大韓民国釜山広域市立博物館インターンシップ実施報告

博物館学コース博士課程後期2年 小島有紀子

 大学院GPの博物館専門・特殊実習の一環である海外インターンシップを、7月28日より8月26日まで大韓民国釜山広域市立博物館で実施させて頂きました。国内での博物館インターンシップは経験があるものの、海外の博物館でのインターンシップは初めてであり、文化や価値観が異なる国での博物館であったため、大きな期待と少しの不安を抱えて臨みました。

 釜山広域市立博物館は総合博物館である本館と、それぞれ異なる特色をもった分館(福泉博物館・近代歴史館・臨時首都記念館・東三洞貝塚展示館)で構成されており、今回のインターンシップは各分館でも実施させていただきました。
釜山広域市立博物館

 本館は総合歴史博物館ですが、「こどもの体験プログラム」や「文化体験館」、「初等(小学校)教師の歴史教室」等の各種教育プログラムが開催されており、それぞれに参加させていただきました。「こどもの体験プログラム」は専任のボランティアの先生が主導となって実施されており、各回20名前後のこどもとその親が参加していました。博物館にある遺物の簡単なレプリカの作成や伝統的な技を使用した本の作成など、多岐にわたるプログラムが用意されており、授業を行った後に展示を観覧して、実際に作業に入り最後に当日に学んだ知識の確認という流れをとっていました。また「文化体験館」では韓国の伝統的な茶道や拓本、伝統衣装の着付け体験などをお手伝いさせて頂きました。「初等(小学校)教師の歴史教室」は小学校の先生を対象とした5日間の教育プログラムで、本年は「釜山の近代史」に基づいたテーマで構成されていましたが、各著名な先生の講義に加え、歴史遺産の踏査や博物館における児童教育の体験などが実施されておりました。

こどもの体験プログラムこどもの体験プログラム

文化体験館(茶道体験)文化体験館(茶道体験)

初等教師の歴史教室初等教師の歴史教室

インタビュー後の記念写真  その他にも国際交流展示における資料貸借の際の遺物確認作業を見学させて頂き、韓国においての資料の取り扱い方法や確認作業の流れなどを教えていただき、合わせて鉄器の保存処理も見学しました。更に本館では、来館されているお客様に「博物館とはどういう存在か、展示とは何か」を探るためのインタビューを実施させていただき、韓国の社会における博物館の位置づけを探る上で貴重な研究をさせて頂きました。日本における博物館の捉えられ方とは異なり、ほとんどの韓国人の来館者の方が博物館には教育を求めるという結果であり、学校教育の延長であるという考え方もありました。また展示に関しても、見ているだけでもテーマや構成は分かるが解説等はあったほうがよいという御意見をお持ちでした。

教育プログラム参加風景  また、分館では主に教育プログラムに参加させていただき、釜山広域市立博物館の博物館教育のレベルの高さを実感致しました。福泉博物館は国家史蹟第273号の福泉古墳群の調査内容の館内展示と古墳群自体の野外展示で構成されています。福泉博物館でも子供の博物館教育プログラムが4種類用意されており、展示資料と関連した作品が作成できるように子供向けのパンフレットが使用されておりました。また、成人用の教育プログラムも実施されており、日本の図録ほどの厚さの資料が3冊ほど用意されておりました。臨時首都記念館は朝鮮戦争時代に大統領官邸として使用された建物をそのまま利用し展示室として利用しています。ここでは展示室内で勤務させて頂き、来館者の方の展示を見る姿を見させて頂き、また大韓民国の博物館の管轄や「博物館及び美術館振興法」についてもお教えいただきました。近代歴史館は日本の植民地時代の東洋拓殖株式会社釜山支店として、解放後はアメリカの美術文化院として使用された建物を使用し、近現代史をテーマとした展示教育が行われています。ここでは「社会教科書中の釜山近代旅行」という子供を対象としたプログラムに参加させて頂き、どのようにすれば子供に展示内容が伝わるのかなどを学ばせて頂きました。東三洞貝塚展示館では国家史蹟第266号である貝塚と館内を見せて頂き、こどもの体験プログラムである国宝指定がされているシェルマスクの複製品を作成致しました。

 インターンシップ出勤日以外では、釜山の博物館についての周辺調査を行い、慶州国立博物館をはじめとする国立博物館3館と、大學博物館4館、その他の博物館など合わせて約20ヶ所を見学しました。どの博物館にも共通することは小学生くらいの子供を対象としたプログラムが必ず用意されており、設備が大きい博物館では子供を対象とした「こども博物館」が本館の一室や別館として建てられているということです。

東亜大學校博物館東亜大學校博物館

東亜大學校博物館教育プログラム東亜大學校博物館教育プログラム

国立大邱博物館国立大邱博物館

 今回のインターンシップでは、これからの研究を行うに当たり視野を広げることができました。日本における研究では気づくことができないことや、当たり前に感じていたことが実はそうではなかったと発見できるいい機会でした。この経験を生かし、日本の博物館が100年後にも博物館として存在するための研究を行っていきたいと思います。

 最後になりましたが、今回インターンシップへ行く機会を与えて下さいました國學院大學大学院の先生方にお礼申し上げるとともに、韓国語を話せない学生を受け入れて下さった楊館長をはじめとする釜山博物館の学芸士と通訳の先生、職員の方に心よりお礼申し上げます。

インターンシップ風景1

インターンシップ風景2インターンシップ風景

インターンシップ風景3


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