アウトソーシング
砂田 暁
1 アウトソーシングの目的
1−1 アウトソーシングとは何か?
<アウトソーシングとは>
一般にアウトソーシングとは、「業務の外部委託」「外注化」などと紹介され、「業務を外注化することによりコスト削減に繋がる方法」という意味で使われている。しかし、それだけでは「下請けを探して安く使う」という意味でしかない。
真の意味でのアウトソーシングとは「外部の専門的な知識を有効に、効率よく活用することにより、自社の目的とする業務に戦力を集中する経営手法」である。つまり、単に「自社の業務の一部を外注に出し、安く済ませよう」とする発想では、良い結果は生まれないのが実情である。また、こういった発想では良いアウトソーサー(外注先の受託業者)とは巡り合えない。結論として、アウトソーシングにおいては自社の経営方針と理念を固め、その上で外部資源であるアウトソーサ―を有効に活用するといった考え方が最も大切になるのである。
<下請け・外注とアウトソーシング>
ここでアウトソーシングと似た概念である「下請け」「請負」とアウトソーシングを比較してみようと思う。
従来、日本企業は大企業と下請けの中小企業という縦の系列で結ばれていた。下請けや請負は、業務の一部または全部を外部に任せることで、ある意味、アウトソーシングと共通する部分ももちろんある。だが、業務を委託する側に「戦略性」がない、あるいは、あまり見られない点が、アウトソーシングとは根本的に違うのである。つまり、アウトソーシングの核は「戦略性」にあるといえるのである。
1−2 なぜいま、アウトソーシングなのか?
<アウトソーシングが活発化の要因>
アウトソーシングが活発化している背景には以下の要因が考えられる。
1、長引く不況の影響で本格的に会社経営の形態を考えなければならないほど事態が悪化してきた(外部的要因)
2、従来のように、自社ですべての業務を行なわなければならないという発想から、外部に出せるものは出してしまえという発想になってきている(内部的要因)
3、アウトソーサーと呼ばれる外部受託会社が力をつけてきた(外部的要因)
つまり、従来の会社形態を根本的に見直し、変えようとする動きを、社会的な要因が後押しした形で急速に進行してきたと考えられ、従来の日本的な経営手法がある意味で限界に達してきたことに一因があるといえる。従来の日本的経営手法は年功序列の賃金体系や右肩上がりを前提とした経営戦略等に基づいてきたが、その弊害として中小企業のオーナー経営者によく見られる「ワンマン体質」や「秘密主義」等さまざまなものが挙げられる。今日のアウトソーシングの活発化はこうした経営手法に一つの警鐘をならしているのである。
規模別に見ると、従業員数500人以上の企業では80%を越える企業がアウトソーシングを導入していると回答している(図1)。
1−3 戦略的アウトソーシング
<アウトソーシングで効率的経営を実現>
企業が抱える最も大きな問題の一つに「人材」が挙げられる。限られた人員では、全ての人員が通常業務におけるオールラウンドプレーヤーであるというのはなかなか難しいことであるし、逆に高度な専門性を必要とする業務が発生したときに敏速な対応をすることも難しいのが実状である。
しかし、現在ではアウトソーシングを活用することにより解決できるため、従来では外に出したがらなかった「経理」や「給与」等の間接部門の中核を外注化しようとする傾向がみられる(図2)1)。
また、単に人材難の問題だけでなく、専門性の高いアウトソーサーに委託することにより、時間の短縮が可能になる。さらに、自社内の社員を使う場合と違って、人事管理などわずらわしいことも不要となるのである。
問題点(図4) |
効果(図5) |
・求人がうまくいかない ・専門知識を持った人を雇いたいが、それ だけでは業務にアキが出てしまう。 ・新入社員を教育する人がいない。社員が 辞めても引継ぎがいない。社員が突然 辞めてしまった。 |
・外部資源の活用 ・経費削減 ・専門性の活用 ・効率化 ・リスク回避 |
