国学院大学法学部横山実ゼミ


最近激変している少年非行 (1)

―2003年以降の動向を分析―


横 山 実

これは、少年法研究会の例会(2015年3月28日 於國學院大學)で報告したときのレジュメである。横山實「最近激変している少年非行」、警察政策学会少年問題研究部会編警察政策学会資料第80号『少年問題研究論文』(2014年)、86−117頁の要点を指摘し、2012年のデータを2013年のデータに更新したものである。

1.厳しいまなざしへの変化

2000年の少年法改正――非行少年への厳しいまなざしを反映して、一部犯罪化。 より大きな犯罪化は、少年法適用年齢の引き下げ――これは、阻止できた。

警察は、引き続き、検挙・補導活動のネット・ワイドニングを実施。 2003年には、人口比(千人当たり)は、15.5へと高まった。

少子化社会の実現で、少年が過保護暴力を行使する非行は漸減。非行少年の人口比(千人)は、2003年の15.5(検挙人員総数は203,684人)から低下。2013年には7.7(検挙人員総数は90,413人)へと半減。(省略)

5.満足している子どもたち

今の子どもの多くは、大人によって危険から守られ、物質的にも精神的にも恵まれた生活環境に置かれている。高度成長期の企業戦士のような「内部指向型」の人とは違って、リースマンが指摘するように、「他人指向型」の彼らは、高邁な成功目標を持たない。他人、特に仲間の目を意識しながら、分相応の生活を楽しんでいる。それゆえに、若者の満足度は、高まっている。

6.少子社会における非行少年

第2の非行ピーク以前は、貧困の多子家族で放任されて育てられた少年が反社会的非行。その後、少年が少子家族の中で大切に育てられるようになり、反社会型の非行は減少。

それに代わって、注目されるようになったのは、非社会型の非行である。 普段は、何を考えているかわからないような無気力な少年が、いきなり重大な殺傷事件。「いきなり型」の非行は、非行少年のイメージから外れる少年によって行われる。彼らによる突然の重大事件で、人々は彼らの心の闇を了解しきれず、不気味さを感じる。 保守的な人々は、彼らを規範意識の欠如する少年とみなし、 規範意識を覚醒するために、厳罰を主張している。

非社会型は、マートンが主張する逃避型に当たり、現代社会の構造から生み出されたもの。 刑務所のような拘禁施設に長期間閉じ込めて、厳しさを味あわせるだけ適切でない。 非社会型非行を生み出す社会構造の問題点を改革し、 また、心の闇を抱く非行少年には、適切な心理療法や精神療法を施す必要がある。(省略)

8.罪種別に見た現代の少年非行

『平成26年版警察白書』によれば、「ほぼ全ての罪種で減少傾向にある。」

a)窃盗

窃盗で検挙された少年の数は、2003年の81,512人から2013年の41,390人へと半減。 2011年に窃盗でつかまった少年47,776人で内訳をみると、 万引きが54.3%、自転車窃盗が18.8%、オートバイ盗が10.3%、侵入盗が4.3%

b)占有離脱物横領罪(放置自転車が主なので、最近では遺失物等横領とされる)

この罪で捕まる少年は、2003年の38,547人から、2013年の10,278人に激減。 警察の職務質問体制は変わらないので、激減は、少年の自転車に乗るマナーが向上と 駐輪場の整備が考えられる。→環境犯罪学的視点から対策をとった効果といえよう。

初発型非行(万引き、オートバイ盗、自転車盗および占有離脱物横領罪)も減少。 それゆえに、最近の警察白書や犯罪白書からは、初発型非行という指摘が消えている。

c)詐欺

貧困が蔓延していた時代における少年の詐欺は、寸借詐欺であり、詐取する金は小額。 今では、詐欺の形態は高度化し、詐欺によって検挙された少年は増加傾向。 2003年の672人から、2013年には842人へと増加している。

