序 脱工業化社会の組織像【本書の目次へ戻る】

 序論・第1章では、本書での研究の背景となる近代工業社会とそれを支えてきた近代組織の特徴とその限界についての検討を行う。
 近代化とは、工業生産などの予測可能性を向上させるために、社会的行為の多様性を削減し合理化する過程であった。そして、官僚制とは、産業化に伴って雇用され管理される組織成員の多様性を削減することによって組織活動の予測可能性を向上させる組織化の方策であり、この方策によって標準仕様製品の大量生産が促進された。我が国の産業化を推進してきた「日本的経営」は、終身雇用制や年功序列制などの人事処遇制度と集団主義的な価値志向をもとに、「金太郎飴形組織」と呼ばれる均質的な組織化を志向する経営方策であり、組織成員や工業製品の多様性を削減し均質化する役割を果たしてきた。官僚制や「日本的経営」という近代的組織が画一的な製品を大量生産する工場の論理に従っていたのに対して、今後の日本の企業組織は、むしろ知識集約的部門などの非製造部門をモデルとするような、組織の脱工業化を進めていく必要があろう。組織は個人の自由、個性、および、感情などの非合理的要素を抑圧してきた。しかし、近代工業社会に変わる社会を迎えるために、工業化や近代化を推進してきた主体である組織のなかから、工業化や近代化を超越する論理を見出すことが可能ではないだろうか。

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