは終戦と知って大勝利と思い込み、歓喜のあまり万歳を叫び、光明真言を称えたのです。ばさまも強いられて称えさせられていましたが、ふとサキの赤いモンペが汚れているのに気がつきました。じさまはばさまが称えごとをやめたのを咎めようとして、サキが女になったと教えられ、いよいよ歓喜を圧えることが出来なくなったのです。そうか、日の丸か。これでばさまも分かったろう、おらァ言ったでねえか。だだが征くこったば、ながくて一年、ひょっとすると一年もせずに戻るか知んねえ、とな。
しかも、いつも分からぬというほんとのことが分かって来ると、北洋に征ったわかぜも必ずしも全滅したのではない。なかには生き残ってシベリアに回されたわかぜもいると言うのです。それをじさまは遠いむかしを甦えらせて、シベリア出兵のようなものだと思い込んでしまったのです。そげだ気がしたて、これだばまた一年。いや、こんどこそは一年とかかるめえ。
むろん、じさまにもこれが見当違いであったことが、次第に分かって来ましたが、我を張って見当違いだったとはなんとしても言わないのです。これがじさまを道化者にし、道化た以上道化つづけねばならぬその道化が、おかしなことにサキの家をどんなに明かるくしたでしょう。だだが征ったのはつい昨日のように思えるのに、サキも学校を終えました。じさまはサキを眺めて、すっかり女になった。だだが戻れば見違えて、これがサキだかとおぼける(驚く)で、などと言うのです。じさまは焼酎の晩酌でみなを喜ばせようとしているだけで、そういうじさま自身がサキがそんなに変わったとは思っていないのです。そろそろご機嫌で、ががが止めようとするのでサキに、もう一杯とつがせようとすると、サキが大声を上げました。
①《993字空き》この噂もやがてほんとうになって来ました。むろん、じさまが思ったように勝ったのではない。みなは惨憺たる姿で帰って来たのですが、惨憺たる姿とはいえ、遺骨になって送られて来た者まで帰って来たのです。じさまはそれと聞いて、踊り上がらんばかりに喜びました。いや、ばさまもががもサキさえも、いまさらのようにじさまの言葉に大きな期待を寄せたのです。
「ンださけ、おらァ言うたでねえか。遺骨だてらなんだてら言われて、うっかり墓さ収めて、だだが帰って来るこったば、どうすったやとな。おらの言うたことに、ひとつでも間違えがあったか。ひとりでも生き残れば、必ずだだが帰って来る」
じさまが有頂天になろうとするそのとき、サキが大声を上げました。
③《993字空き》この噂もやがてほんとうになって来ました。むろん、じさまが思ったように勝ったのではない。みなは惨憺たる姿で帰って来たのですが、惨憺たる姿とはいえ、遺骨になって送られて来た者まで帰って来たのです。じさまはそれと聞いて、踊り上がらんばかりに喜びました。いや、ばさまもががもサキさえも、いまさらのようにじさまの言葉に大きな期待を寄せたのです。
「ンださけ、おらァ言うたでねえか。遺骨だてらなんだてら言われて、うっかり墓さ収めて、だだが帰ってくるこったば、どうすったやとな。おらの言うたことに、ひとつでも間違えがあったか。ひとりでも生き残れば、必ずだだが帰って来る」
じさまが有頂天になろうとするそのとき、サキが大声を上げました。
④《993字空き》この噂もやがてほんとうになって来ました。むろん、じさまが思ったように勝ったのではない。みなは惨憺たる姿で帰って来たのですが、惨憺たる姿とはいえ、遺骨になって送られて来た者まで帰って来たのです。じさまはそれと聞いて、踊り上がらんばかりに喜びました。いや、ばさまもががもサキさえも、いまさらのようにじさまの言葉に大きな期待を寄せたのです。
「ンださけ、おらァ言うたでねえか。遺骨だてらなんだてら言われて、うっかり墓さ収めて、だだが帰って来るこったば、どうすったやとな。おらの言うたことに、ひとつでも間違えがあったか。ひとりでも生き残れば、必ずだだが帰って来る」
じさまが有頂天になろうとするそのとき、サキが大声を上げました。
