第37回 石川ポクポク「“W.A.Mozart”」

以前彼の生まれた地、ザルツブルグへ行った時のこと。カフェでおしゃべりしている人たちの口からはしょっちゅう彼の名が飛び出していたが、誰一人として「モーツァルト」とは発音しなかった。彼等がした発音をあえて日本語表記すると「モザート」か「モッザート」。スペルをそのまま読めば、確かにそんな発音になる。小林秀雄が「モオツアルト」なんて気取って書いたから「モーツァルト」という表記になったのだろうか。

私は音楽をやっているので、自然そういう例ばかりになってしまうのだが、イタリア人指揮者で“Guido CANTELLI”という人がいる。日本語表記を見ると、「グィド・カンテルリ」となっているものが多い。しかしそうでないものも多く、グィドがギドになっていたり、カンテルリがカンテッリになっていたりする。また“Yehudi MENUHIN”というユダヤ系ヴァイオリニストがいるが、彼もファーストネームがユーディであったりイェフディであったりと、日本語表記には揺れがある。

外国語を日本語で表記する場合、まず外国語の音を日本語の音として捉えなければならないが、日本語では表記するのがむづかしい発音もあれば、そもそも日本語にはない発音もある。
また、外国語と日本語とでは音の最小単位の捉え方が違うケースも数多ある。例えば”dog”は、日本語で表記すれば「ドッグ」であり、音節で数えれば2音節だ。しかし英語では“dog”で一音節と数える。さらには長音の長さや感じ方にも違いがある。欧米系の人は日本語の長音を上手く発音できなかったり、長音でないものとの区別ができなかったりする。








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