平成21(2009)年度 第2回特別講義(2) 于大方氏
「陝西省の博物館事情の紹介・西安于右任故居紀念館の創立」
講師:于大方(ウー・ターファン)西安于右任故居紀念館館長
日時:平成21(2009)年12月19日(土)14:20~15:50
場所:國學院大學 120周年記念1号館 1105教室
受講者:約100名
講義内容要旨:
中華人民共和国では2008年5月より博物館の等級制度が開始された。評価には「全国博物館評価基準」と「評点細則表」が使用される。評価基準の項目は博物館総合管理という観点を踏まえ、博物館施設、所蔵品の価値と点数、保存技術の状態と実施、それらに関わる研究体制、展示の状態、教育普及活動の実施、年間の開館日数、台帳資料などが判断される。これらの評価実施には、まず現地の文物局評価委員会の専門家推薦が必要である。推薦を受けた後に、評価委員会により協議され、現地で採点が行われ、基準値を満たして国家文物局によって認定がなされた後に評価決定となる。この等級制度は全国の博物館を3等級に分けており、3年に1度行われる。西安于右任故居紀念館がある陝西省では2009年現在、6館が1級館に認定されている。これは中央政府管理の1級博物館(故宮博物院、中国科学技術館、中国地質博物館、中国人民革命軍事博物館、中国航空博物館、北京魯迅博物館)の数と並び、各省の中でも最多である。
陝西省は中華人民共和国のほぼ中央に位置する。陝西省の博物館は全部で165館あり、陝西省直接所属8館、西安市所属40館、咸陽市所属21館、宝鶏市所属 17館、渭南市所属16館、銅川市所属5館、延安市所属19館、楡林市所属11館、漢中市所属12館、安康市所属館5館、商洛市所属6館、楊凌農業示范区所属5館であり、西安于右任故居紀念館は西安市所属である。
陝西省の代表的な1級博物館は陝西歴史博物館である。資料の収集・保管、研究発表数、入館者数や職員数、展示面積ともに陝西省では最大規模を誇る。三つの展示室、6つのテーマで構成されており、1級資料も数多く所蔵する。その他に、秦始皇陵兵馬俑博物館、西安碑林博物館、延安革命紀念館、漢陽陵博物館、西安半坡博物館が1級博物館として認定されている。
「西安于右任故居紀念館」は自身の祖父である于右任の紀念館である。于右任は中国再興を志した政治家・詩人・書家である。科挙合格者であったが日本に留学し、1906年に中国同盟会に入会した。帰国後『神州日報』『民立報』などで革命派の言論・思想を発信し清朝批判を展開した。民国成立後の1912年に南京臨時政府の交通部次長となったが、袁世凱が大総統となると反袁運動を展開。1922年には国立上海大学を創立し、自らが校長となる。1924年の国共合作では国民党中央執行委員となり、孫文の死後は国民党の指導者として活躍した。1930年には監察院長となり、その後1964年に台湾で死去するまで党内の要職を歴任した。近年、中国においてその書は「国宝」として収集保存が計られ、 日・中・台で出版されている関係図書は1000種類を超える。「人は神仙、書は草聖」と称えられ、現在も国境を越え多くの人々に敬慕されている。于右任の故居・西安での「西安于右任故居紀念館」建設は、民間の博物館を開設する際と同様の手順を経ている。紀念館は敷地面積980㎡、建築面積1498万㎡、展示面積520㎡である。研究著作は5部刊行されており、書画集も3部刊行されている。職員数は9名でその他に研究員が1名おり、所蔵文物資料は467点(書画267軸・陶器23個・手稿65枚・玉器17件・写真89枚・その他6件)である。
民営博物館と国立博物館を比較した場合、国民の教養教育と文化財保護という同じ理念を持ちながらも、研究や資料の活用、集客評価や資源利用に関しては異なる点がある。今後の民営博物館全体の課題としては、政府の支援策の必要性と法的な環境整備の必要性があり、さらに民営博物館協会の設立や、独自の経営能力の確立、博物館所蔵資料を活用した商品開発なども今後の課題である。
講義風景
(文責・撮影:博物館学教育研究情報センター)