しかし、中小企業はアウトソーシングの活用に慎重になっているのが、現状である。原因としてはアウトソーシングの導入により中小企業は特に「リストラ」を伴いやすいことから、導入にあたっての時期的な問題を考慮している点が一つの原因として考えられる。そして、もうひとつの原因としてはアウトソーシングするだけの社内整備ができていないという状況である。
アウトソーシングの活用分野
1、
企業の中枢部門(経営戦略・経営計画)
2、
営業・マーケティング部門
3、
管理部門(人事・総務・経理)
4、
生産部門
5、
研究開発部門
6、
情報システム部門
容易な分野、困難な分野はあるものの、基本的には、企業の業務のあらゆる分野でアウトソーシング化は可能である。特に情報システム部門では60年代から日本でアウトソーシング化は進んでいた。次では、この情報システム部門を取り上げる。
<最も早くアウトソーシングが進んでいた情報システム部門>
60年代当時はまだコンピュータシステムを自社導入できない企業が多く、情報システムは外部の計算センターへ委託するのが主流であった。しかし、時代とともにその内容や形態は大きく変化している。コンピューターの価格は驚異的に下がる一方で、性能は飛躍的に向上している。また、コンピュータシステムのダウンサイジング化が進み、中央集中型から分散型へと変化し、業務の適用範囲も大きく広がっている。
また最近ではネットワークシステムの発達により、情報システム部門の重要性が高まっており、企業の中のあらゆる層や部署において、情報システム部門は不可欠な存在になりつつある。このような環境の変化から、アウトソーシングされる内容や専門技術も多種多様に広がりをみせている。
そして技術革新のスピードが速く、最新技術の導入は専門家に委ねざるをえないのが現状でありアウトソーシングが行われやすい分野といえる(図3)。
情報システム部門におけるアウトソーシングの業務内容
・データ入力
・データ処理
・システム運用
・システム設計
・システム開発
・オペレーター業務
・ネットワークサービス
・メンテナンスサービス
・サポートサービス
・コンサルティング
1−4 アウトソーシングに何を求めるか
アウトソーシングの目的は、その概念が時間とともに進化してきているため、一概にはいえないが、大きく分ければ三つに分けられる。
@総合的な経営戦略として
・コア業務への経営資源の集中 ・新たに付加価値の創出
・新規事業進出の迅速化 ・リスク分散
A外部の専門性を活用するため
・ 情報システムなど高度な専門機能の強化 ・管理サービス業務の専門機能の確保
・ 福利厚生機能の充実と効率化 ・情報ネットワークの拡大
・ 外部の中立的評価や公平性の活用
B経営の効率化を図るため
・業務のスピード化 ・コスト削減、固定費の変動費化
以上のことを特に、経営戦略の手段として有効活用できれば、有力な武器として活用できるのである。
2 アウトソーシングの原型2)
<アメリカで始まったアウトソーシング>
アメリカでのアウトソーシング事業の先駆的な事例としてあげられるのはEDS(エレクトロニック・データ・システムズ)の情報処理サービスである。EDSはロス・ペロー氏がIBMを退社して1962年に設立した会社(アウトソーサー)である。
当時は情報処理分野の重要性が増大していたが、企業にとってコンピューターへの設備投資や運用費は大きな負担となっていた。そこに注目し、受託計算やそれに伴うソフトウエアの開発を引き受ける仕事を開始し、翌63年には、スナック菓子類メーカーと5年契約を受注した。その後、きわめて広範な事業展開している(図6)。
<相手企業の経営課題をEDSが解消>
すでにタイムシャアリング的な仕事は存在していたものの、情報処理サービスの契約期間は1年以内がほとんどであり、仕事内容も単純な作業の域をでなかった。EDSがアウトソーシングの原型といわれているのは、単なるデータ処理だけでなく、システム設計やプログラム開発など相手企業の中枢にかかわる仕事を一括受注した点である。
