第2章 第1節 官僚制理論【第2章の目次へ戻る】
Weberの研究に一貫した問題意識は、西欧社会に特有な近代資本主義の意味を理解し、それがなぜ西欧社会においてのみ成立し得たのかを説明する、というマクロな全体社会レベルでの社会変動に関するものであった。Weberの社会変動理論の基本的な視点とは、西欧社会に特有な近代化を、予測可能性もしくは計算可能性の程度である形式合理化として捉えることであった。彼の官僚制理論も、このような視点から組織構造の分析を試みたものに他ならない。官僚制概念は、権力の下位概念である支配の一類型として位置づけられており、Weber (1972:563)が「近代官僚制にとっては計算可能(berechenbaren)な規則という要素が本来的に支配的な重要性を持っている」と述べたように、官僚制とはいわば支配の形式合理化であると言えよう。
ここでは、Weberの官僚制理論やTaylorの科学的管理法などの組織の公式的側面に焦点を当てた先駆的研究と、Merton、Gouldner、およびBlauなどの官僚制の逆機能論や事例研究についての文献サーベイを行っていくことにしたい。
官僚制とは、合法的支配の純粋型としての、普遍主義的な規則に基づく職務遂行により組織内外の多様性を削減し、組織の予測可能性を向上させる組織構造の形式合理化のことである。また、官僚制の前提要因としては、産業化や政治的民主化に伴う社会・文化的多様性というプル要因と、身分や名望などの個別主義および封建君主や家父長の個人的恣意性の排除というプッシュとが考えられる。官僚制は、組織成果の向上のためには、伝統的支配やカリスマ的支配と比べると有効であるが、目標の転移や非公式集団の社会関係の不安定性が生じた場合では逆機能的なものとなる。
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