振り込め詐欺などの特殊詐欺において、受け子の役割を演じる少年。 被害者から現金を受け取ったり、被害者が送金した口座から金を引き出したりしている。今の少年は、過保護状態で育てられて社会的経験に乏しいので、 特殊詐欺グループから小遣い稼ぎにと誘われると、安易に受け子役を引き受ける。

d)強盗

強盗で検挙された少年の数は、1948年(3,878人)と1960年(2,762人)にピーク。 1990年代後半には、強盗の増加が深刻な社会問題として注目された。 増加の原因の一つは、一時的に集まった少年たちの「おやじ狩り」。 もう一つは、警察が、ラベルの張り替え(re-labeling)により、強盗致傷が増加。

今の少年、特に男子少年は、草食型になっており、 金をほしくても、ひったくりなどの手段によって、強奪することはなくなっている。強盗で検挙された少年は、2003年の1,771人から2013年の573人へと激減。

e)恐喝および傷害

非行の第2のピークの頃には、金に困った少年が恐喝することはよく見られた。 今の少年は、他人を脅して金をせびるような剛毅を欠いている。 恐喝で検挙された少年は、2003年の4.065人から、2013年の1,022人へと激減。 傷害で検挙された少年の数も、2003年の8,110人から2012年の5,343人へと減少。

f)殺人

少年が犯す殺人は、昭和40年代前半までは200〜400人台で増減を繰り返していた。 今では、少年による殺人事件は、それよりも減少している。 一度、凶悪な殺害行為を少年が行うと、それはマスメディアで大々的に報道される。 モラルパニックになった人々は、少年による殺人は凶悪化し、数も増えていると思う。

現実には、少年が殺人を行うことは、2003年の93人から2013年の56人に減少。  この数字には、殺意をもって刃物をかざしたというような未遂事件も含まれている。 警察をはじめとする刑事司法の各機関は、殺意の認定を未必の殺意にまで広げている。 少年による凶悪な殺害事件は、年間、数件というように稀なのである。

私たちは、殺害事件というと、見知らぬ者を殺害するという凶悪犯罪のイメージを抱く。しかし、殺害事件の多くは、未婚の女子少年による嬰児殺など家族内の殺人である。

g)放火

警察は、殺人、強盗、放火及び強姦の4つの罪種をまとめて「凶悪犯」の概念を使用。 それにより、低年齢の子どもの凶悪化への対応の必要性を強調してきた。 14歳未満の触法少年の「凶悪犯」のほとんどは、火遊びの延長線上の放火か、知的障害児の放火。

放火で補導された触法少年の数は、2003年の166人から2013年の97人に減少している。  これが反映されて、触法少年の凶悪犯は、212人から130人へと激減。 少年の火遊びが、危険行為として禁じられるようになっているので、 少年が放火行為に快感を覚える機会が減っているのであろう。

h)いじめ

非行の第2のピーク時には、校内暴力が社会問題となっていた。 その当時、校内暴力の背後には、たくさんのいじめ行為があった。 いじめは、人々から見過ごされたり、人間関係にはつきものだとして黙認された。 1985年に、校内暴力の周辺にある陰湿な暴力として、社会問題視され始めた。 社会問題となった結果、1985年には、いじめに起因する事件の検挙・補導数は、 過去最高で1,950人となった。 遺族の働きかけにより、マスコミが社会問題として初めて取り上げたのは、 1986年2月に自殺した中学2年生の鹿川君に関する、中野・富士見中学いじめ事件。 その事件を契機にして、いじめの深刻さが理解され、いじめ防止対策がはじめられた。

いじめ行為が再び、社会問題となったのは、1995年のことである。 当時、警察は、534人の少年を、「いじめ」を理由に、検挙・補導している。 しかし、これも、数年で検挙・逮捕者数は減少し、1998年には、268人と半減している。

次の社会問題化は、2011年10月に自殺した中学生の大津市立第2中学校のいじめ事件。 検挙・補導活動の活発化により、いじめによって検挙・補導された少年の数は、 2012年には、前年よりも292人増加して、511人となった(2013年には、724人)。 深刻に受け止められたので、いじめ防止対策推進法が2013年6月28日に成立する。

