国学院大学法学部横山実ゼミ


厳罰化に歯止めが必要である

 3月26日の朝日新聞は、強盗傷害罪で有罪とされた男が、高裁で1年減刑されて、懲役5年の刑が言い渡されたと報道している。1990年代後半から、わが国では厳罰化が進行しているが、このケースには、厳罰化の問題点がたくさん潜んでいる。

 この男は、雑貨店で警報器などを盗み、警備員らに催涙スプレーをかけて軽傷を負わせたという行為を行ったに過ぎない。おそらく、万引きが見つかったので、逃げるために、催涙スプレーを撒き散らしただけであろう。しかし、治安維持を旗印にして厳罰化を促進している警察および検察は、このような事件でも、些細な窃盗および傷害としてではなく、「強盗致傷」という重い罪名を付与して処理しているのである。

 警察は、厳罰化の必要性の根拠として、1990年後半からの凶悪犯の増加を挙げている。たしかに、「強盗」の検挙人員は、1995年の2,169人から2001年の4,096人へと激増している。しかし、増加の大部分は、窃盗、特に「ひったくり」の最中や事後に、軽傷をおわせたケースであると思われる。

 日本の憲法では、被疑者および被告人に黙秘権を保障している。この男は、「家族や知人に迷惑がかかる」と、第1審の終わりまで黙秘を貫いた。その結果、取り調べにあたった警察および検察は、彼に厳しく対処した。検察官の重い求刑を基準として、裁判官は、黙秘権を行使している、この男に、改悛の情がないとして、第1審では懲役6年という極めて重い刑を言い渡したのである。その後、親がこの事件を知り、被害者と示談をしたのであるが、一度下された重い判決は基本的には維持されて、東京高裁では、懲役5年の実刑が言い渡されたのである。

 ところで、同じ3月26日の朝日新聞には、東京地裁の判決が報道されていた。その事件では、日本信販から2,754万円を不法に受け取っていたとして、総会屋の男が、法規上最も重い、懲役2年執行猶予5年の言い渡しを受けていた。これと比較するならば、前者のケースの懲役5年の実刑が、極めて重いものであることがわかるであろう。

 刑事司法システムにおいて厳罰化が推し進められた結果、行刑の現場では、大きな負担が生じている。年末の受刑者数は、1992年の37,237から2001年の53,284へと激増し、刑務所は過剰拘禁の状態に陥っている。2003年冬に明らかにされた刑務所内の不祥事は、そのように余裕のない状態から生じたのである。

 一般社会の老齢化現象を反映して、受刑者にも老齢化が見られる。それは、中高年のホームレスの増加とも無縁でない。老齢受刑者を収容している横須賀刑務所を参観したとき、最近のケースを教えてもらった。そのケースでは、生活に困った男が、コンビニでおむすびを盗み、裁判にかけられた。初犯ということで、懲役1年執行猶予3年を言い渡された。そして釈放されたが、すぐに生活に困って、再度、食べ物を盗んだ。今度は再犯ということで、懲役1年半が言い渡された。そして、前回の判決の執行猶予が取り消されたので、横須賀刑務所には2年半の刑期で入所してきたのだという。

 3月26日の新聞報道によると、ホームレスは全国で約25,000人いるという。彼らは、住所がないということで、病気にならない限り、生活保護を受けることができないでいる。そのような状態で、食べるのに困って無銭飲食すれば、刑務所に収容されて、そこで衣食住が保障されることになる。これは、福祉の施策の貧困ではなかろうか。

厳罰化を推し進めている警察は、昨年から3年間で、1万人の増員を行っている。また、厳罰化の後始末をしている刑務所では、過剰拘禁状態となったため、法務省では、莫大な予算を獲得して、新しい刑務所を建設する予定である。このようなことが、果たして必要なのであろうか。私たちは、今、行過ぎた厳罰化に歯止めをかける努力をすべきではかなかろうか。(2003年4月1日執筆)

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