⑤これもただの噂で立ち消えになりました。いや、立ち消えになったと思うころ噂はほんとうになっ〔たのです〕〔て来〔た〕ました〕 て来たのです。ただし、じさまの思惑とは違い、惨憺たる敗北に終わったのです〔が、〕。 しかし、じさまは終戦と知って大勝利と思い込み、歓喜のあまり万〔才〕歳を叫び、〔□〕光明真言を称えたのです。ばさまも強いられて称えさせられていましたが、ふとサキの〔モンペ〕赤いモンペが汚れているのに気がつきました。じさま〔は〕〔が〕はばさまが称えことをやめたのを咎めようとして、サキが女になったと教えられ、〔□〕〔更に〕いよいよ歓喜を圧えることが出来なくなったのです。そうか、日の丸か。これでばさまも分かったろう。おらァ言ったでねえか。だだが征くこったば、ながくて一年、ひょっとすると一年もせずに戻るか知んねえ、とな。
しかも、いつ〔か〕も分からぬというほんとのことが分かって来ると、北洋に征った〔もの□〕わかぜも必ずしも全滅したのではない。なかには生き残ってシベリアに回されたわかぜもいると言うのです。〔しかし、〕それをじさまは遠いむかし〔□〕を甦〔□〕えらせて、シベリア出兵のようなものだと思い込んでしまったのです。そげだ〔こっだとて〕気がしたて〔。〕、これだばまた一年。いや、こんどこそは一年とかかえるめ〔□〕え。
〔しかし、じさまの〕
むろん、じさまにも〔□〕これが見当違いであ〔る〕ったことが、次第に分かって来ましたが、〔見当違いだったとはなんとしても言〕我を張って〔これが〕見当違いだったとはなんとしても言わないのです。これがじさま〔に〕を道化者にし、道化た以上道化つづけねばならぬ〔という〕その道化が〔。〕、おかしなことに〔それが〕サキの家をどんなに明かるくしたでしょう。だだが征ったのはつい昨日のように思えるのです〔が〕〔□〕 のに、サキも学校を終えました。じさまはサキを眺めて、すっかり女になった。だだが戻れば見違えて〔□〕、これがサキだかと〔言う〕おぼける(驚く)で、などと言うです〔が〕。じさまは焼酎の晩酎でみなを喜ばせようとしているだけで、そういうじさま自身がサキがそんなに変わったとは思っていないのです。そろそろご機嫌で、ががが止めようとするのでサキ〔がが〕に、もう一杯とつがせようと〔し〕すると、〔たまたま夕〔□〕餉の膳についていた〕サキが〔、〕大声を上げまし〔た□〕た。〔この噂もやがてほんとうになって来ました。むろん、じさまが思ったように勝ったのではない。みなは惨憺たる姿で帰って来たのですが、惨憺たる姿とはいえ、遺骨になって送られて来た者まで帰って来たのです。じさまはそれと聞いて、踊り上がらんばかりに喜びました。いや、ばさまもががもサキさえも、いまさらのようにじさまの言葉に大きな期待を寄せたのです。
「ンださけ、おらァ言うたでねえか。遺骨だてらなんだてら言われて、うっかり墓さ収めて、だだが帰って来るこったば、どうすったやとな。おらの言うたことに、ひとつでも間違えがあったか。ひとりでも生き残れば、必ずだだが帰って来る」〕
〔じさまが有頂天になろうとするそのとき、サキが大声を上げました。〕
⑥これもただの噂で立ち消えになりました。いや、立ち消えになったと思うころ噂はほんとうになって来たのです。ただし、じさまの思惑とは違い、惨憺たる敗北に終わったのです。しかし、じさまは終戦と知って大勝利と思い込み、歓喜のあまり万歳を叫び、光明真言を称えたのです。ばさまも強いられて称えさせられていましたが、ふとサキの赤いモンペが汚れているのに気がつきました。じさまはばさまが称えことをやめたのを咎めようとして、サキが女になったと教えられ、いよいよ歓喜を圧えることが出来なくなったのです。そうか、日の丸か。これでばさまも分かったろう、おらァ言ったでねえか。だだが征くこったば、ながくて一年、ひょっとすると一年もせずに戻るか知んねえ、とな。
しかも、いつも分からぬというほんとのことが分かって来ると、北洋に征ったわかぜも必ずしも全滅したのではない。なかには生き残ってシベリアに回されたわかぜもいると言うのです。それをじさまは遠いむかしを甦えらせて、シベリア出兵のようなものだと思い込んでしまったのです。そげだ気がしたて、これだばまた一年。いや、こんどこそ一年とかかるめえ。