いじめ防止策を充実することは、きわめて重要である。 しかし、少年時代にいじめのように見える人間関係の葛藤を何も経験させないならば、 成人になって、厳しい競争関係の中で職場において働くことには、耐えられなくなる。競争のない平和な社会は、理想的である。 現実には、日本は、国際的な厳しい競争に晒されているのであり、 ひ弱に育った若者が成人となった時、日本は、この競争から脱落することになろう。

i)強姦および強制わいせつ

強姦や強制わいせつなどの性犯罪は、非行の第2のピークの1964年からの30年間で激減。  暴力反対のキャンペーンも、この減少に寄与している。 貧しい青少年が減少して、性的な欲求を金で満たすことができるようになったのも一因。

1990年代後半は、犯罪統計において強姦罪が増加している。 性犯罪の被害者への支援体制の充実や2000年の法改正で、強姦の告訴期限6ヶ月が撤廃 →従来泣き寝入りしていた被害者が告訴して、統計上の件数が増加したと思われる。 警察は、実態として強姦および強盗が増加していると広報して、少年犯罪の凶悪化のイメージを醸成した。それが、

2000年の少年法改正によって一部犯罪化が実現した一因である。

その後、強姦でつかまった少年の数は、2003年の242人から、2013年の147人に激減。強制わいせつで検挙された少年の数は、2003年の461人から、2013年には557人に増加。 現代の草食型の男子少年は、同年齢層の女性との交際ができず、 性的欲望の対象を幼児に向けるようになっているのであろう。 車内などでの痴漢行為で、性的欲望を満たすようになっているのかもしれない。

j)暴走行為

暴走族は、1950年代に出現し、最盛期には、騒擾行為も行っていた。 1982年には、暴走族の構成員は、42,510人に達していた。 少年の遊びが多様化して、また、若者の自動車離れによって、 暴走族の構成員は2003年の17,704人から、2013年の5,817人へと激減。

k)交通犯罪

犯罪化、教育による交通安全意識の醸成、交通環境の整備などにより、交通事故は減少。 自動車による死傷事故で検挙された少年は、 2002年の40,165人から2011年の21,777人に半減。

少年の道路交通法違反取締件数は、1985年に最多になり、1,938,980件であった。  2003年の520,248件から、2012年には、231,766件へと半減。   その88.8%は交通反則金で処理されている。

l)薬物犯罪

日本では、第2次大戦後、覚せい剤乱用が深刻な社会問題となっている。 密輸した覚せい剤は、暴力団の有力な資金源。 1980年代後半のバブル景気の時代には、有機溶剤の乱用(シンナー遊び)は盛んであった。  ピーク時の1982年には、毒物及び劇物取締法違反で送致された少年は、29,254人。 有機溶剤の違法販売の取締りの強化と少年の遊びの多様化で、シンナー遊びは激減。 毒物及び劇物取締法違反で送致された少年は、2003年の3,286人から2013年の36人。 覚せい剤取締法違反で送致された少年も、1982年の2,750人から2012年の123人に激減。 大麻取締法違反及び麻薬取締法違反の送致人員も、最近5年間は減少傾向。 2013年には、それぞれ58人および8人となっている。

今の少年の多くは、同調型や儀礼主義で行動しているので、 法律に違反してまでも薬物乱用することはない。 その陰では、脱法ドラッグの流行がみられるという。 警察と厚生労働省は、2014年7月に「脱法ドラッグ」を「危険ドラッグ」に変える。 その後は、危険ドラッグを飲用したのちの自動車運転に厳しく取り締まる。 また、危険ドラッグの販売に対する規制も強化されている。 m)特別法違反

少年特別刑法犯(交通法令違反を除く)の警察による送致人員で一番多い罪種は、 1970年までは、銃刀法違反

であった。第2次非行のピークの1964年に最多を示した。 それに代わって、1970年代に急増したのが、 シンナー遊びを犯罪化した毒物及び劇物取締法の違反である。 この法律違反を中核とする薬物犯は、1990年代になると急減した。 2006年以降は、2007年から急増した軽犯罪法違反が、薬物違反を上回る。 少年の軽犯罪法違反による送致人員(その多くは、キセル乗車)は、 2011年には4,672人とピークを示したのである。 少年を軽犯罪法違反で、家庭裁判所に簡易送致するのは、問題である。(警察の不処分権付与の問題。

