まえがき【本書の目次へ戻る】【業績一覧へ戻る】

 本書の主題はつぎの四つである。また、本書の論理構造はこれら四つの主題およびこれらからさらに分岐した論点から張られたリンクによって構成されている。これらのリンクはどれが幹でありどれが枝である、どれがルート・ディレクトリィでどれがサブ・ディレクトリィであるといった樹木状の構造をとっておらず、ある論点がこれ以外の論点とたがいに関連がある、【本文の凡例 7】の表記で示すようなリゾーム状のハイパーリンク構造をとっている。
 第一の主題はネットワーク型組織とヒエラルキー型組織との比較である。「2 “ヒエラルキー型組織”の恐ろしさ」で紹介するようにヒエラルキー型組織にはときには殺人マシーンへと「暴走」してしまう恐ろしさがある。ネットワーク型組織の利点を理解するためにはヒエラルキー型組織の欠点を理解する必要があろう。また、「6−4 ネットワーク型組織に関する測定と知見」で紹介するように、ネットワーク型構造であれば能率は高い、という間接効果を媒介として知識集約的部門の場合ではネットワーク型構造の有効性が高くなることが支持された。
 第二の主題は情報エントロピーが増加するのか、それとも減少するのかの相違である。熱力学の第二法則に従って低減することがない物理エントロピーと比べると、情報エントロピーはエントロピーが低減する方向に向けても可逆的に変化する点が異なる。情報エントロピーは、情報プロセシングによってもともとあった情報から欠落した部分を類推によって補正したり、情報プロデュースによって情報の創造によって新しい意味作用を創り出すことことを通じて減少することができる。人びとはエントロピーが高い情報に準拠して行動することによって「暴走」してしまったりする。また、情報エントロピーを減少することができることが自己組織化の鍵となる。
 第三の主題は組織と集合行動との比較である。組織は制度化された人びとの行動の典型であるに対して集合行動は制度化されていない人びとの行動の典型であると対照すると両者は両極端をなしているように見える。しかし、「3 何かに“共鳴”した人びとの行動」で紹介する事例のなかには、組織された敵意噴出行動もあれば規範志向運動を進めていくなかで組織化が進んでいく事例もあり、組織と集合行動とを同じ分析枠組から捉えることがより適切であると考えられる。そして、組織と集合行動とを同じ分析枠組から捉えるための枠組が自己組織化および自己生産である。
 第四の主題は自己組織化と自己生産との比較である。1980年代以降の日本の組織理論において自己組織化という視点から組織を捉えることが主流となりつつあり、いくつもの優れた研究成果があげられてきた。自己組織化についで社会科学に導入された概念がオートポイエシスであるが、この用語はその定訳すら定着していない段階である。しかし、小木曽(1998)でとりあげたように、ネットワーク型社会システムの境界が柔軟であることや、ネットワーク型社会システムの過程であるネットワーキングが説得−納得型コミュニケーションの自己生産であることを考慮すると、ネットワーク型組織という概念を用いるのであれば自己生産という概念を導入する必要があると判断した。本書では自己組織化と自己生産との相違点を両者の概念が、第一に目的およびプログラムを前提としているのか否か、第二に構造という概念を前提としているのか否か、という視点の相違であると位置づけ、システムの構成素や単位体という内容を創り出すことを指して自己生産、システムの構造を創り出すことを指して自己組織化と両者を区別することにした。自己生産という新たな視点から自己組織化という再構造化を再構築することが本書の課題である。

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