【目次】

継起性の軸と同時性の軸 (in わかりやすいオートポイエーシス(自己生産))

1 継起性の軸と同時性の軸

 「構造言語学」の創始者とされているSaussureは、情報理論やコミュニケーション理論の先駆であるとは評価されていない。しかしながら、言語は重要なコミュニケーションの手段であり、情報を伝達する手段である。Saussure(訳1972:113)は、あらゆる科学は同時性の軸と継起性の軸とを区別することが必要であると提唱した。Saussure(訳1972:113)によれば、1. 同時性の軸とは「共存する事物のあいだの関係に関わる」ものであり、2. 継起性の軸とは「この上では、同時にひとつ以上の物を考察することはでき」ず、第一(同時性の)軸の事物はことごとく変化しつつこの上に位する」ものである。そして、Saussure(訳1972:115)は、同時性の軸の側面を共時態(synchronie)、継起性の軸の側面を通時態(diachronie)と呼んだ。Saussure(訳1972:172-3)は、同時性の軸に関する「話線のそとで、なんらか共通のものを示す語は、記憶のなかで連合し、かくしてそこに多種多様な関係のむすばれる語群ができあがる」連合関係(rapport associatif)と、継起性の軸に関する「話線のなかで、語はそれらの連繋の力によって、かの二個の要素を同時に一時に発音することをゆるさない・言語の線的特質にもとづく関係を、それらのあいだに取りむすぶ。要素は言の連鎖の上に順ぐりに配列される」統合関係(syntagme associatif) とを区別した。

2 同時性の軸〜意味するものと意味されるものとの関係

 同時性の軸に関する連合関係の典型が、意味するものと意味されるものとの結びつきである意味1)である(Saussure(訳1972:96-7,160参照))。Saussure(訳1972:95-7,160) は意味を、聞き取られた聴覚映像といった能記(signifiant)(以下、「意味するもの」と称す)、それが想起させる概念である所記(signifié)(以下、「意味されるもの」と称す)との結合である記号によって形成されると定義した。この意味するものと意味されるものとの結びつきを意味作用と定義することにしよう。

 Saussure(訳1972:98-111) は、意味するものと意味されるものとの結びつきは恣意的であるという記号の恣意性という第一原理のもとで、意味するものと意味されるものとの関係のずれという言語記号の可易性をもつと指摘した。

3 継起性の軸〜先に起きたこととこれから起きることとの関係

 継起性の軸に関する統合関係の典型が、音素と音素、音節と音節、文字と文字、単語と単語の順序関係などである。継起性の軸は言語だけに限定されることではなく、継起する行為と行為、継起するコミュニケーションとコミュニケーションとの関係にも該当する。つまり、ある人がある行為に続いてつぎにどのような行為を遂行するか、または、ある人の行為に対して他者からどのような応答行為がなされるか、といった継起する行為と行為との関係は、この継起性の軸に関わる。

§注§
1) Saussure(訳1972:160)では"signification"を「意義」としているが、本稿では「意味」と訳した。

§参考文献§

Copyright by 2013 Ogiso Michio (小木曽道夫) , Revised on 10. Dec. 2013
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