むろん、じさまにもこれが見当違いであったことが、次第に分かって来ましたが、我を張って見当違いだったとはなんとしても言わないのです。これがじさまを道化者にし、道化た以上道化つづけねばならぬその道化が、おかしなことにサキの家をどんなに明かるくしたでしょう。だだが征ったのはつい昨日のように思えるの〔ですの〕に、サキも学校を終えました。じさまはサキを眺めて、すっかり女になった。だだが戻れば見違えて、これがサキだかとおぼける(驚く)で、などと言うです。じさまは焼酎の晩酌でみなを喜ばせようとしているだけで、そういうじさま自身がサキがそんなに変わったとは思っていないのです。そろそろご機嫌で、ががが止めようとするのでサキに、もう一杯とつがせようとすると、サキが大声を上げました。
⑦これもただの噂で立ち消えになりました。いや、立ち消えになったと思うころ噂はほんとうになって来たのです。ただし、じさまの思惑とは遠い、惨憺たる敗北に終わったのです。しかし、じさまは終戦と知って大勝利と思い込み、歓喜のあまり万歳を叫び、光明真言を称えたのです。ばさまも強いられて称えさせられていましたが、ふとサキの赤いモンペが汚れているのに気がつきました。じさまはばさまが称え〔こ〕ごとをやめたのを咎めようとして、サキが女になったと教えられ、いよいよ歓喜を圧えることが出来なくなったのです。そうか、日の丸か。これでばさまも分かったろう、おらァ言ったでねえか。だだが征くこったば、ながくて一年、ひょっとすると一年もせずに戻るか知んねえ、とな。
しかも、いつも分からぬというほんとのことが分かって来ると、北洋に征ったわかぜも必ずしも全滅したのではない。なかには生き残ってシベリアに回されたわかぜもいると言うのです。それをじさまは遠いむかしを甦えらせて、シベリア出兵のようなものだと思い込んでしまったのです。そげだ気がしたて、これだばまた一年。いや、こんどこそは一年とかかるめえ。
むろん、じさまにもこれが見当違いであったことが、次第に分かって来ましたが、我を張って見当違いだったとはなんとしても言わないのです。これがじさまを道化者にし、道化た以上道化つづけねばならぬその道化が、おかしなことにサキの家をどんなに明かるくしたでしょう。だだが征ったのはつい昨日のように思えるのに、サキも学校を終えました。じさまはサキを眺めて、すっかり女になった。だだが戻れば見違えて、これがサキだかとおぼける(驚く)で、などと言うのです。じさまは焼酎の晩酌でみなを喜ばせようとしているだけで、そういうじさま自身がサキがそんなに変わったとは思っていないのです。そろそろご機嫌で、ががが止めようとするのでサキに、もう一杯とつがせようとすると、サキが大声を上げました。
⑧これもただの噂で立ち消えになりました。いや、立ち消えになったと思うころ噂はほんとうになって来たのです。ただし、じさまの思惑とは違い、惨憺たる敗北に終わったのです。しかし、じさまは終戦と知って大勝利と思い込み、歓喜のあまり万歳を叫び、光明真言を称えたのです。ばさまも強いられて称えさせられていましたが、ふとサキの赤いモンペが汚れているのに気がつきました。じさまはばさまが称えごとをやめたのを咎めようとして、サキが女になったと教えられ、いよいよ歓喜を圧えることが出来なくなったのです。そうか、日の丸か。これでばさまも分かったろう、おらァ言ったでねえか。だだが征くこったば、ながくて一年、ひょっとすると一年もせずに戻るか知んねえ、とな。
しかも、いつも分からぬというほんとのことが分かって来ると、北洋に征ったわかぜも必ずしも全滅したのではない。なかには生き残ってシベリアに回されたわかぜもいると言うのです。それをじさまは遠いむかしを甦えらせて、シベリア出兵のようなものだと思い込んでしまったのです。そげだ気がしたて、これだばまた一年。いや、こんどこそは一年とかかるめえ。
むろん、じさまにもこれが見当違いであったことが、次第に分かって来ましたが、我を張って見当違いだったとはなんとしても言わないのです。これがじさまを道化者にし、道化た以上道化つづけねばならぬその道化が、おかしなことにサキの家をどんなに明かるくしたでしょう。だだが征ったのはつい昨日のように思えるのに、サキも学校を終えました。じさまはサキを眺めて、すっかり女になった。だだが戻れば見違えて、これがサキだかとおぼける(驚く)で、などと言うのです。じさまは焼酎の晩酌でみなを喜ばせようとしているだけで、そういうじさま自身がサキがそんなに変わったとは思っていないのです。そろそろご機嫌で、ががが止めようとするのでサキに、もう一杯とつがせようとすると、サキが大声を上げました。