2004年6月14日〜7月5日 (ただし7月5日は休講、3週ですべてを講義します)

史学入門:歴史地理学 担当 教授 吉 田 敏 弘

   参考資料: 歴史地理学とは?(國學院大學歴史地理学教室HPより)


1、歴史地理学の位置

   @ 歴史科学の一分野としての歴史地理学

<研究資料> <分野> <研究課題>
古記録・古文書 文献史学 人文・社会現象一般(政治・経済・文化など)
遺 物・遺 構 考古学 古い時代の生活文化(物質生活・精神生活)
伝承・民俗資料 民俗学 新しい時代の生活文化(物質生活・精神生活)
地 名・景 観
古地図・絵 図
歴史地理学 生活空間・生活世界に関わる問題
(環境史・歴史的景観・歴史現象の地域差など)


   
A 地理学の一分野としての歴史地理学


    地理学=地表の科学・・・・・・地表現象をどう捉えるか?

a環境 b地域 c景観 d空間

民族と「風土」
環境決定論(環境の制約)
環境可能論(環境の征服)
人間による環境変化と環境保全

生活空間の論理
等質地域と結節地域
地域差と地域性
中心地理論の歴史性
自然景観→原景観→古景観
地形学と景観発生学
文化的象徴としての景観
地表現象の空間的パターン
  とプロセス
距離減衰法則とその有効性


    過去を対象とする地理学の位置と意義

Phase1 「時の断面」Cross Sectionを記述する
分野としての歴史地理学

ある特定の時点における地表の復元

 ex(1) 洪水堆積物の分析--------過去における地表の抽出

  ex(2) 絵図・土地史料の復元--------歴史時代における土地の復元

歴史地誌への志向性=static静態的な地理学観

Phase2 文化景観学としての歴史地理学

景観の歴史性=地表に刻まれた歴史
景観プラン論と歴史地理学の自立

Phase3 「地理的変化」Geographical Changeの学
としての歴史地理学

地理的現象の変化------そのプロセスとメカニズムの追求

地理的現象は如何に変化し、新たなシステムを形成するのか?



2
、歴史地理学と環境史


  @環境史へのまなざし

A「歴史の舞台」 <構造としての環境>

歴史の舞台=ブローデル(1966)『地中海』第1巻「環境の役割」
変化しない舞台=その地に生きる民族の宿命
時間のスケール・空間のスケール

B社会変化の一要因
 としての自然環境変動
<環境もまた変動する>

気候変動→地形条件の変化
氷河性海水準変動
気温変化と栽培作物
海進・海退と海岸平野開発の画期

C人間による環境改変とその影響 <社会が変えた環境> 開発と環境の改変=2次的自然の形成
資源としての環境:無限→有限
過去における災害発生と環境保全の思想
D自然災害と社会 <社会を破壊する環境> 自然のメカニズムによるカタストロフ
災害頻発地域に住む人々
災害認知と災害情報
防災への貢献=歴史地理学の社会的貢献

  A災害絵図分析の課題―島原大変絵図のばあい

    吉田敏弘:寛政四年島原大変絵図の初歩的検討(2000年度日本国際地図学会大会報告資料)

    パワーポイント・ファイル 島原大変絵図

  参考資料リンク
    インターネット博物館「雲仙普賢岳の噴火とその背景」(九州大学理学部関係HP)
    「島原大変肥後迷惑」(日本地震学会『ないふる』26号Web版)
         

3 、景観プランから新しい景観研究へ

 @景観プラン研究への誘い

   長岡京と古山陰道 (足利健亮による)

   解説ページ(『地形図に歴史を読む』第4集より)

 A景観プラン研究の夜明け

   米倉二郎: 条里村落説(30戸一里制)・・・・・近江国栗太郡十里村  地籍図  集落部大縮尺地図
     米倉説自体は誤りであったが、そこには景観から歴史を論じようとする鋭い着想があった。

   参考資料: 条里制  条里景観(湖東平野の空中写真から)

           条坊制

 B歴史考古学からの挑戦

   条里地割の起源をめぐって

   埋没条里地割の発見・・・・・地表上の地割の起源に対する疑問?

     更埴条里     更埴条里の断面(信州考古学探検隊HPより)

   条里地割の広汎な形成は12世紀?

     岡山市南方釜田遺跡の水田遺構(岡山市埋文センターHPより)

   条里呼称法と条里地割の先後関係

       奈良時代の校班田図・・・・・大和国京北班田図(中世の写図、東京大学文学部所蔵本)より推測可能

 C地割の起源と持続性の研究に向けて

   明治の地籍図に見える地割はいつ形成されたのか?
   地割はどのように変容するのか?
   地割はどのようにして維持されるのか?

    景観変化のプロセスとメカニズム研究に向けて

4、絵図研究の視角

  @新しい絵図研究(1980年代以降)

   A 絵図の史料学・・・・・・・「絵図」それ自体の研究
                  
   B 記号学的方法の導入・・・・・絵図に表現されたメッセージの読解
         (葛川絵図研究会(1988・89)『絵図のコスモロジー』上下2巻、地人書房)

  A地図コミュニケーションのモデル
地図作成者
       
----------
encode
地図
Code
----------
decode
地図利用者
       
    記号の体系としての絵図
     図像の描き分け(形状、色など)
     画面空間上での描き分け(大きさ、画面上での位置など)

  B絵図の風景

    3つのフィルター
現実の風景 -------1------- -----2----- -----3----- 絵図の風景
作成目的・主題
のフィルター
空間表現
のフィルター
空間認識
のフィルター
    故実絵図と証験絵図
      吉田敏弘(2000)「中世地図史料と絵図」(『今日の古文書学第3巻中世』雄山閣出版)


  2004年度は、「絵図・古地図の世界」について論じました。

   Powerpoint ファイル 「絵図古地図の世界」


  (以下、参考ファイル)

  C骨寺村絵図と文化景観保存

    骨寺村在家絵図

    骨寺村簡略絵図

    骨寺村故地の空中写真

      吉田敏弘(1989)「骨寺村絵図の地域像」(『絵図のコスモロジー』下巻)
      吉田敏弘(1997)「荘園絵図にみる東国中世村落の成立過程と古代寺院」(『地方史・研究と方法の最前線』)

    関連資料リンク
    中世骨寺村絵図と荘園遺構 (岩手考古学会HPより)
     
    骨寺村所出物日記 (岩手県HPより)

    骨寺村(現一関市厳美町本寺地区)の歴史的景観保存への試み(岩手地元学HPより)