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 官僚制や「日本的経営」は、組織成員の行為の多様性を削減し組織活動の予測可能性を向上させることによって標準化された製品の大量生産を可能にして、近代工業社会の発展に貢献してきたが、今や近代工業社会は成熟し、均質性よりも創造性が要求されるようになってきた。このような我が国社会の変動を踏まえて、本書では、脱工業社会におけるより創造的な組織を求めて、組織の多様性や非合理的要素を重視した組織の非均衡理論の構築を追求する。
 従来の組織研究を概括すれば、官僚制理論やコンティンジェンシー理論などの機械モデルは組織の非合理的側面や環境に対する能動性を説明できず、また、ヒューマン・リレーションズは組織の環境や構造などの組織レベルの属性を説明できず、さらに、これらの既存の組織理論は組織が均衡維持的な構造保存的システムであると仮定していたために、組織の能動的な自己革新を説明できない、といった欠点を持つことを指摘できよう。そこで、本書では、組織の能動的な組織化を重視して、組織の公式的側面と非公式的側面とを共通の概念枠組によって説明するために、自己組織化モデルを導入することにした。
 自己組織化モデルとは、自己組織化、すなわち、組織が自ら能動的かつ自己準拠的に進めていく組織化という視点から組織現象を説明する概念枠組のことであり、自己組織化は、組織の目標や構造を均衡維持的に保存する保存的自己組織化と、ゆらぎの自己増幅を通じて目標や構造を自己創出していく散逸的自己組織化とに分類できよう。そして、自己組織化モデルという理論と経験的研究との統合、および、組織のマクロな属性とミクロな属性との連結を目的として、組織過程の共時的なパターンを組織構造として記述する概念枠組として、組織構造の三次元モデルを用いた。組織構造の三次元モデルとは、組織構造を、保存的自己組織化過程との関連が深い公式構造、ゆらぎの自己増幅過程との関連が深い創発的構造、および、目標や秩序の自己創出過程との関連が深い非公式構造、という三つの次元から記述する概念枠組のことである。これら二つの概念枠組によって、組織の環境、構造、および、成果の間の変数間関係の理論的根拠を説明する、組織の過程ー構造分析を行うことにした。
 工業デザイン部門を中心とする知識集約的組織を対象とした調査データの分析結果、仮説1:公式構造変数、創発的構造変数、および、非公式構造変数はたがいに独立である、仮説2:公式構造変数は創発的構造変数および非公式構造変数と比べ環境変数の影響を受けやすい、仮説3:成果変数は環境変数および公式構造変数よりも創発的構造変数および非公式構造変数の影響を受けやすい、仮説4:環境変数と公式構造変数との交互作用効果は成果変数に影響を与える、といった仮説はほぼ支持された。さらに、パネル・データの分析結果から、創発的構造の自律性が非公式構造の仕事や会社への支持を向上させ、会社への支持が生産性を向上させる、という知見が得られた。
 このような分析結果は、まず、妥当性や納得性の点において、既存の組織の均衡理論に対する自己組織化モデルの有効性を証明するものであると考えられる。また、このような自己組織化モデルは、産業化や近代化を推進する一方で個人の管理や抑圧の源泉となってきた組織のなかから、「日本的経営」や近代工業社会を超克していく原理を見いだす可能性を示唆するものではないだろうか。

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