《研究計画の概要》その2



5.拠点形成の目的・必要性

               
  T 本学の将来構想と本拠点の関係および特色               

 本学は神道を建学の精神とする異色の大学として、あるいは「国史・国文の國學院」として、創立以来120年の間、一貫して神道を中心とする日本文化を主に神道学・文学・史学の立場から研究・教育してきた。今般、本学は建学の精神、理念・目的をより一層闡明・明確化し、本学の研究教育上における「個性・独自性と普遍性」を将来にわたって強固なものとするための将来構想「國學院大學21世紀研究教育計画」(以下「21世紀計画」という。)を策定、今回申請する「神道と日本文化の国学的研究発信の拠点形成」(以下、「本拠点」という。)はその中核を担う研究計画として策定されたものである。     

 本拠点の大きな特色は、本学の学問・研究教育の基盤であり、400年の伝統を有する国学的研究教育理念・方法を現代に適用して、神道を中心とする多様で複合的な日本文化について、神道学・宗教学をはじめ、史学・文学・民俗学・考古学等の分野で豊富な研究教育実績を有する本学大学院文学研究科(神道学・日本文学・日本史学の3専攻)と、神道を中心とする日本文化に関する共同研究に豊富な経験と実績を有する日本文化研究所(以下、「研究所」という。)との組み合わせによる有機的組織的な日本の基層文化研究とその成果発信のための研究拠点形成を目指すことにある。                           

 ここでいう国学的理念・研究教育方法とは、日本の基層文化(神道)とは何かについての探求を通して、縄文文化以来現代に至るまでの多彩な日本文化の起源とその歴史的展開や意義を解明すると共に、その文化を現代及び将来にわたって維持・継承し、日本人が有している文化的創造力を不断に発展させ、もって人類文化の進展に寄与しうる研究とそれを担う有為な若手研究者を教育・養成する方法である。近世以来、国学の学問的使命は、この日本列島に息づいた多様な生活から生まれた文化を文献学的に考証するだけでなく、その文化を当代に生かす教育もしてきた。明治時代の西洋文化の滔滔たる移入で顧みられなかった日本の伝統文化を研究し、現代に維持・継承させた学問は国学であった。本拠点は、この国学の伝統を継承・発展させる唯一の研究教育拠点の形成という大きな意義と特色を持っている。                                  

   U 本拠点の目的・必要性                        

 本学の大学院文学研究科を構成する神道学・日本文学・日本史学の3専攻が有している個別の高度な研究教育機能と研究所が持つ組織的かつ高度な共同研究及び広く国内・海外に網羅した情報発信機能を組み合わせることによって、神道を中心とする日本文化研究の世界的研究拠点を形成していく。                          

 本拠点の目的は、日本の基層文化としての神道を専門的かつ国際的に研究し、その成果を内外に発信することによって本学の研究教育機能の質的向上と活性化を図ることはもちろん、2001年に開催された大英博物館での「神道展」でも国際的に注目を集めた神道の起源を巡る縄文文化との関係をはじめとして、神道の起源・本質やその歴史的現実的機能等についての高度な研究を遂行すると共に、中間報告をも含めた研究成果等の情報を海外の研究者等に提供することによって、神道や日本文化の独自性と普遍性を明らかにする研究をより一層促進することにある。                          

 近代以降、欧米での神道に関連する日本文化研究は古事記など古典を主とするものであったが、今日ではハーバード大学、ロンドン大学等の世界的な有力大学で神道を多方面から研究するようになってきている。また、中国、韓国などのアジア諸国でも神道に関する文化的歴史的関心が高まってきており、研究者も増加しつつある。しかし、神道に関連する学術情報の不足等から研究はさほど進展していないのが実情である。こうしたことからも、神道研究を中核とする本拠点の形成は国際的にも必要とされているのである。    


   V 期待される成果と学術的社会的意義等について            

 このように、神道研究は国内外で活発化の傾向にあるが、多様で複合的な日本文化の独自性ばかりではなく、世界に通用する普遍性を日本文化は有していることを基層文化としての神道の研究を通して明らかにすることが本拠点に期待されている研究成果である。今や地球的規模の課題となっている「人と自然の共生」の原点を神道に見い出し、縄文文化以来の基層文化である神道を対象とする研究が内外でもより一層活発化することが予想される。こうしたグローバルな観点からの日本の神道や日本文化への関心や研究に対し学術的に応えると共に、神道の持つ「主体性を保持した寛容性と謙虚さ」(文部科学大臣認可平成14年設置・本学「神道文化学部」の「設置認可申請書」文言)は本学および本拠点形成の理念であり、多様な国内的国際的交流を経て形成された日本文化の基盤でもある。このことを研究を通して国際的に発信することは、日本の国際的文化貢献策の大きな柱ともなるのであり、本拠点の研究には学術的のみならず社会的・国際的にも大きな意義があるのである。                                    