情報システムの構築には多大な資金を要し、運用コストもばかにならない。最新鋭気が次々に登場すると、自前で対応しにくい。さらに、ソフトウエア開発などには優れた技術者が必要とされるが、社内でそうした人材を短期間に育成することもむずかしい。
EDSがこうした企業の課題を解消してくれるのなら、活用企業にとっては大きな戦力として使える。つまり、EDSはコスト削減や経営効率化の要請に応えられるノウハウと人材を活用企業に提供することで自らの存在が可能になり、活用企業はEDSという外部資源を有効活用することによって経営目的を達成できる、という両社の関係が成立しているといえるのである。
<リストラ請負人的手法がアメリカでは奏功>
EDSの社員教育は徹底しており、金と時間をかけることで有名だが、古いタイプの技術者を最新機種を扱う社員に変身させ、企業に送り込んでいる。また、EDSはリストラ請負人の異名で呼ばれているが、それは、システム構築を請け負うことにより、活用企業の情報システム部門が結果として合理化され、そこに従事していた人員までも引き受けてEDSに移籍するといった手法をとっているからである。
<世界最大のアウトソーシング会社に成長>
EDSの本社はテキサス州ダラス市。現在、世界42カ国、8000を超える企業や政府機関と情報システムの構築などアウトソーシングサービスの契約を結んでいる。1995年の売上高は124億ドル(96年は144億ドル)と、世界最大のアウトソーシング会社に成長しており、社員数は9万5000人に及ぶ。このうち、アウトソーシング事業の売上高は約43億ドル(シェア23%)で、IBM(シェア21%)を抑えて首位に君臨している。95年の売上構成比を相手業界別に見ると(図7)、製造・流通業45%、金融業14%、官公庁13%など。また、テキサス州政府や南オーストラリア州政府など行政機関と長期のアウトソーシング契約をしていることも特徴である。なお、EDSの日本法人は86年に設立され、同年、にいすゞ自動車と契約第一号を結んでいる。
<IBMとコダックのアウトソーシング>
イーストマン・コダックはニューヨーク州のロチェスターに本社を置く写真用品の最大メーカーだが、同時に合成繊維、プラスティック、医薬品の大手としても知られる世界的企業である。1989年当時のコダックは、業績の低迷からリストラクチャリング(事業の再構築)が急務であった。特に生産部門を近代化するためには情報システムの大規模な変更が必要であった。それは、資金面その他で膨大な投資をすることにほかならないが、コダックはこれをIBMを中心とする3社にアウトソーシングしたのである。
その目的は、
@ 経営資源を本業に集中するため
A 情報システムの進化、発展など環境変化への対応は外部のプロフェショナルに任せてしまうこと
B その結果として、経営の効率化によって株主への利益還元を高めること
にあった。
コダックのコンピューターセンターは、その後IBMに売却され、五ヵ所に散在していた機能は一ヵ所にまとめられ、新設のセンターには、当初コダックの情報システム部門の360人がIBMに移籍して勤務した。ただし、コダックは情報システム部門の全体を丸ごとIBMに投げているわけではなく、IBMの業務はホスト・コンピューターシステムの開発と運用、通信ネットワークの維持管理などが中心であり、コダックの情報戦略的な部分はコダックの社員が担当している。
3 アウトソーシングにおけるリスク
<アウトソーシングのデメリット>
アウトソーシングは多くの場合、今まで内部で賄ってきた機能・業務を外部に出すことから、アウトソーサーとのパートナーシップに基づいた協力関係が欠かせないがアウトソ−シング自体の特性によるデメリットもいくつか指摘できる(図4)。
@ 社内機密やノウハウの外部流出 A社内における専門性、ノウハウの喪失
B 品質管理や柔軟な対応の困難性 C従業員のモラルが低下する
@社内機密やノウハウの外部流失
