宮地直一博士資料の研究



略 歴
 宮地直一博士(1886〜1949)は実証史学の方法によって神社・神道の歴史を考察した近代神道史学の先駆者として評価されており、神社史の専門的知識を前提に内務省の官僚として戦前の神道・神社行政に大きな役割を果たした人物とされている。
 宮地直一氏は明治19年(1886)高知県に生まれ、その本家筋にあたる家々は代々社家で多くの国学者・神道学者を輩出している。東京帝国大学では国史学科に所属し、実証主義的風潮の強い中、国学的伝統の流れをくむ萩野由之に師事しており、宮地氏の学問が史料を中心とした実証主義的傾向を持ちつつも信仰的要素を払拭しきっていない要因の一つとなっていると考えられる。宮地氏は卒業論文として「八幡宮の研究」を提出し、その後大学院に進学している。この研究において、文献史料を基礎として神社の歴史に関して時代背景を考慮に入れた上で明らかにしていくという宮地氏の学問の方向性は確立されていたとされている。
 明治42年(1909)に宮地氏は内務省神社局に入局し、社格の認定などに関係する神社考証を担当している。また、同年には皇典考究所神職養成部で「神祇史」を講義しており、神道教育の方面にも関係していたことが伺える。その後、明治期から大正初期にかけて各地の講習会においても「神祇史」を多く講義しており、神道史の専門家として知られていくこととなる。
 内務省の官僚としての宮地氏は、大正年間以降明治神宮の創建にも関係し、神社行政の中核で活躍するようになる。明治神宮の創建にあたり、大正2年(1913)に設置された神社奉祀調査会では調査会事務を嘱託されると共に、祭式や神宝を定める為の神宮、及び諸社の調査など具体的な業務に於いて中心的な役割を果たし、後に明治神宮造営局参事として深く関係していた。大正年間の宮地氏は、祭式・神宝制定の為各地の神社に調査に赴いており、大正13年(1924)に神社局考証課長に就任してからは、昭和4年(1929)に控えた第59回神宮式年遷宮にて奉献される御装束神宝の古儀調査なども担当しており、神社行政・文化財保護行政の中心で活躍した。
 宮地氏は、大正年間中頃になると、大学にも深く関係していくこととなる。大正7年(1918)には東京帝国大学国史学科において「神祇史」の講義が開始され、宮地氏が講師として担当すると共に、大正11年(1922)に発足した國學院大學では発足時より教授として「神祇史」の講義を行っている。しかし、当時宮地氏は内務省の所属のままであり、大学で教鞭をとる一方で内務省神社局神社考証官・考証課長を歴任している。
 東京帝国大学神道研究室は昭和8年(1933)に田中義能・加藤玄智両氏の退官により、専任者不在のまま運営されていたが、この間も実質宮地氏が担っていたと考えられ、昭和13年(1938)には、神道研究室主任教授となって内務省を退官している。宮地氏はこの後、昭和21年(1946)に定年を迎え、昭和24年(1949)調査先の長野県穂高にて急逝するわけであるが、戦中戦後の困難な時代においても神道・神社に関する問題を解決する為に尽力している。
 宮地氏は、内務省官僚として神社考証に強い影響力を持ち、それと共に大学においても神道研究者として重要な役割を果たしていた。宮地氏はその神社局考証課長という立場に加え、学問的には実証的な研究を求めたため一部に批判の声もあるものの、終戦後GHQの神社処理に対する徹底した交渉、また今回の宮地直一博士旧宅の調査などからは神社・神道に対する真摯な崇敬の念を見て取ることができる。現在、宮地氏による一連の研究が現代の神道に関する歴史学的研究の基礎をなしているという認識は、一般的な評価となっている。

根本祐樹「学術フロンティア事業報告−宮地直一博士資料編」『人文科学と画像資料研究』第2集 2005年


明治19(1886)年 高知市で生まれる
明治41(1908)年 東京帝国大学卒業、大学院進学
明治42(1909)年 内務省入省(神社考証担当)
大正1(1912)年 神社調査委員
大正4(1915)年 明治神宮造営局参事
大正7(1918)年 東京帝国大学文科大学講師
大正8(1919)年 史蹟名勝天然紀念物調査会考査員、神社局考証官
大正11(1922)年 國學院大學教授
大正13(1924)年 神社局考証課長
昭和4(1929)年 神社制度調査会幹事、台湾総督府神社行政事務嘱託
昭和10(1935)年 紀元二千六百年祝典準備委員会嘱託
昭和13(1938)年 東京帝国大学教授
昭和15(1940)年 勲三等瑞宝章
昭和16(1941)年 正四位
昭和21(1946)年 東京帝国大学退官、神社本庁顧問、国民信仰研究所創設(所長)
昭和24(1949)年 逝去

遠藤潤「宮地直一」「宮地直一年譜」『東京帝国大学神道研究室旧蔵書目録および解説』1996年

資料の概要
 資料の総点数については調査を継続中であるが、現在の所おおよそ書籍類が15000冊、軸物が約300点、天神人形・神像類が約150体確認されている。蔵書には和装本・洋装本・小冊子・写真帳、蔵品には神像・人形・軸物・鏡・絵馬などが含まれていた。現在、これら天神人形・神像類は國學院大學神道資料館にて管理・保管している。また、和装本、写真資料等は國學院大學図書館及び國學院大學日本文化研究所にて管理しており、洋装本に関しては國學院大學たまプラーザキャンパス図書館に保管している。 なお、宮地博士資料については本年度刊行した『宮地直一写真資料目録』により詳細な調査過程を記載している。

根本祐樹「学術フロンティア事業報告−宮地直一博士資料編」『人文科学と画像資料研究』第2集 2005年

資料整理の方法と成果
宮地直一博士資料について(平成14年度事業報告)
宮地直一博士資料について(11-15年度成果報告書)【PDF】

・宮地直一博士写真資料目録
宮地直一博士写真資料データベース
 ・凡例

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