第34回・平成14(2002)年10月28日(月) 史ちゃん 「ふたつのローマ字表記について」 方言研にて教授から『身近なところから始められる言語学の研究』として紹介された例のうちの一つだった、『ローマ字表記法』についての一考察であります。 まずローマ字についてですが、現在、俗に知られているのはヘボン式と訓令式の2種類だと思います。ヘボン式は、安政年間に布教のために来日したアメリカの宣教師ヘボンによって考え出されました。最初の和英・英和辞典である『和英語林集成』を編纂する際、発音を表すためにヘボン式ローマ字を考え出しました。また訓令式とは『広辞苑』に、『日本式とヘボン式を折衷したローマ字綴。昭和12年に内閣訓令で発表したもの。』とあります。 ヘボン式は外国人が考えただけあり、表音表記的に出来ています。看板の読み仮名などを記すのに適しています。また訓令式は単純な母音と子音の組み合わせで出来ており、キーボードのローマ字打ちはこちらに準拠しているようです。 自分が通学に使っている営団地下鉄でのローマ字表記には、ヘボン式が使われています。しかし自分は、タイピングの際に使用している訓令式に慣れてしまっているので、駅名表示と自分が考えていたローマ字との誤差に戸惑うことが何度かありました。 たとえば、『〜町』という駅名、『〜ちょう』と読むことが殆どですが、それにふられているローマ字は『〜chô』です。しかし訓令式での表記は『tyô』や『tyoo』であって、違いが見られます。訓令式では拗音を表す際には、一括してyを使うことにしてあるのですが、ヘボン式では発音の違いによって、yとhを使い分けているからです。 違いの最たる例が『青山一丁目』や『八丁堀』などの促音と拗音が重なる例です。広辞苑の『ローマ字のつづり方』の訓令式とヘボン式の違いの項に、 『つまる音は、次に来る最初の子音字を重ねてあらわすが、ただし次にchが続く場合にはcを重ねずにtを用いる』 とあります。これによると、青山一丁目は『Aoyama-Itchôme』となり、八丁堀は『Hatchôbori』となります。これらの例を訓令式に改めると、『Ittyôme』『Hattyôbori』となります。 先にあげた『〜chô』と『〜tyô』の違い程度でしたら、特に戸惑うこともありません。ローマ字でのタイプの際にも両方とも受け付けてくれます。しかし、促音と拗音が重なった際の『〜tchô』と『〜ttyô』の違いは、結構重大なことのように感じられたものです。しかも『〜tchô』はローマ字タイプでは受け付けてくれません。 こう考えると、ローマ字の問題というのも、相当に根の深い問題であるように思えます。 ところで、これを書くために、地下鉄の駅の事務所で英字版の路線図をもらってきました。営団全線のローマ字表記を手っ取り早く知るのには、これが最適です。これには、営団全線の路線図と、都内50箇所の名所への最寄り駅が書いてあります しかしこの路線図、ローマ字表記の不条理さを改めて浮き彫りにしているようです。 例えば国会議事堂。英語ではThe Diet Buildingですが、国会議事堂前駅の表示はKokkai-Gijidô-Maeです。そして国立競技場。英語ではNational Stadiumですが、国立競技場駅はKokuritsu-Kyôgijôです。 日本人がアメリカへ行けば、セントラルパーク、タイムズスクエア、ホワイトハウス・・・と、施設を英語で呼びます。逆もまた然りと考えれば、東京の駅名にも芝公園があろうが泉岳寺があろうが構わないのでしょうが、国会議事堂の意味を、観光目的の外国人が理解できるかどうかは、相当な疑問です。国会議事堂をダイエットビルディングと呼べる日本人が限られているように。 どうやら日本のローマ字は、外国人の為というよりは、単純な振り仮名の代用と思ったほうが良いみたいです。
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