年間祭祀の記録及び映像


愛知県北設楽郡東栄町古戸集落

年間祭祀の記録及び映像


「人は如何に地域の風土と命を守り育んできたか」

執筆者: 茂木栄(神道文化学部)

 地域と国際を結ぶフィールド実践の一環として、国内でのフィールドのひとつに、愛知県北設楽郡東栄町古戸集落を設定した。地域社会の景観構成、地域の自然を如何に宗教的に意味付け、文化風土を作り上げてきたのか、古戸集落の年間祭祀を通じた視点から、この問題に取り組み映像記録及び映像教材の作成を意図してフィールドを実践している。

 ご承知のように、気多設楽郡東栄町・豊根村・津具村は、奥三河の花祭(旧暦霜月の神楽の祭)の伝承地として、また、山一つ越えた南信州新野を加えれば、昭和初期より早川孝太郎の花祭研究、折口信夫の古代研究、柳田國男の盆行事研究などの舞台となった地であり、また後に民俗芸能の宝庫として良く知られるようになった地域であった。折口信夫も柳田國男もかつて本学の教授であった。國學院大學で培われた学問が民俗学や民俗芸能研究に大きな足跡を残したことは言うまでもない。

 古戸集落の主な年間祭祀は1)神楽・花祭り(正月2日・八幡神社→公民館)、2)シカウチ神事(旧暦2月初午、稲荷様→八幡神社境内社諏訪神社)、二歳児祈願、的射神事、3)念仏踊り・盆踊り(8月13・14日、7地区→善光寺)、4)白山祭り(12月第2土曜日、権現山山頂白山神社)、神楽、5)八幡神社例祭(白山祭り翌日)十五童の舞い、翁・黒尉田楽などを数えることができる。

 奥三河一帯の儀礼伝承の特徴は、ひとつの集落に「神楽」「田遊び」が並存していること。日本列島の他の地域では、単純化すれば畑作地帯の「神楽」、稲作地帯の「田遊び」、言い換えれば山間地域の「神楽」、平地地域の「田遊び」という具合に空間的に棲み分けている。同一地域で並存しているのは奥三河地域だけである。これは春にシカウチ神事が伝承されていることと関係がありそうである。また、儀礼上の意味から、擬死再生の「神楽」、豊作予祝・稲魂誕生の「田遊び」と考えることもでき、どちらも命に関わる儀礼であることが分かる。また、生まれた子供を神の子として保護してもらおうと考えるシカウチ神事の二歳児祈願とその「願果たき」である白山祭り翌日の十五童の舞は、祈願から十数年後、少年が一人前の男として社会的に認められる機会である。古戸集落に代表させて記録しているのは、地域の年間祭祀が命の誕生と成長、甦りと死者供養それが農耕の一年に位置付けられていることを、消滅してしまわないうちに映像に残しておこうということなのである。

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