平成21(2009)年度 第2回特別講義(1) 全玉年氏
「韓国の博物館」
講師:全玉年(チョン・オクニョン)釜山広域市立博物館前学芸研究室長
日時:平成21(2009)年12月19日(土)12:40~14:10
場所:國學院大學 120周年記念1号館 1105教室
通訳:李榮氏(神田外語大学 言語科学研究センター非常勤研究員)
受講者:約100名
講義内容要旨:
韓国の博物館の歴史は古代に遡る。三國史記や三國遺事に王室や貴族が收集した宝物類の保管施設を庭園内に設けたという記述がある。高麗時代には、王室動植物園や貴重書画・詔書の收集保管施設に関する記録のみでなく、睿宗12年の天章閣に関する記述中に陳列を意味する"宣示"という言葉が見られ、博物館の概念に相当する施設の出現が窺われる。
近代の開港以後から日本帝国統治下では、朝鮮王朝の高宗から順宗への譲位期の1907年に動植物園・博物館の創設が提議され、1911年には李王家博物館本館が建設されるなど、近代的な性格を持つ博物館活動に拍車がかかった。そして1938年には新たに李王家美術館が発足した。この李王家博物館と美術館の開館が現代的な意味に近い最初の博物館・美術館の出現を意味する。
独立回復後から現代は、近代的な博物館の発展時期である。1945年に国立博物館が総務課・学芸課・陳列課の3課体制をとり開館した。2005年にはソウルにある中央博物館の傘下として地方博物館11館が編成され、大規模な国立博物館として発展し今日に至る。また公立博物館も増加傾向が見られ、各地で地方自治体単位さらには郡単位での博物館の設立も増えている。また、改正前の大学設置令により大学博物館の設置が必須であったため、大学博物館は1970年代後半まで公共博物館に代わり、文化遺産の調査・研究、資料の収集・保管及び公開、教育的機能を果たしてきた歴史がある。そのほかに各地に散在する私立博物館があるが、大型博物館もあれば、日常的な維持も困難な博物館もあるなど、多種多様である。現代の韓国の博物館は、設立母体により上記の国立・公立・私立と大学博物館に分類され、現在500を超える館が(社)韓国博物館協会に登録している。
韓国の博物館は博物館および美術館振興法(1999. 2. 8 公布)によって保護され、学芸研究職が育成されている。2004年1月からは博物館を登録する際の基本要件として1人以上の学芸士(学芸士資格保有者)の配置が義務付けられた。しかしながら学芸士には最低限の保護規定しかなく、建物・施設・所蔵資料などの外形的な要件が重視される風潮がある。学芸士には等級別資格要件があり、正学芸士は書類審査、準学芸士は筆記試験と実務経歴審査を経たのち文化観光部長官より資格証が付与される。但し、経歴認定機関として登録された博物館での実務経験が受験の必須要件である。
博物館は韓国の生涯学習の場として固有の役割を担っている。多様な文化を創出する文化普及機関であり社会敎育機関でもあるため、市民の多様な要望に対応した文化的コンテンツ作成が政府主導で進められている。現在広域自治体ごとに地域博物館協議体が編成され、多樣な社会的要求に対応する事業の構想と実践、学校教育、地域博物館協議体の連携事業の推進等、博物館が地域社会や地域住民の文化教育支援の場として役割を拡大しつつある。
現代化した施設としての大型博物館はますます増加の一途をたどっているが、実質的に博物館を運営している学芸研究職は教育研究者の中では地位が低いのが現状である。安定しているはずの国公立博物館ですら過度の業務量による激務に悩まされているのが現状である。小規模の公立博物館や大学博物館ではごく少数の学芸士しか配置されていないため問題はさらに深刻であり、こうした現状を改善するための制度的改革が必要になっている。
講義風景
(文責・撮影:博物館学教育研究情報センター)