6.研究拠点形成実施計画                                              

 神道と日本文化の国学的研究発信のための本拠点を形成するに際し、世界最高水準の「日本文化の総合的研究と発信のための世界的研究教育センター」としての大学の形成・構築をめざす「21世紀計画」との関係を踏まえて、以下のような、大別して二つのプロジェクトの実施計画を策定している。                                             


   T @神道・日本文化の情報発信と現状の研究               

 一つは、これまでに集積した神道や神道関連の日本文化に関する内外の研究成果及び本拠点研究遂行中の成果を、内外の神道・日本文化研究者に広く発信してその利用・研究促進を図ることである。                                
 具体的には、これまでの研究成果の蓄積と新たな研究成果を基にして、学術情報のデータベース化を行い、神道関係文献の英訳・オンライン公開化を進める。研究所ではすでに、神道に関する英文情報をインターネットを通じてオンラインで公開するためのハード面及びソフト面の双方のシステムを確立している。今後は神道に関する最も基本的で包括的な『神道事典』(日本文化研究所編、平成6年)の英文化と、オンラインでの公開を進めていく。この作業に関しては、カリフォルニア大学バークレー校神道研究センターとの共同作業で実施することが決定されている。                      

 研究所が現在公開している神道に関する英文情報に関しては、諸外国から年間1万数千件を超えるアクセスがある。また、研究所のホームページは、アメリカのスタンフォード大学やコロンビア大学、イギリスのソーシャル・サイエンス・インフォメーション・ゲートウェイ、オランダのライデン大学をはじめ、多くの大学、研究所にリンク登録されている。今後神道に関する英文情報の発信は、本拠点を中心に、全世界的に浸透していくことが期待できる。                                  

 併せて日本文化の重要な要素である神道や伝統宗教の現代的意義等に関する調査・研究を同時並行的に実施する。極めてアップトゥーデートな研究推進プロジェクトである。神道の起源を巡る縄文文化との関係、そしてその歴史的展開過程のみならず、神道・基層文化は現代日本社会においても、脈々とその命脈を保っている。それらは実生活における年中行事や通過儀礼として、あるいは神道系の宗教団体として、さらにはメディアの中で情報として存在している。こうした宗教的要素の現状分析を、神道系の宗教団体に関する網羅的なデータベースの作成と、世論調査を利用した日本人の宗教性に関する調査等によって行う。                                     


   U A基層文化としての神道・日本文化に関する調査研究                 

 もう一つは、神道の起源・本質や独自性と普遍性、あるいはその文化的機能等を神道学・宗教学・歴史学・文学・民俗学・考古学等の学問分野から明らかにすることによって、神道が日本文化の基層文化・基層信仰として多様で複合的な日本文化の形成・発展、維持等にいかなる影響・機能を有して現在に至っているのかについて解明する研究プロジェクトである。とくに、多様で複合的な神道・日本文化の諸相の起源とその歴史的展開・意義を解明するために、日本の基層文化のアジア史的解明に関する調査研究を実施する。   

 日本の基層文化を形成したのは狩猟漁撈採集民の文化としての縄文文化と、稲作農耕民の文化としての弥生文化である。大陸文化が弥生文化の成立と展開に大きく関係していることは自明であるが、日本独自の文化とされる縄文文化の形成にも東アジア特にシベリアの初期新石器時代文化が大きく関わっている。日本の基層文化である縄文文化と弥生文化の形成と展開と大陸文化の関係、縄文文化と神道の起源をめぐる問題を東アジアの諸文化との対比の中で明らかにする。具体的には、ロシア・シベリアでの発掘調査を中心に中国、韓国と比較検討する。                             


   V B神道・日本文化の形成と発展に関する調査研究、アジアの諸文化との比較

 @Aのような神道の起源と関わる調査研究と、極めてアップトゥーデートな研究推進プロジェクトとの間を埋めるべく、多様な調査研究が開始される。弥生文化と神道・日本文化との関わりについては、東南アジアを含めた東アジアにおける日本の初期稲作農耕文化の普遍性と特殊性を明らかするための調査研究を実施する。これを基礎として、その後の日本における民俗文化としての稲作農耕儀礼の変遷と展開過程を中心に調査研究を行う。日本儀礼文化と異文化間交流研究として、日本文化の一大要素である儀礼文化・宗教文化を重視し、古代から近代までの日本文化形成と東アジアとの異文化間交流研究の拠点を形成する。                                     

 また@Aのプロジェクトを中心とした各研究の有機的連携によって、インターネットを駆使した神道と日本文化に関する国際的な研究教育ネットワークの構築を進め、その中間的成果を可及的速やかに発信することによって、当該研究をさらに進展させていくという研究方法を採用することになっている。こうした研究計画・方法によって、本拠点は予め設定された研究目標に、より緻密に到達することが可能となるのである。        