特に製造業が生産工程の一部をアウトソーシング場合は、自社固有の技術やノウハウが外部に漏れ、それが他社に流れて競争力の低下につながるなどのマイナスがある。また、社内の弱点をアウトソーシングしたことで、ライバル他社に弱みを知られる結果となる例もある。
しかし、業務を受託するアウトソーサーの多くは、企業秘密の保持を重視している。また、アメリカ企業など戦略的なIT技術のアウトソーシングにおいては、むしろ自社の技術力をオープンにして、ある部分では競合他社との協力関係も視野に入れ、新たな付加価値を追求するスタイルへと変化しているのである。
A社内における専門性、ノウハウの喪失
ある業務(機能)を企画から運用まで全面的に外部委託することにより、今まで社内で蓄積してきた専門能力やノウハウが喪失してしまうことはデメリットである。しかしアウトソーシングしたあと、社内でその業務に全く関与しないというのではない。必ず配置し、アウトソーサーの仕事内容の把握やマネジメントにあたることで十分対応できる。
B品質管理や柔軟な対応の困難性
外注化したことで品質面でのチェックを怠ると、業務の質が低下するなどという懸念は確かにある。また、緊急時に迅速な対応がとれないなどのマイナス面も考えられる。しかし、専門性や迅速性を提供するのがアウトソーサーであり、契約関係での十分な協議に加え、専門担当者とアウトソーサーとの間のコミュニケーションにより、解消できる問題である。
C従業員のモラルの低下
人員の異動を伴うアウトソーシングでは、異動する人員ばかりでなく、社内全体が心理的に動揺したり、経営方針に疑心暗鬼になる場合もある。このため、仕事の作業能率が低下して、一時的に生産性が落ち込むことがある。従業員のモラル低下を防ぐには、アウトソーシングを決定した早い時期から全従業員に十分な情報提供をしておき、アウトソーシングへの理解と意識改革に努める必要があるのである。
<アウトソーシングの現状と問題点>
従来からアウトソーシングが活用されてきた分野ではアウトソーサーとしてのノウハウやシステムなども成熟しているが、今後発展していく分野に関してはまだまだ未成熟である。アウトソーサーの数も飛躍的に増加しているが、信頼性や実力への懸念から委託に対し慎重な企業は多い。また、現状では受託企業の能力が不足していたり、システムが完備していない分野が多くみられる。
アウトソーサーとしては、コストダウンも売り物の一つではあるが、競争力に限界が生じてくる。そのため、コストダウンだけでなく専門性を伸ばすことがアウトソーサー側に求められている。また、業務別の情報システムやソフトの開発、またコストの低下が求められている。
4 アウトソーシングの浸透と進展
現在、多くの企業は金融ビックバンに見られるような大競走時代を迎え、自らの生き残りをかけて懸命な努力をしている。身軽で、変化に対応できる企業体質に変えるためリストラ策(人員削減)もその一つであり、アウトソーシングも同列の位置づけられるものである。
アウトソーシングは、企業経営にとって競争力を強化し、収益性の改善に大きく寄与する優れた経営手法であることは間違いない。また、アウトソーシングは企業のみならず個人にも変化をもたらしている。年功序列賃金制が崩れ、能力給を重視した実力主義や成果主義に移行しつつある現在、プロフェショナルが求められている。それは能力、技術、スキルといった資質を高めることであり、アウトソ−シングの浸透は個人個人が将来を見据えて、自らの仕事に関して「専門性を養うこと」を基本に考えることをうながしているのである。
【注】
1) 牧野(1998)は、ニュービジネス協議会が1997年1月に実施した『アウトソーシングに関するアンケート調査』(回答企業数=221社)の結果を引用して、アウトソーサーの概要を明らかにしている。
2) 牧野(1998:16-21)参照
【参考文献】
牧野 昇(1998)『[図解] アウトソーシング早わかり〜利益を生み出す企業戦略の知恵』PHP研究所
大上 二三雄監修・アンダーソン コンサルティング著(1998)『図解 戦略アウトソーシング』東洋経済新報社