第7章 第2節 データの収集【第7章の目次へ戻る】

 第3部で分析対象とする変数群のなかで、環境変数と公式構造変数は組織自体を調査単位とするが、創発的構造変数と非公式構造変数は組織成員個人を調査単位とする。そこで、これらの仮説を経験的に検証するためには、組織自体と組織成員個人との二つのレベルを調査単位としてデータを収集する必要がある。そこで、つぎに示す方法によってデータを収集した。
 本書で用いたデータは、(財)日本生産性本部 生産性研究所「工業デザインの生産性向上」調査研究プロジェクト(以下、本調査と称す)のために収集されたものである。
 本調査は、日本の製造業企業の工業デザイン部門を調査対象とした、1983年11月(以下、1983年度と称す)、および、1985年3月(以下、1984年度と称す)と、工業デザイン部門との比較を意図して、製造業企業の商品開発関連部門、アパレル産業のデザイン部門、および、デザイン事務所を調査対象とした1986年1月(以下、1985年度と称す)の三つの調査時点で実施した。1983年度と1984年度では、後述する「部門調査」、「個人調査」、および、「相互評価調査」の三通りの方法によって、1985年度では「相互評価調査」を除く二通りの方法でデータを収集した。
 「部門調査」とは、部門という組織自体を分析単位とするものであり、当該の部門の責任者を対象に郵送法により調査を実施した。「個人調査」とは、当該部門のメンバーという組織成員個人を調査単位とするものであり、当該部門の責任者宛に必要人数分の調査票を送付し、留置法もしくは集合法により調査の実施を依頼し、郵送法により回収する方法をとった。「相互評価調査」は工業デザインのエキスパートに本調査の対象となる工業デザイン部門の生産性を評価してもらう目的で実施したものである。なお、エキスパートのうちの大半は、本調査で有効回答が得られた企業の工業デザイン部門の管理者であるために(残りは学識経験者)、この方法を「相互評価」と呼ぶことにした。
 1984年度に収集した工業デザイン部門と1985年度に収集したデータとを合計すると、「部門調査」については79社の 157部門、「個人調査」については69社の 148部門、 2,936名から有効回答が得られ、「部門調査」と「個人調査」との両方でデータを収集できたのは67社の 142部門であった。これらの1984年度に収集した工業デザイン部門と、1985年度に収集した「他部門」、アパレル産業、および、デザイン事務所のデータをまとめて「全サンプル」と呼ぶ。このように、本調査では、3年間に渡る実査を通じて、さまざまな種類の組織からデータを収集することができた。しかし、データの回収状況は完全なものではなく、三通りの方法全てでデータを収集できたのは一部の組織に過ぎない。そこで、本書での分析では、分析目的に応じて異なるサンプルを対象に分析を行うことにした。つまり、「相互評価調査」を含む三通りの方法すべてでデータを収集できたのは、製造業企業の工業デザイン部門だけであるために、生産性および環境変数に関係する横断的分析の際には、1984年度の工業デザイン部門、計68部門のデータを分析対象とした(以下、「工業デザイン・サンプル」と呼ぶ)。また、三通りの方法すべてでパネル・データを収集できたのは、23の工業デザイン部門だけであるために、縦断的分析の際にはこれらを分析対象とした(以下、「パネル・サンプル」と呼ぶ)。
 さて、このように本調査では、「部門調査」、「個人調査」、「相互評価調査」という三通りの方法でデータを収集した。しかし、実際の分析では、第8章第8節での分散分析での分析単位が個人であることを除けば、調査単位が異なるデータの関係を分析するために、「個人調査」により収集したデータをアグリゲートすることによって、分析単位は部門(例外的に、デザイン事務所の場合は企業)という組織に統一した。
 ここで、第3部での三通りの分析対象について要約しておこう。「全サンプル」とは、1984年度に収集した工業デザイン部門と、1985年度に収集した「他部門」、アパレル産業、および、デザイン事務所、のべ 163の組織のことである。「工業デザイン・サンプル」とは、「全サンプル」のうちの、1984年度に収集した工業デザイン部門、のべ68(「個人調査」の有効回答は57)の組織のことである。「パネル・サンプル」とは、「工業デザイン・サンプル」のうちの、1983年度および1984年度の両時点からデータを収集できた23の組織のことである。

【先頭行へ】【第7章の目次へ戻る】【つぎへ】

Copyright by 1997,1999 Ogiso, Michio