7.教育実施計画                                                    


  T 本拠点形成に際しての教育計画の基本的理念              

 本拠点の形成を担う大学院及び研究所には、本学の建学の精神である神道を中心とする日本文化研究における卓越した「課題探求能力」を育成し、自ら当該課題を探求して自立した専門的研究が遂行できる若手研究者の教育・養成に取り組むための効果的な教育システムの構築が求められていることはいうまでもない。本拠点は、これまでにもたびたび触れてきたように、大学院博士課程の各専攻と研究所が各々の特色と実績を活かしつつ、協同・連携して基層文化である神道をはじめとする多様な日本文化を専門的かつ学際的に研究し、その研究によって豊かな文化的創造活動に寄与することを目的としている。すなわち、単に研究のための研究ではない、研究そのもの及びその成果が広く社会に還元されるような研究を行える研究者の育成こそが本拠点の教育構想の基本であり、これが本拠点の特色とする国学的研究教育方法の理念である。本拠点はこの理念を基本として、以下に記すような教育関係の取り組み計画を検討し、可能なものから早急に実施していく予定である。                                       


  U 「課題探求能力」をさらに向上させる大学院の教育システム           

 本学大学院が設置された当初の理念・目的を端的にいえば、「神道精神に基づいた高度な研究による若手研究者育成」ということに尽きる。大学院文学研究科を構成する神道学・日本文学・日本史学の担当教員の多くがこの「神道精神」による大学院教育を実践した。文学の武田祐吉教授は「神典研究」、折口信夫教授は「理論神道学特殊研究」、考古学の大場磐雄教授は「実践神道学特殊研究(神道考古学)」など神道学専攻の科目を担当し、幅広い日本文化に関する知識・教養を有した優れた神道プロパーの若手研究者を輩出させた。こうした設置当時の理念及びその実績を今日に活かし、関連・隣接分野の教員による授業科目を設定することは本学大学院設置の理念にも合致する。具体的には学生の「課題探求能力」を一層向上させて主専攻の研究を刺激・促進するために、「本拠点」の形成にふさわしい科目を各専攻から供出し、複数の体系的な副専攻的領域科目群である「共通領域科目」を博士課程に導入することを予定している。この「共通領域科目」制度はすでに本学の学部教育で導入されており、学部教育との連携の点でも大いに教育的効果が期待できる。


  V  大学院と研究所との連携による若手研究者の育成システム           

 日本文化を精緻かつ総合的に研究し、私立大学文科系附置研究所として日本有数の伝統と実績を誇る研究所は、伝統的に本学大学院出身者のみならず多くの他大学の大学院出身の若手研究者を任期付きの兼任講師・調査員・共同研究員等として受け入れ、プロジェクト研究等に参加させて実践的な共同研究の経験を積ませてきた。こうした研究所の制度により、神道学・宗教学や日本文学・日本史学などの各分野に自立した高度な研究能力を有した多くの若手研究者が養成・輩出された。現在、研究所では本学大学院で博士を授与され、大学院に所属して特別研究員の身分にある若手研究者を共同研究員として採用するという制度がある。今後、この制度をさらに整備・拡充して、研究所での様々な研究に大学院博士課程の教員・学生が参画して、教員も研究上の刺激を受け、また指導学生も実践的な共同研究に従事する過程でより一層の「課題探求能力」が自ら開発・促進でき、またそれを「課程博士取得」に必要な単位として認定するなどの制度も構想・計画しているところである。                                    


   W  博士課程学生・若手研究者への教育支援体制の充実・強化計画        
 本拠点を将来的に形成・維持するためには自立心・自律心に富み、本拠点の学術的社会的意義を十分理解した優秀な学生・若手研究者の確保・養成を促進する仕組みが必要不可欠である。本学大学院でもこの点に鑑み、ティーチングアシスタント制度やリサーチアシスタント制度、あるいは大学院特別研究員制度などをすでに導入しているが、いまだ不十分である。また学生の研究生活支援のため、種々の奨学金制度や学費減免制度なども設けているが、これまた十分とはいえないのが現状である。こうした学生・若手研究者に対する研究面及び生活面での支援を一層強化するため、これまでの種々の支援制度を有機的に統合した総合的な研究教育上の支援計画を策定中である。               


  X  学部・大学院・研究所の一貫した教育体制の構築計画              

 本学は平成14年度から、神道を中心とする日本の宗教的文化を研究教授する日本唯一の神道文化学部を設置した。これは「21世紀計画」の第一弾で、本学の建学精神の学部レベルでの具現化である。神道文化学部は、文学・法学・経済学の各学部学生にも広く神道文化・宗教文化を学ぶ機会を提供する「共通領域科目」を設置した。これにより、神道文化学部をはじめ、他の学部学生も広く神道文化・宗教文化を学ぶことができるようになった。これを契機に、学部段階から「本拠点」を形成しうる教育を行うための一貫した学部・大学院・研究所の教育カリキュラムを計画している。                



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