解説 國學院大学文学部名誉教授 徳江 元正 | |
國學院大學図書館蔵本「ものくさ太郎」大型奈良絵本・一帖(改装)江戸時代初期写。 |
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信濃国つかまの郡あたらしの郷。 四本柱の粗末な小屋に、ものくさ太郎は寝そべった まま、大道にころげ落ちた餅を自分で拾おうとも しない。もう、三日経った。折節、小鷹狩りの帰途、 地頭が通りかかる。 詞書には、名前も含めて〈ものくさ〉という語が幾た びも用いられている。 |
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国司の命により、長夫 ったものくさ太郎。手にするは、唐竹の杖のみ。 きたない格好に、京童どもは笑うが、大納言殿は 「まめでさえあればよし」と宣うた。 |
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ものくさ太郎の在京は、期間を延長して七ケ月に及 んだ。よき女房を得んものと、かれは辻捕 つ。所は、京の町でいちばん賑わっている東山清水 寺大門の前。時は十一月十八日観音の縁日。着古 した帷子 って、やっと美しい女房に出遭う。詞のほとんどが、 その女房の美しさを褒め讃える類型的な表現に終 始している。 張り出した舞台造りで、それと知れるように、画師 の心遣い。「人にて候」と、下女が女主に教えたの は、ちょっと言い過ぎか。 |