9.非行少年のプロファイルの変化

a)性別

従来は、男女の性別役割が明確であった。 女性としての役割行動をしていた女子少年は、非行を犯すことが少なかった。 また、保護的環境に置かれていたので、女子少年の逸脱行動への許容度は高かった。

女子少年が家庭外で積極的に活動するようになって、彼女たちの非行も増大していった。 女子少年の一般刑法犯検挙人員は、1966年の11,866人から1983年の54,459人に増加。 検挙された全少年に占める女子少年の割合(女子比)は、1971年に10%を超えて、 1976年からは20%を越えている(最高の女子比は、1998年の25.4%)。 女子比は、2008年以降低下しており、2013年には16.6%。 最近、女子少年は、草食型となった男子少年よりも、たくましく行動しているが、 Genderの社会学者が予想するように、女子比が50%に近づくことはなさそうである。

女子少年の一般刑法犯を罪種別でみると、 2012年で検挙された14,141人のうちで一番多いのは、窃盗で10,087人(71.3%)。 しかも、その大半は、万引きである。 窃盗に次いで多いのは、遺失物横領罪で1,817(12.8%)を占めている。

女子比の17.7%よりも高い罪種は、 詐欺(262人)の28.7%、殺人(15人)の25.0%、窃盗の21.1%。 性別役割がはっきりしていた時代には、男子少年は腕力を行使し、 腕力を行使できない女子少年は、詐欺というような知能犯をおこなうといわれていた。詐欺という知能犯は、まだ多いようである。 殺人での女子比が高いのは、未婚の母になった女子少年よる新生児殺などが存在するから。

薬物犯罪が流行している時代には、 薬物犯罪の女子比は、刑法犯のどの罪種よりも高かった。 1997年には、警察が覚せい剤取締法違反で補導した少年数1,596人とピークを示したが、その時の女子比は46.5%であつた。 この高い比率は、性風俗産業で働く年長の女子少年が、 暴力団員などに誘われて、覚せい剤中毒にされたからである。 シンナー遊びをして毒物及び薬物取締法違反で補導された少年は4,157人であったが、女子少年が占める比率は、30.0%であった。

b)年齢別

1964年頃は、年長少年による可視性の高い凶悪犯、暴力犯及び粗暴犯の対応に追われた。 1969年の統計でみると、各年齢人口1,000人当たりの刑法犯検挙少年の人口比は、 年少少年が14.0、中間少年が14.5、年長少年が17.8(昭和45年度版犯罪白書225頁)。

その後、少年による暴力行使の犯罪が減少したので、 警察は、年少少年や中間少年による軽微な犯罪を積極的に検挙するようになった。 1983年には、一般刑法犯検挙少年では、年少少年の人口比は、29.5へと高まっている

その後は、同調や儀礼主義で行動する少年が増加したこともあり、人口比は、すべて低下。 2013年の人口比では、触法少年は2.7、年少少年は10.6、中間少年は8.4、年長少年は4.5。

年少少年の検挙数の増大は、将来、欧米のように犯罪が蔓延する前兆と受け止められた。 その検挙数の増大は、警察による補導・検挙活動のネット・ワイドニングの結果。 軽微な非行をおこなった年少少年を、警察が早期に発見して介入し、 少年司法の各機関が、要保護性の高い年少少年及び中間少年を少年法の理念で処遇。 現在でも、年少少年の多くは、軽微な刑法犯で検挙されている。 2011年の統計を見ると、窃盗で検挙されているのが65.3%、遺失物横領罪が15.1%。 年少少年の人口比が、他の年齢層に比べてまだ高いからといって、 近い将来、社会状況の激変がない限り、初発型非行から常習犯になるとは考えられない。

10.インターネットに関連する少年非行

Information Technology(IT)が高度に発達し、今の少年は、その恩恵を受けている。 交流サイト(SNS)やゲームなどのアプリケーション(アプリ)の内容が充実し、 チャットやゲームに夢中になり、インターネット依存症になっている少年は増えている。 そのような状況において、ITに関する新たな少年非行が生じている。(以下、省略)

(平成27年4月9日に掲載しました。)

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